交響詩
ガンダム


「眠りより」「珠玉の人」
「大地を発って」「遭遇の宇宙」「ララァ・ときめき」
「疾風のように」「女たちよ」「戦場空域」
「ソーラ・パワー」「黎明」
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CD KIKA-2081~98 機動戦士ガンダム CD-BOX


 '79〜'83年にかけて発売された「TVシリーズ」「TVシリーズのドラマ編」「交響詩」「劇場版」「劇場版のドラマ編」「テーマソング集」「未使用BGM集」全14タイトル、18枚をデジタルリマスタリングでCD化。LPレコードをミニチュア化した紙ジャケット仕様で、帯やレーベルも当時のLPを模したデザイン。ほぼLPサイズのジャケット画集、ポスターや当時の封入特典、関係者の座談会や対談も収録。究極形態で商品化された超豪華BOXである。




推奨盤
CD KIKA-2005 交響詩ガンダム


指揮:小松一彦
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団


 渡辺岳夫のオーケストラ編曲をじっくり聴ける、ほとんど唯一のアルバムだ。「交響詩」というタイトルではあるが、全十曲からなる組曲である。渡辺岳夫作編曲と松山祐士作編曲に分かれているのが特徴。実際の編曲者もクレジットの通りだろう。しかしそれまでにつちかった両者の一体感が全編に筋を通している。松山作編曲はおおむねシンフォニックな部分を担当している。渡辺作編曲のうち、「珠玉の人」「ララァ・ときめき」「女たちよ」は叙情的で、ラスト二曲「ソーラ・パワー」「黎明」でダイナミックに聴かせる構成。TVシリーズ終了後、レコードともにオーケストラスコアも発売された。2010年には吹奏楽スコアとして「眠りより」「疾風のように」が出版されている。


I眠りより作曲・編曲:松山祐士
II珠玉の人作曲・編曲:渡辺岳夫
III大地を発って作曲・編曲:松山祐士
IV遭遇の宇宙作曲・編曲:松山祐士
Vララァ・ときめき作曲・編曲:渡辺岳夫
VI疾風のように作曲・編曲:松山祐士
VII女たちよ作曲・編曲:渡辺岳夫
VIII戦場空域作曲・編曲:松山祐士
IXソーラ・パワー作曲・編曲:渡辺岳夫
X黎明作曲・編曲:渡辺岳夫


LP K25G-7001「交響詩ガンダム」(廃盤)
CD KIKA-2005「交響詩ガンダム」




I 眠りより


作曲・編曲:松山祐士


 作曲・編曲は「Youshi Matuyama」とあり、「You」を英語的に「ユー」と読ませる。フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット(B♭)2、バスーン2、ホルン(F)4、トランペット(C)4、トロンボーン4、チューバ、ハープ、ティンパニ、グロッケン、ビブラフォン、シンバル、弦5部(第1、第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス)といった楽器が楽譜に記してあるが、実際の演奏が正確にその通りかどうかまではわからない。弦楽器の人数も不明。松山編曲のトランペットはinCで記譜してあるが、渡辺編曲譜はすべてinB♭で書かれている。それぞれC管やB♭管による演奏なのかも不明である。


A Lento tranquillo
 冒頭はティンパニのソロで、ピアニシモ。C音とG音(4度下)の、2つの音程のみによる演奏。音量がとても小さく、LPで聴くのはツラかった。LPをお持ちの人でも、CDで聴いてみたくなるところだろう。逆に言うと、それだけのダイナミックレンジがこの曲にはあるのだ。


B
 チェロとコントラバスが「G→A♭→F#→G」という半音階。やがてヴァイオリンとビオラが加わって、「眠り」を終わる。


C Andantino animato
 「目覚め」の動機である。この部分からテンポはほとんど2倍になる。モチーフは「サントラ第1集/長い眠り」だ。
 この動機は二声であることに注意されたい。例えば最初はC音とG音で、三度に相当するE音またはE♭音は無い。譜面ではC音とG音それぞれを、ホルン2本ずつ、トロンボーン2本ずつあてている。3〜4小節はG音とD音でドミナントに相当するが、やはり三度が無い。メジャーでもマイナーでも無い荘厳な響き。ただしヴァイオリンとビオラの7連符かけあがりはマイナースケールになっている。
 5小節目(正しくは4小節目最後の16分音符)から木管とトランペットが加わり、ようやく明確なメジャーコード「ドミソ」となる。これが「目覚め」である。


D
 ヴァイオリンの主題だが、ここもヴァイオリンとビオラによる基本的には二声である。同じ二声でも目覚めた後ではやや軽い三度間隔になっている。今なお暗い宇宙空間では、ハープ・グロッケン・ビブラフォンが静かにまたたいている。


E
 4小節のブリッジに相当する。劇伴音楽でいうブリッジ(短い曲)ではなく、ツナギの部分。弦が加わる4小節目は poco piu mosso で、コードはBメジャー。


F a tempo
 引き続き「長い眠り」の主題だが、いよいよ「E〜G〜F〜E〜、GCDF〜ECD♪」の登場である。まずは弦楽による演奏で、ヴァイオリンとビオラの(オクターブ)ユニゾン。コード表記すれば「C|C|C|B♭」で、「C→B♭」という展開がいかにも渡辺的(あるいは渡辺・松山的)。このパートは後半の中心主題を提示する部分であると解釈する。Cメジャーで提示しているが、以下は転調の連続となる。


G
 同じ主題を今度は木管楽器群で、ハモッて、二度上のinDで演奏する。「サントラ第1集/長い眠り」の展開は「C→B♭→D」なので、同じ流れでDメジャーに転調している事がわかる。ただしスコアに調号は無く、すべて臨時記号で処理してある。このパートはわずか3小節で、次パート頭へは自然に「D→C」と進む。


H Poco piu mosso
 C調にもどって、「サントラ第1集/戦いへの恐怖」の主題。


I
 「戦いへの恐怖」を今度はE調で。


J
 金管楽器群によるブリッジ。ティンパニのロールとシンバルで、一気に盛り上げる。


K Poco piu mosso
 F・Gパートと同じ主題を、最後はinGで、オーボエ以外の全管弦で演奏する。ここはフルートの一人がピッコロに持ち替えることになっている。進行は当然「G→F」で、Fメジャーの華々しいsffzでクライマックスを迎える。
 そしてオーボエのソロである。「F→B♭」という四度進行で展開する。


L meno mosso
 「目覚め」の動機を、inCより長二度低いinB♭で繰り返す。
 最後は再びティンパニソロでC音とG音、そしてオケ全員でB♭音→C音のsffzで終わる。この部分はinB♭で「レレラレラ、レレラレレラ、ド、レ」にも聞こえる。またCの曲なのだから、inCで「ドドソドソ、ドドソドドソ、シ♭、ド」にも聞こえて不思議だ。




II 珠玉の人


作曲・編曲:渡辺岳夫


 フルート2、オーボエ2、クラリネット(B♭)2、バスーン2、ホルン(F)4、ハープ、小太鼓、トライアングル、弦5部。金管楽器はホルンのみだ。


A Lento
 序奏である。オーボエのソロ。渡辺的なクネりを伴う上下動で、哀悼を誘う。
 テーマはフルートへ。オーボエは弦とともにバックにまわる。「FM7|FM7|Em7|Em7|B♭|B♭|Am7|Am7」という典型的なべたけ進行。コントラバスを除く弦の和音構成はドロップ2で、並行進行する。すなわちFM7を上から順に「ECAF」とせずに、E(VlnI)、A(VlnII)、F(Vla)、C(V.C.)としている。コントラバスの動きは「A|A|G|G|B♭|B♭|A|A」で、コードのルートにこだわっておらず、展開感を優先している。「Sordino Ponticello」の指示がある。弱音器を駒にはめこんで(Sordino)、さらに駒近くを弦でこすって(Ponticello)繊細な音色にすること。
 フルートのソロから「Gm|A|A」として、渡辺岳夫の大好きなAメジャーが上品な「続く」感を漂わせて序奏を終わる。Aメジャーの構成音は「E、C#、A」だが、テーマのフルートおよび第2ヴァイオリンがE音なのは良いとして、C#音はビオラのみ。残りは全部A音だ。渡辺編曲のAメジャーでは、ときに3rdを控えめにする。


B Andantino
 珠玉のテーマである。「サントラ第1集/平和への祈り」の後半部分がモチーフになっている。渡辺ガンダムを代表する、まさに珠玉の名旋律である。このパートも岳夫節の真骨頂「FM7→Em7」を軸に展開する。
 第1ヴァイオリンが主題で、他の弦4部が伴奏する。すなわちFM7をE(VlnII)、A(Vla)、F(V.C.)、C(C.B.)としている。上から2番目の音をオクターブ下げるボイシング(和音をつけること)の手法だ。例えば上から順に「ECAF」→「EAFC」とすると和音が豊かに響く。いわゆるドロップ2のアレンジは、2nd音をテンションに変更することがある(ここはしていない)。そしてこの弦群は「たんたん」と、「たんたん」と、胸に迫ってくるのだ。
 9小節目からのテーマは、祈りを込めた「EFGABGDE|DEDBGEDB|C♪」だが、スコアには「EFGABGDE|DEDBGFED|C♪」とある。誤記かもしれず、演奏を変更したのかもしれない。この部分は並進行ではない。構成音は上から順に「EAFC(FM7)|DBGE(Em7)」としている。トップが下がってボトムが上がって、これまた胸に迫ってくるのだ。


C
 引き続き珠玉のテーマ。木管群とホルンが加わってフォルテで演奏する。バッキングの編曲は、ベースがルートを明示する事よりも、トップの7thをカッコ良く鳴らすことに眼目を置いている。ここでは特にホルンが鮮やかなのだ。


D Lento
 最後は再びオーボエのソロ。「(FM7→)E♭M7→Dm7→G→A♭M7→CM7」一時的に転調したようなE♭M7や、GとCの間のA♭M7が優雅にしてオシャレで気高い。スネアドラムは最後まで「たんたん」と珠玉の人を見送る。弦も気高くPonticello。ラストのハープはCM9で、9thのD音でしめくくる。




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