Miura's 劇音楽製作所

作曲家 三浦仁志 WEBサイト
トップへ戻るこのサイトについてお問合せ、音楽制作のご依頼はこちらまで。

「コラム」のトップに戻る

theory of relativity (4)



「一般相対性理論」って、何ですか?

 特殊相対性理論を中心に、サルでも概ねわかるように解説してきました。こんどは一般相対性理論です。

 最初にお断りした通り、「サルでもわかる」というレベルでは、一般相対性理論の計算について理解するのは無理なので、「雰囲気だけ」になります。そのぶん特別大サービスして「ブラックホール」「重力レンズ効果」「ホワイトホール」「ダークマター」の話題をズラズラッと紹介しましょう。これらは一般相対性理論によって理解できる・・・ということを知っているだけで、少しお得な気分になれます。

 というワケで一般相対性理論を概観します。「一般」が「特殊」と違うところは、加速度運動や重力場を扱うことです。具体的な計算をするにはテンソルが必要ですが、テンソルの話題は避けて、「重力や加速度があるとどうなるのか」を直感的に簡単に説明しましょう。



「等価原理」って、何ですか?

 まずは重要な「等価原理」です。「等価原理」とは「重力のはたらきと、加速度運動する系での慣性力を区別することはできない」というものです。これは直観的に思いっきりアタリマエっぽいことですが、これが一般相対性理論のキーになる考え方でした。アインシュタインにとっては自分の生涯で最も幸福なアイデアだったそうです。

 「等価原理」の説明には、必ずエレベーターが出てきます。何も無い空間に無重力の状態で浮かんでいるエレベーターと、地球表面に向かって自由落下するエレベーターがあります。このエレベーターに乗っている人にとっては、自分がどちらの状態か区別できません。

 今度は、地表に置いてあるエレベーターです。中の人は重力を感じます。宇宙空間に浮いているエレベーターに下側から力を加えて加速して、その加速度を地表での落下加速度と同じにします。すると、エレベーターの中の人は、自分が加速されているのか重力を感じているのか区別できません。

 このような考察をもとに「加速と重力は同じだね」と考えるわけです。



加速と重力は同じですか?

 「加速と重力は同じだね」という「等価原理」の話題を続けます。例によって双子の兄弟にご登場願いましょう。

 なんだか怖いハナシですけれど、地球表面に向かって自由落下するエレベーターがあると思ってください。このエレベーターの壁の一部からレーザー光線が発射されて、反対側の壁に到達するとします。エレベーターに乗っている人(それが双子の兄!)にとって、レーザー光はまっすぐ進みます。等価原理によれば、宇宙空間に浮かんでいるのと同じですから、それは感覚的に納得できるでしょう。

 ところが、その様子をエレベーターの外から観察する人(それが双子の弟!)には、どのように見えるでしょう。レーザー光が、一方の壁から他方の壁に進む間にもエレベーターは落下しているのです。そのため、レーザー光はあたかも重力によって曲がったように見えます。光には質量が無いのに重力によって軌道が曲がるのは妙なのですが、実際に曲がります。しかしその曲がり方は「投げた石などが重力によって曲がる」として計算した値の2倍になります。ソコんところは、一般相対性理論によって「空間の曲がり」を計算しないといけないのですね。



加速と重力で時間が伸び縮み

 お次は重力によって時間の流れ方が変わるというハナシです。

 地球の表面に弟がいます。地球から十分離れた場所・・・引力の影響がほとんど無いほど遠くに兄がいるとします。兄はエレベーターに乗っています。そのエレベーターは、地球から届く弱い弱い引力の影響によって少しずつ地球に近づきます。地球に近づくほど引力が強くなるので、だんだん速度を増していきます。そして、最後は猛スピードで地球の表面に達します。

 はたして兄の運命やいかに・・・という悲惨なシーンを想像するのではなく、地球の表面に達したときの速度を考えます。仮に空気の抵抗が無かったら、遠方にいたときに持っていた位置エネルギーが、すべて運動エネルギーに変換されたことになります。その速度は簡単に計算できて、特殊相対性理論の計算で時間の流れ方を計算することができます。

 兄の状態は地球から離れているときから、地表に達するときまで変化は無いので、「地表での時間の流れ方」を計算すれば「離れている状態での時間の流れかた」もわかるという寸法です。難しいテンソル計算が必要とされる一般相対性理論も、感覚的に理解することはできるのですね。

 といっても、特殊相対性理論とは違うところがあります。「兄から見た弟」と「弟から見た兄」が対等ではないのです。すなわち、ずっと重力にそくばくされていた弟の時間の流れがゆっくりになっていて、弟から見た兄はゆっくりにならないのです。ロケットで宇宙を旅して地球に戻ってきた兄が2年ぶんフケて、そのとき弟が20年ぶんフケた例と同じで、一般相対性理論では兄弟の関係が対等になりません。



「ブラックホール」って、何ですか?

 一般相対性理論にまつわるキーワードで有名なものは、この3つでしょう。

(1)ブラックホール
(2)重力レンズ効果
(3)重力による赤方偏移

(1)ブラックホールはとにかく有名ですが、ブラックホールと一般相対性理論の関係を説明できる人は少ないと思います。

 一般相対性理論には「アインシュタイン方程式」という超難しい方程式が出てきまして、無責任なことにアインシュタイン自身も解けない状態で式だけ発表しました。「誰もこんなの解けないだろう」と思っていたら、発表されたその年のうちに、カール・シュバルツシルトという人が「球対称形状をした星が作る重力場」という、極めて限定的で簡単だけれども実際にとても役立つ条件を想定して、方程式の解を求めてしまいました。

 シュバルツシルトの後にも、いくつかの解が得られましたが、私が勉強したレベルの本に書いてあるのはシュバルツシルト解だけです。これによると、「事象の地平」と呼ばれるシュバルツシルト半径というものが得られて、その半径の内側からは光すら脱出できません。これがブラックホールです。太陽を思いっきり圧縮すると、半径3キロメートルのブラックホールになるそうです。

 ちなみにシュバルツシルト半径<の長さを求めるだけだったら、光が「質量のある物質」であるかのように扱って、脱出速度=光速の条件から普通の力学(ニュートン力学)で計算できます。

・シュバルツシルト半径

 SFによく出てくるホワイトホールとは、シュバルツシルト解を求めるときに数式をヒネクリ回すと、形式的に「他にも解がある」ということになって、それに対応するものです。2次方程式の解が、ルートにつく符号の±で2つあったりするアレです。教科書によれば、たぶんホワイトホールは実在しないだろう・・・とのこと。ちょっと残念。



「重力レンズ効果」って、何ですか?

(2)重力レンズ効果は、日食の観測に関連して有名ですね。月が太陽の輪郭を隠した瞬間、太陽の向こうにあるはず(だから本当は見えないはず)の星が、太陽の横っちょにあるかのように見えてしまう現象です。

 もっと壮大な重力レンズ効果もありまして、ダークマター(暗黒物質)と呼ばれる、謎の星間物質による重力レンズ効果で、遥か彼方の銀河系の姿が三日月状やリング状の姿で観測されます。銀河がそんな形してるはずないので、何ものかが光を(そして空間を)曲げているのです。

(3)重力による赤方偏移は地味ですが・・・大きな恒星から発せられた光の振動数が、実際よりも小さくなって飛んでくる現象です。重力が強い場所では時間がゆっくり流れるので、外の世界から観測するぶんには光の振動数が小さくなるのですね。振動数が小さくなっても光速は一定不変なので、波長が長くなります。波長が長くなるのは、色でいうと赤い方向へのシフトなので「赤方偏移」と呼びます。

 その他に
(4)水星の近日点移動
というのがあります。

 これまた地味な話なので、宇宙論の解説やSFなんかではあまり見かけません。ですが、これまでに説明した様に、「定性的には」あるいは「感覚的には」とっても簡単なことです。水星は太陽を楕円軌道で回ります。太陽に最も近付いた点(これが近日点)において、太陽の重力場が強くなります。そのとき、空間の曲りの影響を受けて、重力レンズで光が曲げられるのと同じ効果で、クイッと余計に軌道が曲がるのですね。そのため、一周するごとに近日点の位置が変わります。この相対論効果が無ければ、近日点は一定なので楕円軌道が固定されて変わらないはずなのです。

 まぁ、実際は木星などの影響によっても水星の近日点は移動します。20世の紀初めまでに観測された近日点移動には、他の惑星の影響だけでは説明できないぶんが残っていて、それを一般相対性理論が見事に説明しました。



参考文献

 最後に参考文献を紹介します。今回読んだのは、この3冊です。

(1)講談社基礎物理学シリーズ第10巻「相対性理論」
 杉山直(著)、二宮正夫・北原和夫・並木雅俊・杉山忠男(編)とクレジットされています。どの部分を誰が書いたのか、ハッキリして欲しいものです。教科書スタイルで、演習問題もたくさんあります。問題の解説が手抜き無しで詳しく書いてあります。これなら文句なく大学レベルでしょう。テンソル解析の記述がアッサリしているので、相当しっかり勉強しないと途中から何が書いてあるかわからなくなるのが玉にキズです。

(2)一石賢著「道具としての相対性理論」
 賢いアイン(一つの)シュタイン(石)こと一石賢の本です。タイトルにある「道具としての」は、本を売るための便宜上のもので、内容と全然関係ありません。道具としての使い方ではなくて、理屈をしっかりと説明しています。とくにテンソル解析の計算を細かくしつこくネチネチと書いてあって、シュバルツシルト解の計算までバッチリです。(1)を補完するのに好適でした。

(3)長沼伸一郎著「一般相対性理論の直観的方法」
 著者独自の解釈で唯我独尊を貫きとおす、すんごい本です。タイトルが「一般相対性理論〜」なのに、テンソル解析の話がまったく出てきません。すなわち一般相対性理論をフツーの微分方程式で解決し、シュバルツシルト解もアッサリ求めてしまいます。しかも本の後半には、相対性理論を超越した著者独自の理論がバンバン書いてあります。こんな本が1990年に出版されていたとは驚きです。

 長沼伸一郎には「物理数学の直観的方法」という名著があり、それを今ではブルーバックスで読むことができます。その人の書くことだからきっとスゴいに違いない・・・と考えて、とにかく読んでみたのですね。とにもかくにも相対性理論に関わる部分はなんとか理解することができました。

 以上紹介したご本のおかげさまで、直観的な理解は(たぶん)バッチリですよ。ただしテンソル解析の計算は、数式を追っていくのがやっとですけれど。(^^;)

 ブルーバックスには竹内敦著「高校数学でわかる相対性理論」もあります。この本は高校数学と銘打っているだけあって、数学重視、数式重視です。それが私にはよく合っていたみたいです。オボロゲだった相対性理論が、この本でようやくわかってきましたから。そして講談社基礎物理学シリーズの教科書スタイルによって、やっとこさ理解できました。ある程度理屈っぽい書き方のほうが、私にとってはわかりやすいのですね。

 (1)(2)(3)と「高校数学でわかる相対性理論」は、いずれも「高校まではしっかり勉強した」という人が対象です。とくに(3)なんかは「中盤以後は文科系は対象外です」と、前書きでどうどうと断っています。

 「サルでもわかる相対性理論」は、高校までの数学が少々あぶない人、一般向けの解説書を読んでも「わかった」という気分になれなかった人、ローレンツ変換がピンとこなかった人を対象に企画しました。全部で10回くらいのつもりでいましたが、下書きしていくうちに欲が出て、「E=mc2乗」まで踏み込みました。「E=mc2乗」を世界一簡単に導出する理屈は、(3)の内容をを参考にしながらも、できるだけ簡単スッキリするように私なりに構成したものです。

 それでは、ごきげんよう。