Miura's 劇音楽製作所

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theory of relativity (3)



「E=mc2乗」って、何ですか?

 お待たせしました。シリーズ後半では「E=mc2乗」を世界一簡単な方法で導出します。

 相対性理論といえば「E=mc2乗」、「E=mc2乗」といえば相対性理論というくらい、メチャクチャに有名な式であります。エドワード・E・スミスの古典的スペース・オペラ「宇宙のスカイラーク」のセリフを引用しましょう。

 「三億五千マイルだ。太陽系からちょうど半分でかかっている。ということは毎秒一光速の加速度ということだ」「そんな速度で走れるはずはないよ、マート。E=MCの二乗だよ」「アインシュタインの理論はしょせん理論にすぎんのだよ、ディック。この距離は観察された事実じゃないか」

 ワープ航法でも何でもなくて、ひたすら加速推進するだけの宇宙船なのに「理論はしょせん理論にすぎんのだよ」と言うだけで、光速突破しています。スゴいです。完全に理論を無視していますが、とはいえ「黙って無視する」わけにもいかないくらいに有名なのが相対性理論であり、その代名詞が「E=mc2乗」です。

E=mc2乗

 その意味は、質量(m)に光速(c)を2回かけたら、エネルギー(E)の量がそれだけあること。質量そのものがエネルギーの元になっていることを表します。

 具体的な例をあげましょう。ウラン235に中性子1個を吸収させると、ウラン原子は不安定になり、2つの原子核と高速中性子に分裂します。これが核分裂で、たとえばイットリウム95とヨウ素139と中性子2個になります。ウラン235の「235」は、原子核が含む陽子と中性子の合計です。ウランの原子番号は92ですから陽子は92個で、中性子は143個もあります。

【反応前】
ウラン235(92+143)、中性子1個

【反応後】
イットリウム95(39+56)、ヨウ素139(53+86)、中性子2個

 反応前と反応後ともに陽子92個、中性子145個で、その数は変わりません。けれども、核分裂反応では反応の前後で質量がわずかに減ってしまっており、その減少ぶんに光速を2回かけた量のエネルギーが放出されます。核反応だけでなく化学反応でも質量が減っていると考えられますが、その減少分を検出するのは非常に難しいそうです。出てくるエネルギーが核分裂反応にくらべてケタ違いに小さいので、質量の減少もわずかだからです。

 1円玉は1グラムです。これをエネルギーに変えたらどのくらいになるでしょう。
 1グラムは、1/1000キログラムです。
 光速cは3億m/秒です。

 1/1000×3億×3億=90兆(ジュール)ですね。

 エネルギーがデカすぎて、ピンときません。1カロリーは1グラムの水の温度を1℃上げる熱量ですが、1ジュールは約4.2カロリーなので・・・

 90兆(ジュール)/4.2(カロリー/ジュール)=21兆(カロリー)となります。

 1グラムの水が沸騰するには、温度が100℃上がるのに100カロリーの熱量が必要です。1立方メートルの水は1トン=1000キログラム=100万グラムです。すると、1立方メートルの水が沸騰するには、1億カロリーの熱量が必要です。21兆カロリーの熱量は、21万トンの水を沸騰させるぶんに相当します。これだけのエネルギーを一度に浴びせれば、大怪獣を一撃でブチ殺すことができます。スペシウム光線やワイドショットの恐るべき破壊力も、質量換算するとグラム単位なのであった。



「エネルギー」って、何ですか?

E=mc2乗

 この不思議な式を理解するには、まず、E・m・cそれぞれの記号の意味を理解しないといけません。最初に予告した通り、高校の数学と物理が出てきますが、そこはできるだけていねいに説明します。高校の勉強はどうでも良いから、とにかく「E=mc2乗がわかった!」という気持ちになりたい・・・というのは無理な願望ですので、あしからず。

 Eはエネルギーで、単位はジュール(J)です。
 mは質量で、単位はキログラム(kg)です。
 cは光速で、3億(メートル/秒)です。

 ということは、「エネルギー」と「質量」と「速度」を結びつける関係式ですね。キログラムと速度はわかると思いますが、エネルギーとか、その単位のジュールとかは「聞いたことない」「習ったけど忘れた」という方も多いと思います。前回は熱エネルギーの「カロリー」に換算して考えましたが、これからは運動エネルギーを表す「ジュール」のまま扱います。

 1ジュール(J)は、1ニュートン(N)の力で1メートル「仕事」をして加えられるエネルギーです。

 1ニュートン(N)は、質量が1キログラムの物体を1(メートル/秒^2)で加速する力です。これは、1秒ごとに1(メートル/秒)の割合で早さが増すように力を加えることになります。1メートル「仕事」をするとは、物体が1メートル移動する間だけ力を加え続けることです。そして「仕事」とエネルギーは同じものです。

 ここまでポンポンと書いてしまいましたが、いきなり物が動いたり加速する話は難しいので、わかりやすい「位置エネルギー」で説明しましょう。

E=mgh

 これが位置エネルギーです。

 gは重力加速度で、9.8(メートル/秒^2)です。2階の窓から手を出して、持っている物を落とすと、1秒後には(9.8メートル/秒)の速度に達します。hは高さで、単位はメートルです。

 質量1キログラムの物体を、地面から1メートルの高さだけ持ち上げるのに必要なエネルギーは9.8(ジュール)です。持ち上げた人は物体に対して9.8(ジュール)の仕事をしたことになります。また、物体は9.8(ジュール)の位置エネルギーを獲得しました。

 ここまでが必要な知識です。この後は運動量と力積と微分・積分が出てきます。



「ウ」は運動エネルギーの「ウ」

 今回は、高校で物理を勉強した方のためのオマケです。

 物体を自由に落下させると(空気の抵抗が無ければ)地上に到達したときに位置エネルギーは0(ジュール)となり、運動エネルギーが9.8(ジュール)になります。

E=(1/2)mv2乗

 これが運動エネルギーです。この式も高校で習います。

 地上に到達したときの物体の運動エネルギーはE=9.8(ジュール)なので、スピードは、

v=√(2×9.8)=4.43(メートル/秒)です。

 ちなみに落下距離は(1/2)gt2乗となるので、1メートル落下するまでの時間は

t=√(2/9.8)=0.452秒です。

 ストップウォッチがあれば、1メートルの高さから物を落として実験できますね。



一気に「E=mc2乗」まで

 それでは一気に「E=mc2乗」まで到達します。チョット長いですが、がんばってほしいと思います。

 それと、今回は高校数学の微分と積分が出てきます。微積はダメなのよ!という方、ごめんなさい。「k計算法」で、兄と弟の時間の伸び縮みを説明するまでは四則演算と平方根だけだったので、そこまでで許してください。

 宇宙空間に質量mキログラムの物体がポッカリ浮かんでいます。  この物体にFニュートンの力を加えて加速しましょう。

F=ma

 これはニュートンの運動の第2法則で、「力=質量×加速度」の関係を表します。

・力はFニュートン
・質量はmキログラム
・加速度はaメートル/秒^2
となります。

 加速度は「時間あたりの速度の変化量」であって

a=dv(t)/dt
となります。

 「v」ではなく「v(t)」と書いたのは、速度vが一定ではなく、時間の経過とともに速くなるからです。つまり、速度が時間の関数になっているのですね。そして「dv(t)/dt」は、速度の時間微分を表します。速度を時間で微分したものが加速度であり、これがtによらない一定値aなら「等加速度運動」です。

 ここで短い時間を「Δt」、その短い時間で物体に加えられるわずかなエネルギーを「ΔE」で表すことにします。

ΔE=F・v(t)Δt
となりますね。前回説明したように「エネルギー=力×距離」であって、「v(t)Δt」が距離を表します。

 再び宇宙空間に質量mキログラムの物体がポッカリ浮かんでいます。今度は速度v(メートル/秒)で運動していることにします。物体が運動していなかったら、観測者のほうが運動すれば同じことです。

 この物体にFニュートンの力をΔtの時間だけ加えて加速しましょう。

m・v → 力を加える前の運動量です。
m(v+Δv) → 力を加えた後の運動量です。
m・Δv=F・Δt → 力を加える前後の運動量の差です。

 運動量の差とは、すなわち「力積」です。力積とは、力Fと「その力が作用する時間Δt」の積でもあります。

ここで、地球から飛び立った兄のロケットを弟が観測する例を思い出してください。

【再掲〜弟の視点では、兄の質量が増えた】

 弟の視点では、質量のある物体(兄の乗ったロケット)が、いくらエネルギーを使って加速しても光速に達しないことになります。これは「速くなると質量が増大するからだ」ということにすれば説明できます。そんなの単なるツジツマ合わせでじゃんか!と感じた方、ごもっともです。ですが、実験や観測の結果が理論を裏付けてきたので、誰も文句のつけようがありません。

【再掲ここまで】

・・・というわけで、速度を増すと質量が増加するのでした。

 今度は、ある物体が光速cに近いスピードになっており、これ以上いくらエネルギーを加えてもほとんど速くならないで、質量が増すばかりであるとします。

ΔE → さらに加えるエネルギーです。
Δm → それだけのエネルギーを加えたときの質量増加です。

ΔE=F・v(t)Δt
という先で示した関係において、「v(t)」は、ほとんど一定の「c」なので

ΔE=F・c・Δt
F=ΔE/(c・Δt)
となります。

 運動量が増加するときは、普通は「質量が一定で速度が増加」しますが、この例では速度が一定のcで質量のほうが増加します。だから運動量の増加は「Δm・c」です。

力を加える前後の運動量の差=F・Δt ← 上で出てきた。
力を加える前後の運動量の差=Δm・c ← いま出てきた。

F・Δt=Δm・c
F=Δm・c/Δt
となります。

 これに「F=ΔE/(c・Δt)」代入して

ΔE/(c・Δt)=Δm・c/Δt
ΔE/Δt=Δm・c2乗/Δt

 「ΔE」と「Δm」は、微小時間「Δt」における変化量だから、時間で微分したのと同じです。これを積分すれば、おまちかねの式が登場します。

E=mc2乗
 積分したから積分定数Cが現れるはずですが、エネルギー増が0のときに質量増が0となるはずなので、C=0としました。

・運動量
・力積
・微分
・積分

 「ローレンツ変換」や「4元ベクトル」に触れず、高校で学習する内容のみで「E=mc2乗」に到達しました。これが世界一簡単な方法です。たぶん。

 これで大きなヤマは超えました。このあとは「こんな計算やって、良かったのか?」という検証をします。



アインシュタインの霊感・ヤマカン・第六感

 ついに「E=mc2乗」を導出したのが前回です。

 何かゴマかされたような気がした方もいらっしゃるでしょう。そらぁ、そうです。確かにエネルギーと質量の関係を導きはしましたが、その「質量」が、普通の質量ではありません。光速に近い猛烈なスピードが出ている状況で、さらにエネルギーを投入したときに「質量が増えたようにみえるぶん」という、ワケのわからない質量です。

 やはり我々にとってなじみ深いのは、増加する前の普通の質量。「静止質量」ですよね。

 前回導出した「E=mc2乗」が、静止質量にもそのまま通用するのか?と問われると、じゃっかん心もとなく感じますが、それでも「質量」は「質量」であって、「質量に貴賤上下の区別なし」「天は質量の上に質量を作らず、質量の下に質量を作らず」とも言いますので、ひらきなおっておきましょう。

 それよりも、問題があるのはむしろ一般の教科書や解説書です。もっとさかのぼると、アインシュタイン先生です。ゴマかしているのは、彼のほうなのです。ほとんどヤマカンで「エネルギー=静止質量×光速の2乗です」と言ってのけました。それが正しいことは、後から実験によって確かめられたのです。

 普通の本には、前回示したのとは違う説明・・・すなわちローレンツ変換と4元ベクトルにもとづいて説明してあります。それでも「E=mc2乗」の導出にあたって、やはり積分計算が出てきます。良心的な教科書には、そこのところで「エネルギー=静止質量×光速の2乗になる様に、積分定数を選択しました」と書いてあります。もっとスゴい本には「エネルギー=静止質量×光速の2乗になる数学的な根拠なんか全然無いのに、アインシュタインが勝手に決めた」みたいなことが書いてあります。マジです。

 もちろん「勝手に決めた」とまでは書いてありませんけど。

・さすがアインシュタイン、見事な霊感であった
・「自然はシンプルに違いない」というアインシュタインの信念

という美しい表現になっております。

 そして一般向けの解説書では、たいてい「ハイッ!エネルギー=静止質量×光速の2乗になりましたね!」と書いてオシマイにしています。それにくらべると「サルでもわかる相対性理論」は良心的で、かつレベル高いですよ。マジです。

 前回行なった「E=mc2乗」の導出は、既存の本を参考にしているものの、全体の流れを表す計算式、そして最後が「ゴマカシ」ではなく「ひらきなおり」である点は、私のオリジナルです。相対性理論は、様々な角度から思い描くことができるので、百人百様の解説が可能なのです。

 そのはずなのですが、しかし大きな書店の棚に20〜30冊も並んだ本の内容は、似たりよったりの感もあります。



補修講義の時間ですよ

 「E=mc2乗」の導出が「簡単すぎて物足りなかった」という方のための補講をやります。高校までの数学と物理はしっかり勉強しましたと、胸を張って(あるいはやや下方を見ながらでも)言えるような方が対象です。

 位置エネルギーを表す「E=mgh」のほかに、運動エネルギーを表す「E=(1/2)mv2乗」という式も、高校物理の重要なポイントです。運動エネルギーは速度の2乗に比例するのですね。そのことは運転免許取得の際に学科講習で教わります。時速50キロで走る自動車の運動エネルギーは、時速40キロにくらべて5/4=1.25→25%増し・・・ではなくて、25/16=→1.56→56%増しです。そのため、衝突事故を起こしたときの衝撃がたいへん大きくなるのですね。スピードは控えめにしましょう。

 「E=mgh」が位置エネルギーであることは、質量に比例して高さにも比例することから直観で納得できますが、「E=(1/2)mv2乗」が運動エネルギーだというのは、2乗の部分がちょっと難しいです。でも、形式が「E=mc2乗」に近いですよね。vは速度ですから、もしこれが光速cであれば、たちどころに・・・

E=(1/2)mc2乗
となります。

 ぶっちゃけ、(1/2)がついているかどうかの違いしかありません。高校で習った式から(1/2)をとれば、それでもう「E=mc2乗」に到達するのだから、高校物理から相対性理論へのステップアップは楽勝っぽい気がします。そのような発想から、「世界一簡単な方法」をご紹介しました。

 ところがどうゆうワケか、一般向けの解説書では「E=(1/2)mv2乗」という、高校レベルの運動エネルギーの式などは解説されていないことがあります。それはおかしいでしょう。「E=mc2乗」とは、エネルギーと質量と速度の関係を表す式なのですから、まずはその関係をニュートン力学や高校物理のレベルでしっかりと理解することが肝要です。

 そこんところをスッとばして、とにかく読者を「E=mc2乗がわかった!」という気持ちにさせたいよ・・・などと画策するのはサル以下です。そのような事情から、いつまでたっても似たような本が出版されて、多くの人が同じような本をまた買って読んでは「いまいちワカらなかった」と嘆きつつ、またしばらくすると再び似たような本を買ってしまうという、永久無限運動を繰り返すのであった。

 まぁ、既存の解説書を「サル以下」呼ばわりするのはあんまりですけれど。それでも「E=(1/2)mv2乗」を理解していない人が「ローレンツ変換」や「4元ベクトル」をコネくりまわして、形式的に「E=mc2乗」という数式を得たとしても、その知識がしっかりと血肉になるのでしょうか。



E=(1/2)mv2乗

 というワケで、高校で習う「E=(1/2)mv2乗」を説明します。

 宇宙空間に質量mキログラムの物体がポッカリ浮かんでいます。
 この物体にFニュートンの力を加えて加速しましょう。

F=ma

 これはニュートンの運動の第2法則で、「力=質量×加速度」の関係を表します。

・力はFニュートン
・質量はmキログラム
・加速度はaメートル/秒^2
となります。

 加速度は「時間あたりの速度の変化量」で
a=dv(t)/dt
となります。

 ここで短い時間を「Δt」、その短い時間で物体に加えられるわずかなエネルギーを「ΔE」で表すことにします。

ΔE=F・v(t)Δt となりますね。

 「F」は物体に加え続ける一定の力、「v(t)Δt」は速度v(t)でΔtの時間動いた距離です。既に説明した「エネルギー=力×距離」の関係を表します。

F=ma=m・dv(t)/dt
を代入しましょう。

ΔE=m(dv(t)/dt)v(t)Δt

 微小量を表すΔをdに変えて、時間で積分すると

E=(1/2)mv(t)2乗
となります。

 積分したから積分定数Cが現れるはずですが、エネルギー増が0のときに速度増が0のはずなので、C=0としました。

 積分計算が正しいことを確かめるには、これを微分すればよろしい。

E=(1/2)mv(t)2乗

 この式の左辺は単純にtで微分します。右辺は「v(t)」で微分してから「dv(t)/dt」をかけます。

dE/dt=m・v(t)(dv(t)/dt)
dE=m(dv(t)/dt)v(t)dt

 微小量を表すdをΔに変えれば、元通りです。これで確かめられました。