斉の歴史　　

鶏鳴狗盗の輩

王の二十四年（前３００年）、秦の��陽君（公子）が人質として斉に入った。翌年��陽君が秦に帰ると、今度は孟嘗君が秦に入り、秦の昭王（昭襄王）から宰相に任じられた。

孟嘗君は王の叔父・靖郭君（田嬰）の息子で、姓名を田文と言う。靖郭君には四十人余りの子がおり、しかも田文の母は身分の低い妾であったが、彼が他の子より優れていると見て、田文に家の取り締まりと食客との応対を任せたのである。靖郭君は多くの食客を養っていたが、彼らの間でも田文の評判は高く、靖郭君が亡くなると彼が後を継いで薛公となった。

孟嘗君は領地の薛にあって、食客に対してはどんな身分の者でも分け隔てなく接しため、諸国から彼のもとに人が集まり、食客の数は数千人にも上った。当然彼の名声は他の諸侯にも知れ渡った。そこで秦の昭王が彼を自国に招いて宰相とし、代わりに弟の��陽君を人質に差し出したのである。孟嘗君が秦に行くことについて、蘇代（蘇秦の弟）を始めとする食客達が反対し、彼自身も渋ったが、結局断りきれずに、王の二十五年（前２９９年）、秦に行くことになった。

昭王はすぐさま孟嘗君を宰相としたが、やがて「彼は賢人で、斉王の一族でもあります。宰相となったら斉の利益を図り、我が国に害を為すかもしれません。」という讒言を受けて、彼を監禁し、殺してしまおうと考えるようになった。

孟嘗君は身の危険を感じると、昭王の寵姫に取りなしを請うた。彼女は昭王に取りなす代わりに、孟嘗君の持つ白い狐の皮衣が欲しいと条件を付けた。その皮衣は天下に二つと無い名品であったが、秦に入国した時に昭王に献上してしまっていたのである。そこで彼の食客の中で盗みが巧い者が名乗り出て、その皮衣を盗み出すことになった。彼は夜になると犬のまねをして秦の宝物庫に忍び込み、首尾良く皮衣を盗み出して昭王の寵姫に贈った。

彼女の口利きで孟嘗君一行は釈放され、夜半に函谷関までたどり着いたが、その関門は夜明けを告げる鶏の鳴き声がするまで開かないという決まりになっていた。一方の昭王も彼を釈放したことを後悔し、追っ手を遣わしていた。そこで今度は食客の中でも鶏の鳴き声が巧い者が名乗り出て、彼が鳴き声をあげると他の鶏も一斉に鳴き始めた。そうしてようやく孟嘗君一行は秦から脱出することが出来た。鶏鳴・狗盗の二人は卑しい身分の者として他の食客から蔑まれていたが、今この二人のお陰で彼ら一行は虎口を脱出することがかなったのである。

途中趙に立ち寄ったときに、平原君のもとに招かれた。趙の人々は孟嘗君を一目見ようと集まってきたが、「薛公はさぞ立派な方なんだろうと想像していたが、実際に見てみるとただのチビじゃないか！」と笑い者にした。これを聞いた孟嘗君は立腹し、食客達は付近の住民を皆殺しにしてしまった。

さて王は孟嘗君を他国に出してしまった失策に気付いていたので、彼が帰還すると斉の宰相に任命した。

王の二十六年（前２９８年）、孟嘗君は秦への復讐のため、韓・魏とともに秦を攻めることを決定し、函谷関に布陣した。二十八年（前２９６年）、秦との和睦が成立して斉に凱旋した。

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