金烏工房東征記
2 海風書店&真善美 − 散財の始まり −
駅から近い真善美がまだ開店時間になっていなということで、我々は先に海風書店に寄ることにした。店に入ると、眼鏡をかけた店主さんが我々を迎えてくれた。店内には、さきほど駅で別れたばかりの黄虎洞老師が立ち読みをしていた。
私は店内に所狭しと並べられた本を見て、すっかり舞い上がってしまった。店内をあちこち移動して回って、どこに何が置いてあるのかを把握していった。店が狭い割に、えらく品揃えが良い。京都では見つけられなかった本がたくさん並べられてあるのを見て、私は驚喜した。私は楊樹達『積微居金文説・甲文説』という本を手に取った。卒論を書くときにお世話になった本である。元々大陸で出版された本であるが、ここにあるのは台湾製であった。取り敢えずこれは買っておくことにする。
※ 以下は余談。帰宅してからこの『積微居金文説・甲文説』を見ていると、所々に三文字ぐらいの空欄がある。「印刷ミスかな?」と思ったが、そうではなかった。よくよく見てみると、この空欄には例外なく郭沫若の三文字が入るのだ!つまりおそらくは当局の検閲を受けて、意図的に郭沫若の名前が削除されていたのである。郭沫若の存在は台湾ではタブーになっているのか!?確かに大陸では、彼は学者としてだけではなく、政治家としても大物であったが・・・
他には何か良さそうな本は無いかと見てみると、竹添光鴻『左氏会箋』の海賊版を発見!やはり台湾製である。これは日本人が書いた『春秋左氏伝』の注釈書としては最も有用なもので、特に本文には返り点と送り仮名がふってあって読みやすい。相当古い本だが、正規版は今でも入手出来ないことはない。しかし一回京都のジュンク堂で目にしたとき、1万何千円かしたのを覚えている。店主の「これとか『大漢和辞典』なんかも含めて、台湾製の海賊版は取り締まりがきつくなったので、これから手に入りにくくなりますよ。」という言葉に煽られて、購入を決意。
最初から散財しまくるのもどうかと思い、ここらで一旦お会計。店主曰く「全部で1万4千数百円になります。」(細かい数字は忘れました)な、なんと、私の想定よりずっと高いではないか!これでは最初から散財ではないか!!値段を聞いて少し躊躇したが、結局二つとも購入することにした。店主が値段から1割引いてくれたのがちょっとうれしかった。荷物は宅急便で送ってもらわずに、このまま持ち歩くことにする。
さて、他のメンバーの様子はと言うと・・・居眠り猫さんは店主と何やら話し込んでいる。宣和堂さんは、関西ではなぜか見つけられなかったという趙翼『二十二史剳記』が手に入ってうれしそうだ。その後故宮関係の本を取りだし、乾隆帝がコスプレしている絵を私に見せてくれたりしていたが、ある故宮の図録を見ているうちにどうしても欲しくなったと、店主に値段を尋ねる。「これは3万5千円ですね。」あまりの値段にショックを受ける宣和堂さん。しかしカードを取り出して購入を決意したのであった。早くも私を上回る散財王の登場である!
一通り買い物が終わったのを見て、真善美に移動することにする。店主がそれと察して、鍵を持って我々を先導した。真善美と海風書店は、経営者が一緒なのである。
真善美は噂通り怪しい店であった。 (上図参照) 店内には八卦盤や茶器、鉄扇、変な人形など中華グッズであふれかえっていた。売ってる本も中国武術の研究書が積んであったりと、一風変わっている。私は店の奥で金庸『神G侠侶』のコミック版と、薛仁貴ものの絵本を発見。しかしさきほどの反省をこめて、「先はまだ長いのだぞ。」と買い控えをすることにした。しかしここでも宣和堂さんの散財は止まらない。怪しげなビデオ(しかも5〜6本ぐらいのセット)と黒い鉄扇を購入。
居眠り猫さんが、「こういうビデオって、インチキなのが多いんですよ。中に映像が何も入ってなかったりとか。黄虎洞先生がこういうビデオテープを武侠映画だと思って買ったら、延々と素人のお爺さんが太極拳をしてるだけだったという話をしていたことがありましたねえ。」と脅しをかけ、さしもの宣和堂さんも不安に駆られるが、購入を強行。店主と鉄扇の話で盛り上がる。あきらさんも怪しげな『封神演義』の素材集ソフトを購入していた。「まともに動くかどうか、とっても不安なんですけどねー。」
ここで時計を見ると、はや12時である。どうもゆっくりと本を見過ぎたようである。飯香幻さんの提案で、昼ご飯を食べに行くことにする。私はこのペースで本屋を回っていては、3〜4件ぐらいしか見れないことに気づいたが(そもそも目的地の一つである湯島聖堂は4時に閉まってしまうので、それまでに神保町を発たねばならない。)しかし一件あたり10分ぐらいで出るというのも味気ないので、本屋は昼食の後に朋友・東方を回るだけにすることにした。
次回、中華レストラン咸亨酒店で、一同が中華グッズを見せ合い、濃いトークに花を咲かせることになる。次回の更新を乞うご期待!