昭和５３年に『 住宅のクレームに悩む消費者の会』 として出発し、翌５４年には三笠書房より 「欠陥住宅体験集」 を出版した当会も、はや２９年目を迎え皆様のご協力をえてますます発展の道をたどっております。

　前年度は例会での欠陥住宅相談や個別紛争解決支援活動とともに消費者シンポや研修旅行などで東西両会員の交流もかね又マスコミやホームページを通じての一般消費者への呼びかけに力を注いでまいりました。　昨年度の当会自体での大きな出来事は、昨年 6月東京事務局長であった河合敏男会員が欠陥住宅関東ネットの代表に就任され、当会東京事務局長を辞任されたことにより、東京事務局の事務処理を本部事務局である大阪事務局が同年7月より代行し今日に至ったことであります。このため会員の皆様には若干のご不便をおかけしたことはお詫びしなければなりませんが、当会の運営としては大阪事務局のスタッフが東京会員の有志者会員のご協力を得て東京例会執行などの運営にタッチしたことにより、東京会員の実情と大阪のそれとの違いを理解し全体としての会務運営の円滑化を図る機会を得たことであります。　このたびの総会でめでたく東京事務局のスタッフが選出され、ふたたび東京事務局の活動が開始されますのは非常に喜ばしい次第で、東京会員もまた大阪での会務運営状況を間接的に知られたことによって両事務局の一体化が促進されることと存じております。　同時に例会時での両事務局専門委員の交流により調査・鑑定･弁護のノウハウがさらに高められたものと存じております（なお河合会員には東京事務局専門委員をお願いしております）。

　このような次第で当会自体としては昨年度のこの運営体験が本年度以降の会全体の運営に必ずや実を結ぶものと存じております。

　次に一般欠陥住宅問題に目を転じると、昨年年末ご承知の姉歯問題が発覚し、早速昨年 12月の大阪例会と東京例会において緊急シンポを行い、当会のこの問題に関する考え方を世に問いました。シンポで発表された論文やシンポの詳しい内容については本年1月18日に発刊いたしました 『欠陥住宅を正す会確認計算書偽装事件論文集』 で詳しく紹介しております。また当会ホームページにも詳しく掲載しておりますのでご参照のほどをお願いいたします。

　姉歯事件は単なる一建築士の偽装事件ではなく、同人をしてかかる偽装を為さしめた原因が、建築･設計･不動産販売各業界に共通する手抜き体質そのものであるとの認識が必要であると考えています。えてして各報道が偽装マンション被害者の救済ばかりを取り上げ、他に数多く存在する欠陥住宅被害者の救済が論じられていないことが残念で、当会としてはこの問題を、このように建築業界などに内在する手抜き体質の問題としてその是正と数多くの一般欠陥住宅被害者の救済を世に問い、調査・鑑定・弁護の各分野で個別紛争の解決に力を注いでいきたいと存じています。

　他にいま一つここで触れておきたいのは、平成 13年度より各裁判所において採用されている 移付調停の問題 であります。　当初は建築士調停委員を活用することによって裁判所の技術的知見を補うという点に重点が置かれていた筈でしたが、各裁判所、特に建築専門部が置かれている東京や大阪での移付調停の実態は、建築士調停委員の技術的知見を生かした技術訴訟としての争点整理や通常の当事者の任意性を尊重した調停活動を超えて、調停委員らによる一方的な欠陥判断や補修方法の押し付けによる和解や調停が強行され、本来当事者主義である民事訴訟での移付調停において、技術争点の整理をするという名の下に、調停委員より職権的･糾問的・取調べ的事情聴取と解決案の提示がなされ、調停での解決の強行に重点が置かれているのが実情で、時として被害者は相手方のみならず三人の調停委員をも相手にしなければならない状況におかれています。　本来確度の高い調査鑑定を得て行われている欠陥住宅訴訟では、法律的見解の差による多少の判断の違いや賠償額算定の違いはあっても被害者の勝訴は見込まれているものであり、調停成立は当事者のお互いの譲り合いが前提なので、多くの場合被害者が得られるべき賠償額を減らされるという結果となります。そして中には当事者の主張や立証の当否を具体的に論じた裁判所の調停案まで交付され、それについて相当な反論や反証の機会が与えられない場合も多く、まるで密室裁判の観を呈しております。　そこで私たちとしては、このような民事訴訟の当事者主義を忘れた恣意的な移付調停の運用に対し抗議すると共に当事者が求めたならば直ちに移付調停を本来の訴訟に戻すことを裁判所に要望したいと思っています。　今の実情では勝訴確実と見込まれる被害者は裁判所の移付調停のすすめに応じないことで自己防衛するほかはありません。

　以上のように欠陥住宅問題を取り囲む状況はますます複雑かつ緊迫化しておりますが、本年度も皆様方のご協力を得て個別紛争の解決とその累積による判例獲得や制度改革に努力していきたいと存じます。