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欠陥住宅を正す会の窓
   
  昭和53年以来24年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている
欠陥住宅を正す会  
では、このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ記事をお届けします。
   
  −正す会の窓・・・その15(論説)−
   
   
 

欠陥があった場合消費者は業者に
どのような請求ができるか
――初めての方のために――

   
 

欠 陥 住 宅 を 正 す 会
代表幹事  澤  田  和  也
( 弁護士

   
 

1  瑕疵担保責任の意味――自己補修との違い(責任としての補修)

 

買ったり注文したりした建物に雨漏りや結露、傾きといった欠陥があった場合、消費者は業者に対してどのような請求ができるでしょうか。 「修繕をしてもらえる、手直しをしてもらえる」というのが普通の考え方でしょう。 それを法律では「瑕疵担保責任」という難しい用語で呼びます。 「 瑕疵 」とは、もともと「瑕」も「疵」も「玉にきず」のきずで、「よいものの中にまじっている悪い点」という意味です。 この言葉は、明治 32 年につくられた今の民法の中に出てくるもので、当時の立法者の念頭に、現在皆様方を悩ましている手抜き欠陥というようなものは全くなかったものと思われます。 というのも、農村でも都会でもお互いに顔見知りの共同社会を基本に、その社会の中に住んでいる大工や棟梁に建築を依頼するというのが当時の住宅の生産システムだったからです。 また、建物自体も田の字型の極めて単純な木造住宅だった上に、地域の一般の人々もその棟上げに参加したり、子供たちもその建築現場で遊ぶなどして、家のつくり方に関してある程度の知識を持っていました。また、建築に限らず、当時はどのような職業でも職業倫理が貫徹しており、金もうけのためにするというよりは、自分の道として、自分の仕事として、自分のあり方として、自分の人生として仕事をしているという色合いが強かったため、現今横行している手抜きのようなものは当時の職人社会では全く予想もされなかったのでした。

 このようなわけで、民法制定当時の日本社会では、今横行している故意に材料や手間を端折るといういわゆる手抜きは見当たらず、また建築関係者の間でもそのようなことは埒外のこととして話題にも上らなかったのです。 そのため明治時代の立法者が考えていた「瑕疵」は、確かに家の欠点ではあるけれども、故意に材料や手間を手抜きしたことによる欠陥ではなく、例えば大工が誤って床柱を傷つけたというようなまさしく「玉にきず」の「傷」のことで、人間である以上だれでも起こし得るミスという色合いが強く、上手・下手という言葉と連続性を持っていました。 そこで、「補修費用に過分の金がかかるような少々の欠陥は補修しなくてもよい(民法 634 条)」とか、「たとえ契約の目的を達しなくてもでき上がった家の契約解除はできない(民法 635 条)」という請負人保護の民法の規定が生まれたものと考えられます。

 瑕疵担保責任とはそのような背景をもとに生まれたもので、「瑕疵担保責任」を文字どおり読めば、まるで欠陥をつくるのを担保する責任のように聞こえますが、実は「瑕疵がないことを約束する、担保する責任」という意味で、欠陥があればそれをまず補修して約束した設計図書どおりの状態にするとか、設計施工で設計に欠陥があれば、その設計自体も改め、その分についての施工もし直すということが本当の意味なのです。

 また、法律では、 欠陥の補修にかえて、 または 欠陥の補修とともに損害賠償を請求する ことができるとしています。 一たん欠陥がつくられると欠陥をつくった人に対する当然信頼は薄れますし、また美匠や仕上げの欠陥などのように補修をすればするほど家が損じるという場合もあります。 そこで法律では、消費者に対して現実の補修を求めてもよいし、現実の補修にかえて補修相当の代金と、欠陥によって附随的に発生した損害をも請求できるとしています。 この場合の 欠陥によって附随的に発生した損害 とは、欠陥原因をはっきりさせるために建築士に依頼し、相当な補修方法の教示を受けた費用などのことです。ですから、欠陥があった場合には、一次的には補修の請求をすることができ、それにかえて相当な補修代金を請求することもできれば、あわせて欠陥によって生じたさまざまな諸費用や損害などをも請求することができるというのがこの瑕疵担保責任という法律の用語の意味です。

 ここで間違ってはならないのは、瑕疵担保責任による補修請求は、所有者が古くなった自己所有の建物のメンテをするなどの自己費用による補修( 自己補修 )とは違うということです。 あくまでも法律に基づく 責任としての補修 であって、原則は契約で約束された状態、つまり設計図書どおりの内容に建物をし直すという意味です。

  なお、瑕疵担保責任の内容として述べたのは請負に基づく場合のことで、 売買の場合 は一次的には瑕疵の補修を求めることはできず、 契約の解除と損害賠償 が瑕疵担保責任の内容となっています。 また、単なる欠陥ではなく、 隠れたる瑕疵 (引き渡しを受けたときには消費者にはわからなかった欠陥)を対象としています。 しかし、現今横行する手抜き欠陥の大半は隠れたる瑕疵に当たり、請負とさほどの違いはないものと思われます。 また、現在では売買によるときでも補修を求めることも慣行的に認められています。 尚、品確法では売買のときでも新築建物については補修請求を認めました。
   
 

2 瑕疵担保責任又はそれ相当の賠償責任はだれに求められるか。

 

 請負でも売買でも契約上の責任となりますので、 契約をした請負人 なり 売り主 なりにその責任の履行を求められるのは当然のことです。 しかし、このごろの判例の進展で、欠陥が設計者の設計に起因する場合には 設計者 に対して、工事監理者として選んだ建築士が適切な管理をせず、例えばさぼっていたために施工関係者が手抜きした場合にはその 工事監理者 にも損害賠償責任を求めることができるようになっています。 ただし、設計者や工事監理者など契約当事者以外の第三者に業者と同じ責任を求める場合には、法律上は瑕疵担保責任ではなく損害賠償責任となり、法律の適用条項も、瑕疵担保責任が民法 634 条であるのに対して、損害賠償責任は民法 709 条の不法行為責任として請求することになり、この場合には 不法行為責任 と呼ばれることになります(契約上は第三者のため)。 同様に、 仲介業者 に責任を求められる場合もあります。 最近よく問題になっているのは地盤の瑕疵で、工場跡地で工業廃棄物などの人体に悪影響を及ぼす公害物質が地中に含まれているのを仲介業者も知っていたのにそのことを黙っていたという場合、仲介業者であっても責任を問われることがあります。 この場合は不動産売買の仲介者としての責任で、消費者との間には仲介契約という直接の契約関係がありますので民法 415 条の契約上の 債務不履行責任 となりますが、これも不法行為責任と同様、瑕疵担保責任とそれほど内容的に違いがあるものではありません。 また、構造に関する手抜きで、設計図書で要求されている柱や梁の配筋を故意に落とした場合には、他人対し危害が及ぶのを認容していたものとしてその工事を担当した 施工責任者 主任技術者 (建設業法上、現場の管理をする責任者)の責任を求めることもできます。 これらの人は、請負なり売買なり建物の契約に関しては消費者とは第三者となりますので、第三者としての不法行為責任となります。

  このように、さまざまな人々の責任を問うことができますが、これらの人々の責任はどのような関係にあるかというと、本来は各人ばらばらにそれぞれが消費者に対して同じ責任を負う、つまり相当補修費用や関連費用を負担しなければならないのですが、二重取りはできないということで、法律上はこれらは 不真正連帯債務 と呼ばれます。
   
 

3   その他の法律の根拠で相当補修代金の損害賠償を求められるか。

 

契約当事者である請負人や売り主の業者に対して瑕疵担保責任と同じ内容の責任を求められるか というように考える場合と、同様の内容の 責任を業者以外の者に対しても求められるか という場合とに分けて考える必要があります。

 契約当事者である売り主や請負人に関しては、昔は、瑕疵担保責任は民法の特別な規定であって、請負人の故意または過失によって手抜きされた場合の債務不履行責任が求められる場合でも、瑕疵担保責任に限定されるという 瑕疵担保責任特別法説 が有力でした。 そしてまた、一たんでき上がった建物は契約を解除することができないという民法 635 条を根拠に、契約の解除とは家は返し代金を戻すことで、 取り壊し建てかえ は代金の返却に取り壊し代金も含むのでできないという見解が有力で、この取り壊し建てかえ請求をすることができないという民法 634 条の瑕疵担保責任の解釈が制限されていたのに、法律制定当時とは違った手抜き社会が出現したいま、例えば地盤補強や基礎、建物の骨組みに故意の手抜きがあって、取り壊し建てかえをしなければ補修できない場合でも取り壊し建てかえ請求ができない、乃至 取り壊し建てかえ請求相当の損害賠償金の請求はできないというのであれば甚だ不当であるという見解も生まれ、民法 634 条の瑕疵担保責任にかわる法律の根拠規定として 債務不履行責任 、つまり契約上の債務の本旨に従った履行をしないものとして、それによって生じた損害賠償の請求ができるという債務不履行責任についての民法 415 条のこの条項を適用しようという説が有力になり、現に最近、最高裁が取り壊し建てかえ相当損害の責任を瑕疵担保責任と認めるまでは、この説によって取り壊し建替え損請求ができると主張されていたのです。

不法行為責任 についても同様です。 本来、不法行為とは契約関係のない人(第三者)が他人に対して損害を与えた場合の責任のことで、例えば車の運転者が歩行者を傷つけるといった場合の責任などが当たりますから、契約関係にある者同士では、不法行為責任を適用するというのはためらわれていました。 しかし、骨組みや基礎などの構造の手抜きによって、家の注文者や同居人、その家に出入りしたり付近を歩行している人に災害によって危害を与えるおそれがある場合、それは建築関係者なら当然心得ていることなのにあえてしもそのような手抜きをする場合、つまり他人に対する危害について未必の故意を有すると考えられる場合には、たとえ契約当事者であっても不法行為責任が成立するのだ、つまりひどい手抜きは契約という枠を超えて、注文者に対して財産上も精神上も危害を与えるという犯罪的意図が秘められているものなのだという構成のもとでこれを認める見解も有力なのです。 いずれにせよ、最高裁判所が民法 634 条の瑕疵担保責任の内容として取り壊し建てかえ相当損害の請求を認めるということを打ち出したことから、債務不履行責任や不法行為責任を積極的に持ち出さなくても、瑕疵担保責任の規定でこのようなケースの問題解決ができるようになったので、今後は債務不履行責任や不法行為責任を適用する場合は少なくなるものと思われます。

 瑕疵担保責任の場合は、欠陥があれば請負人や売り主に対して、その人の故意過失に基づくものでない全くの無過失、例えば素人の消費者が転売した場合にも適用それるのに対し、債務不履行や不法行為の場合は請負人や売り主にその欠陥についての故意または重大な過失があることを要求され、消費者はその立証に手間がかかるからです。

 次に、前項で述べた請負人や売り主といった 直接の契約当事者以外でも責任を求めなければならない者に関しては、契約上は第三者なので、瑕疵担保責任と同じ内容の責任は求められるかという問題があります。  適用される法条はもともと瑕疵担保責任ではなく、不法行為責任(民法 709 条)になりますが、損害賠償責任については同様の内容と考えてよいでしょう。業者本人とは不真正連帯債務の関係にあると上述したとおりです。

  なお、ご参考までに、使用者の不法行為責任(民法 715 条)という規定もあります。 例えば住宅会社の建築士が設計や工事監理に関して故意または過失があったことによって欠陥が発生した場合には、その建築士を雇用する会社の上司または会社自体が同じ責任を問われることもあるのです。
   
 

4 いつまで責任を求められるか。

 

 瑕疵担保責任にはいつまで求めることができるかというのが 時効 の問題です。 民法 638 条1項では、請負契約の場合は、鉄筋や鉄骨造の堅固な建物については引き渡しのときから 10 年間、堅固でない木造などの建物については5年間と定めています。 売買の場合は、買い主である消費者が欠陥を知ったときから1年間に限られています。

 ただし、瑕疵担保責任は民法 639 条によって 短縮の合意 をすることができるとされていますので、請負契約による注文住宅の場合でも2年ないし1年に短縮されているのが通常ですが、平成7年の阪神大震災の際、手抜き欠陥が多く発見され、このような短い時効期間ではなかなか構造欠陥が発見できないということで、平成 12 年に制定された 住宅の品質確保の促進等に関する法律 では、売買(建売)でも欠陥の補修の請求を認めるとともに(請負の場合同様に、瑕疵担保責任としては現実の補修の請求と損害賠償の請求ができることとされたとともに)、新築住宅では、請負であれ売買であれ引き渡されたときから 10 年間は瑕疵担保責任が問えるとされたのです(住宅品確法 87 条)。 ただし、それは住宅のうち 構造耐力上主要な部分 雨水の浸入を防止する部分 に限られています。 つまり、これは従来手抜きが横行していた、すぐには消費者にわからない部分で、しかも住宅の本質を害する悪質な手抜き欠陥の部分を指しているのです。

   
 

5 交渉するときの注意。

   
 

@残代金の差しとめ

 
  注文契約で請負の代金が残っているのならば、その残金の支払いを差しとめることも欠陥補修をさせるための消費者側の有力な武器となります。この場合、支払いを差しとめても遅延損害金(支払い時期に支払わない場合の利息)はつきません(民法 634 条2項)。
   
 

A見切りが大切

 
 

簡単な補修や手直しであれば業者も素直に補修に応じ交渉が長引くことは少ないと思いますが、もしその欠陥が、地盤補強や基礎、建物の骨組みなど内外装に覆われていてそれらのものを取り外さない限り補修ができないような場所にあるときには、業者はその補修を嫌がります。しかし、口では「する、する」と言うので、消費者はともすれば業者の任意履行に期待して日時を稼がれ、その間、不自由を忍ばなければならないことがよくあります。 実は補修を延ばすのも業者の一つの手で、消費者に不自由を長期間味わわせることによって不十分な補修で満足させようとしたり、または完全な補修をしないことによって瑕疵担保責任の期間を過ごさせようとすることも多いのです。

  通常、どのような補修でも、業者が本当にする気があるのであれば3カ月もたてば取りかかることでしょう。 ですから、 補修の交渉 に半年以上もかけるということはむだなことですし、半年も補修をしないのであれば、たとえ口では補修をすると言っていても、業者にその意思はないものと見るべきです。このようなときには内容証明郵便での請求、調停、裁判の申し立てなどをすべきでしょう。

   なお、裁判での請求は、 補修にかわる損害賠償 、つまり相当な補修代金の請求を金銭請求という形ですることとなります。 修繕という一定の行為を相手方に要求し、仮に判決でそれが出たところで、そのような判決主文ではその補修内容についてまた争いが生じる可能性があるからです。
   
 

B工事中の補修交渉と工事の差しとめ

 
 

 @は注文建築工事後の残代金の差しとめのことですが、注文契約の途中で欠陥が発生したときにはどうするのかという問題があります。 工事中でも即座に補修してくれるのであれば問題はありませんが、Aで述べたように、基礎や構造躯体などは簡単に補修できず、補修費用がかかる場合にはなかなか業者はそれを実行しないことが多いのです。時として補修請求を無視して工事を続行し工事を完成させようとすることもありますし、業者側において工事を中止して消費者を困らせることもあります。 このように工事が中止されている場合には、その期間と示談交渉の正否の見込みにもよりますが、注文(請負契約)を 解除して 他の業者に相当補修をさせた上で工事を続行させ建物を完成させるのが得策です。 長い交渉の結果、同じ業者に補修させても工期のおくれが出るのはもとよりのことで、補修の内容やその後の工事についても信頼関係がなくなっていることからトラブルが発生することが多いからです。

   なお、工事途中で契約を解除した場合には、それまでの工事出来高の割合で 工事代金を精算する こととなります。 しかし、この出来高の算定には専門的な地域が必要ですので、建築士に出来高の査定を依頼し、その査定金額に従うことが大切です。
   
 

6 交渉以外の請求手続。

   
  @調停
 
 

調停は簡易裁判所に申し立てをします。調停は、裁判と違い、当初から譲り合いを前提とする手続で、裁判官を主任とする調停委員がついて、双方の言い分を聞いて調停案をあっせんしてくれます。 素人の消費者が業者と交渉するよりは、建築事件であれば建築専門家が調停委員に選ばれますので、専門的知識の補充という意味からも、またその結論の妥当性からも、調停では安い費用で妥当な結果が得られる場合が多いものです。

  
   
 

A仲裁

 
 

仲裁は、争いが起こったときに、あらかじめ当事者が選んでいる任意の仲裁機関に仲裁の申し立てをして、仲裁人に裁判官がわりになってもらって裁決してもらう手続です。

  

  従来の建築団体による四会連合約款(現 民間連合約款)では、請負契約の段階で、建設業法に基づく 建築紛争審査会 に仲裁を求めるという条項を消費者に承認させ契約をすることが多かったのですが、この建築審査会はあくまでも建設業者の育成のためにつくられたもので、主として親請と下請、孫請という業者仲間の紛争を調停仲裁することを目的としている機関です。 そのため、そこで選ばれる仲裁委員も、弁護士や建築士のほかは建設業界のメンバーが選ばれるのが常で、結論がどうしても建設業者寄りになりがちです。そこで、この建築紛争審査会による解決は消費者に不利なので、契約の際にその条項を抹消するか、または契約書に添付されている管轄の合意書の部分に署名捺印をしないか、救済手続には応じない意向を契約書の中で示す必要があったのですが、今回仲裁法が改正されて、紛争が発生時には指定の仲裁機関に仲裁を求めるという契約条項があり、建築紛争審査会の手続開始の呼び出しがあっても、その合意を解除することができる、また第1回期日に出頭してその合意を解除することができるようになりました。そして、消費者が口頭審理の期日に出頭しないときは仲裁合意を解除したものとみなすという規定も設けられました(仲裁法規則 37 項)。 ですので、建築紛争審査会を含め、たとえその仲裁機関の仲裁によるという合意をしていても、その手続に応じる必要はないのです。

  ただし、どのような仲裁機関によるものであれ、その仲裁手続に参加して、仲裁人の 仲裁判断 が出れば、「仲裁判断は確定判決と同一の効力を有する」との仲裁法 45 条1項の定めから、例外の取り消しの理由がある場合を除き(同法 44 条)、その仲裁のやり直しを求めることはできません。訴訟手続では控訴、上告と3回の判断を求められるのに対して、1回だけの判断で確定してしまいますので、消費者はこの点によく注意する必要があります。逆に業者側は、仲裁判断による業者サイドの結果を予め予定して、契約書等に特定の機関の仲裁を求める場合の条項をつくることが多く、特にここで問題にしている建物の請負契約では、その仲裁機関に業者サイドと見られがちな建築紛争審査会が選ばれている場合が多いです。

  参考までに、 弁護士会 にも仲裁申し立てをすることができます。 弁護士会では、第三者の弁護士によってさまざまな民事上の争いの仲裁を受け付けています。 建物にまつわる紛争も弁護士会への仲裁申し立ては可能です。

   又、品確法に基づく評価住宅であれば、廉価な費用で、同法上の住宅紛争解決機関 ( 弁護士会 ) に、 斡旋 ( あっせん ) 、調停、仲裁の申立をすることもできます。

   
 

B訴訟 ( 裁判 )

 
 

欠陥住宅紛争では「一生に一度のお買い物」として消費者側に建物に対する思い入れの深いこと、また補修が基礎や骨組みなど構造にわたる場合には補修には期間がかかり、かつ費用もかさむことから、なかなかスムーズに話し合いで解決することが少ないものです。 そこで、第5項でも述べたように、3カ月たっても業者側が補修に応じないのであれば、業者には補修する意思がないものと見て、専門家に相当な補修方法と相当な補修工費を見てもらい、その補修代金や関連書費用を損害賠償という形で訴訟上の請求をするのが得策です。 訴訟は、調停、仲裁等に比べて日時が長くなるのが難点ですが、手続が厳密に行われる上、裁判官による第三者的な判断が示されますので、もし消費者の請求が建築士などの意見を参考にした妥当なものであれば、そのまま勝訴する確率が高いものです。

  

  ただし、訴訟手続は専門的な知識や経験が必要ですので、建築紛争を専門としている弁護士にその紛争処理を依頼することが大切です。 弁護士の取り扱う分野は、離婚、財産分与等の身分関係の事件から、残代金の取り立て、債務整理等、多方面にわたっていますが、その中でも建築事件は、特許事件等と同様、特別な分野として特別な知識と研修が必要ですので、専門にしている弁護士を選ばれないと消費者の要求が実現しない結果となります。 「裁判をしても時間と金がかかるだけだ」との苦情をよく聞きますが、それは事件解決に当たって建築士の相当な調査鑑定を受けず、また専門の弁護士に事件処理を依頼されなかったことに起因する場合が多いのです。

   
 

7 相当な補修方法とは。

   
 

@設計図書への適合性

 
 

業者に求める補修は、あなたが既存建物のメンテのためなどに任意にする自己補修とは異なり、あくまでも新築契約を前提としたもので、設計図書やそれが前提とする建築基準関係法令等に適合しない場合などに、業者に業者の 責任として求める補修 です。 ですから、契約の中核である設計図書どおりの状態に建物の形態や機能をも適合させるものでなくてはなりません。 例えば耐力壁が不足したり偏在している場合に、座敷の中に新たに耐力壁を設けることは、当初の契約による空間利用性や美匠性を大幅に損なうことになりますので、相当補修と言うことはできません。 設計図書が表示する空間や美匠、機能、性能を回復する補修結果でなくてはならないからです。

   
 

A技術的可能性

 
 

その施工は、現在の建設レベルで一般的に技術的に可能なものでなくてはなりません。まだ実験中の方法であるとか、一度も実行されたことのないような、または実験段階の材料や工法によるものは、ここに言う相当補修の中には入らないのです。

   
 

B施工の確実性

 
 

剛接架構(ラーメン構造)の鉄骨建物の柱と梁の仕口がいわゆる突き合わせ溶接(接合する柱と梁の断面部全体にわたって溶肉が溶け込んで溶接)を隅肉溶接(鉄骨の周辺のみに溶肉を盛る溶接)に手抜きしている場合には、当然突き合わせ溶接にし直す必要がありますが、その補修は建物を取り壊さなくても鉄骨仕口部周辺の内外装を取り払えば現場で十分可能であるという言いわけが費用を惜しむ業者からよく出されます。 上向き溶接の要る現場での突き合わせ溶接は、仮に上向き溶接が現場でできるとしても、そのような上向き溶接には高いレベルの資格が要る上、その技術者も数が限られていますので、全国どこでも確実にそのような技術者を使用するというわけにはいきません。また、日当の金額も違ってきます。 仮にそのような上向き溶接をすることができる技術者に依頼することが可能であって、それを想定しての補修であっても、その技術者の労賃は通常の労賃と積算単価が違ってきます。 さらに、現場での補修には、近隣に対する配慮などから、防音テントや足場など工事による被害を防ぐさまざまな措置(養生)や 仮設費用 が要りますので、それら諸費用や、作業後の内外装の復元費用も必要となります。 取り壊しに必要な部分だけの内外装の取り壊しと復元では つぎはぎだらけの補修 となり、それであれば@で述べた設計図書への適合性に欠けることとなるからです。そして、不自然な姿勢での作業は施工ミスを誘いやすく、施工の確実性に欠けることとなります。

   
 

C近隣等第三者への損害・迷惑に対する配慮。

 
 

建築基準法にも第三者災害の防止の規定があり、工事に当たって第三者に迷惑を与えないようにするのは当然のことです。 補修工事が市街地で行われる場合には、近隣に迷惑をかけないための費用、例えば防音、天幕など相当養生が必要になります。 これらの相当費用が見こまれていない補修費用の積算は相当性がありません。

   
 

D経済性。

 
 

以上@からCまでの要件を満たすならば、経済的に相当な価格でより安いものであることが望ましいものです。 骨組みの鉄骨の溶接のし直しの場合、その欠陥箇所の個数や場所にもよりますが、新築契約性、つまり設計図書への適合性を実現しようとするものであれば、時として取り壊し建てかえた方が安上がりとなることも多いのです。 ここに言う補修は古文化財の補修とは違うのです。 古文化財の補修は、材料自体も保存し復元することに重点が置かれますが、通常の新築住宅の補修では使われた材料に文化的価値や財産的価値があるものではなく、新築建物としての契約適合性があれば足りるのですから、取り壊し建てかえた方がかえって安上がりとなって相当な補修となるのです(建築基準法 90 条参照)。

   
 

8 補修にかわる賠償金額はどのようにして算定するのか。

   
 

@見積もりと損害評価の違い。

 
 

見積もりとは、注文契約で特定の業者から受け取る請求金額のことです。 現実の注文契約では、経済社会の原則によって双方の受注に対する要求度や信用、技術レベルなどが反映されますので、建築士が補修費用を客観的に評価する損害賠償金の金額とは違ってきます。 客観的な評価があっても、業者は注文の欲しいときにはその見積値を下げます。しかし、安いからといってそれに応じてよいかどうかは全体的な配慮の問題です。

   
 

A業者の仲間値ではなくて消費者の小売値で。

 
 

訴訟では業者は損害額を低く抑えようとして、業者仲間の元請が下請に、下請が孫請に出すときの値段で積算しようとします。 しかし、損害賠償は素人である消費者が専門家である業者に頼む値段ですので、いわゆる小売値で評価する必要があります。

   
 

B算定基準としての相当な資料。

 
 

建設省外郭団体発行の積算資料
相当資料がない場合には、建材屋等への問い合わせ

   
  欠陥住宅正す会の相談会は、複数の法律に詳しい建築士と建築に強い弁護士とが共同して、問題解決まで繰り返しくりかえしご相談に応じ、きめ細かい対策をたてています。又、体験者の体験指導も行っています。 欠陥住宅でお困りの方に当会のご紹介をお願い致します( 詳しくは事務局まで 大阪 06-6443-6058 、 東京  050-8003-5039 ) 。