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欠陥住宅を正す会の窓
   
  昭和53年以来24年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている
欠陥住宅を正す会  
では、このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ記事をお届けします。
   
  −正す会の窓・・・その17(論説)−
   
  体験からまとめた欠陥住宅紛争処理の対処法メモ
  
 

•弁護士 澤 田 和 也

 
  〒550-0006 大阪市西区京町堀2-14-2
電話:06(6443)6058
fax :06(6443)6495
 
   
  これは過日、専門家を対象に行った講演のメモです。
一般の方にもご参考になると思い、掲載いたしました。
   
 
1、 はじめに
   本日は、お招きありがとうございます。甚だ名誉なことと喜んでおります。
  さて、与えられた演題は「欠陥住宅紛争の対処法」ですが、皆さんは専門家でいらっしゃいますので、事件処理という観点にウエートを置いたお話をしたいと思います。
 
     
2、 欠陥住宅紛争の本質の理解  
  欠陥住宅紛争は素人である消費者と専門家である建築業者との紛争ですので、両者の知識や財力基盤にはレベルの差があります。そのため、建築紛争処理のための主として民法の請負や売買の規定を消費者保護法的な観点で解釈していく必要があります。
 
     
3、 具体的な事件着手方法  
   住宅紛争は、他の紛争、特に身分関係の紛争とは違い、欠陥があるかどうかの立証は、現在争われている家の中にある物証を取り出し、それを解釈して言い分をまとめることになりますので、弁護士は、建築知識を補う意味でも、また実体に触れる意味でも、依頼者から依頼されてすぐオーケーするのではなく、建築士の方に現場を見ていただいて、依頼者の訴える欠陥が本当に存在するか、またはその蓋然性が高いか、その欠陥とはどのようなものかを判断することが必要になります。もちろん自分自身も建築士さんと同道して、まず現場を見分することです。当事者は、「傾いている」「ひび割れがある」「汚い」「雨が漏る」などの欠陥現象または不具合事象を訴えるだけですので、それを発生させる具体的な原因事実、つまり欠陥原因の有無を確かめなければならないということです。その欠陥原因を特定しなければ、相当補修方法や、相当な工種の評価から賠償請求金額も特定できませんので、その上に立って見通しを立てることが、依頼者との信頼関係をつなぐために必要不可欠となります。あわせ、その後の必要調査、鑑定費用等も概括的に把握でき、取れるであろう賠償額から弁護士費用や調査鑑定費用を控除しても、なお依頼者に余剰があるかどうかをあらかじめ把握することもできます。私は専ら消費者側につくという前提でお話をしていますけれども、被告の業者側につかれる場合はこれから申し上げることの裏返しなわけで、本質は同じであると私は思っております。  
     
4、 欠陥判断基準の把握の必要  
   欠陥かどうかについては、判例タイムズの第1148号(2004.7.1)4ページ掲載の大阪地裁の山地裁判官の論文で詳細かつ明瞭に論じられています。それによれば、主観説と客観説があるようですが、ここで言う欠陥は契約上の欠陥ですので、客観説に言う法規相当な技術基準などはむしろ当事者の契約の前提の意思表示の解釈の問題だと私は考えます。欠陥判断の基準は設計図書であり、客観説で言われている法令や標準的技術基準は客観的な判断基準となるのではなく、むしろ当事者の契約の前提事実ないし黙示の承諾、黙示の意思の推定基準または解釈基準として考えるものです。
  欠陥住宅紛争の処理をするに至っては、弁護士はもちろん建築士の方も欠陥判断の基準を確立することが大切です。弁護士にとってはそれが訴状を書く際の請求原因事実の把握、構成に必要となりますし、また建築士の方も、その判断基準に従って調査され、また鑑定書を書かれる際に、その判断基準に従って集められた原因事実をさらにその判断基準に従って体系づけ、鑑定判断を根拠づけられる必要があるからです。
 
     
5、 事情訴訟から技術訴訟への脱皮  
   一昔前までは、欠陥判断の基準も今日ほど明確ではなく、いわゆる不具合を欠陥と把握し、欠陥現象ないし不具合事象と欠陥原因との自覚的な区別もなく、欠陥現象による賠償請求を裏づけるために、契約の誘因から締結、設計施工、完成、引き渡しの各段階における当事者の交渉過程等の諸事情を羅列し、その相当費用などの技術問題に関しては裁判所の鑑定人任せの方法がとられていました。
  これに対して私は、そのような訴訟では訴状の請求原因が特定されないものであり、欠陥住宅訴訟はさきに述べた欠陥判断の基準に従って欠陥原因と目される諸事実を特定し、それに対して訴えられる方はその事実の存否を争い、あるいは認める場合も、その欠陥であるという判断基準そのものを争うか、またはその判断基準の適用外であるとして争うというパターンの訴訟を考え、これを技術訴訟と呼んできたわけであります。
  例えば、欠陥現象だけをるる書き並べて、欠陥欠陥原因や相当な補修方法、そしてその相当工費たる損害賠償金額を裁判所の鑑定に求めたとしても、仮に裁判所の鑑定人が欠陥判断の基準を明確に自覚していなければ、結局は鑑定人の長年の建築実務歴から、「そのような現象はこのような原因から生じていると思う」とか「思わない」とか、また仮にそう思ってそれを欠陥と言うのであれば、「その補修方法は技術的には可能だが、経済的な理由から取り壊し建てかえなどの方法は不相当で、機能だけを回復する方法によるべきだ」のように相当補修方法まで鑑定人の鑑定結果に求める形になり、当事者双方の争点がかみ合わなくなるのです。
  しかし、技術訴訟のパターンを守れば、原告主張の欠陥原因事実があるかないかの認否から始まり、それに対応する抗弁、再抗弁が構成されます。このように、欠陥住宅紛争を技術訴訟の類型でとらえることは、事柄の解決を客観的なものにし、スピーディーに解決できるメリットがあると思います。
  ただし、この技術訴訟的な進め方は、訴状を書く以前に、弁護士自体が欠陥原因事実の具体的な存否や、それが欠陥であるという技術関係規定の理解を必要としますので、弁護士にとっては手間のかかることとなります。また、調査鑑定を頼まれる建築士にとっても、以前のような法令を無視した主観的な判断に基づく調査鑑定とは違い、その欠陥判断の基準を確立し、それをその事例に適用するという道のりだけ手間がかかることとなります。しかし、当事者が先にかける手間が、結局は紛争の解決を早期なものにしていくこととなるのです。
  このように、訴え提起前の私的鑑定で客観的な欠陥原因事実を特定できれば、その存否を争うもの、つまり業者側において裁判上の鑑定を求めるなり、または相当な私的鑑定書を提出するなりして争うこととなりますので、後の鑑定も鑑定事項が特定され、むだが少なくなるわけです。
 
     
6、 相当補修方法  
   相当補修方法については従来から争われていたものの、自覚的にその相当性とは何かを意識せずに進められてきました。従来は、民法635条の建築物の完成後の契約解除不許の規定や、634条の些細な欠陥で高額の費用が必要な場合には修補は不要であるとの規定に影響されてか、補修方法の相当性、つまり法律的な判断で補修方法を考えることなく、裁判上の鑑定人にその補修方法いかんと漠然と丸投げされて、鑑定人から相当工費、つまり賠償額を判断させるという傾向があったのです。鑑定を求める者が無自覚的なため、鑑定を行う者も無自覚的で、当初の設計図書を離れて、機能さえ回復すれば足りるという鑑定がされることが多かったのです。そして、裁判所側も、特に取り壊し建てかえなどは前記635条の反対解釈としてできないとしている傾きがあったことから、鑑定される補修工費が多くならないことを望むというような、変な傾向が見られたわけです。
  しかし、何よりもここで強調しておかなければならないのは、相当補修方法は民法634条の法律的な解釈の問題です。欠陥の補修ですので、技術的な可能性がなければならないのは当然のことですが、その技術的な可能性の前提として、出発点は設計図書にあるということです。つまり、契約で約された住宅の品質や性能レベルが回復されるかどうかが出発点になるべきで、設計図書が前提とするものを回復するための技術的な可能性を求めることが重要な観点となります。従来、そのことが意識されず、単に機能だけ回復するような補修方法をもってよしとする風潮があったことは非常に残念なことです。
  具体的には、技術的に機能回復は可能であっても、例えば不足する耐力壁を部屋の中に求めたり、あるいは開口部を開いたりすることは新築契約を離れることとなり、ここで言う相当な補修方法にはならないのです。少なくともここで言う損害としての賠償額を算出するための補修方法は、当初新築契約によって約束された交換価値を回復するものでなくてはならないからです。ですから、新築契約性を離れた技術的な補修の可能性という判断はあり得ず、ツギハギだらけの補修あるいは単に機能のみの回復を目的とする補修は、補修方法の相当性に当てはまらないことになります。
  また、その技術的な可能性の中では、施工方法の確実性が検討されなければなりません。例えば不相当な基礎の欠陥を回復するために地盤補強というものがよく提案されますが、地盤の中の状況は確定的にはわからず、周辺から注入された薬液が満遍に地盤に行き届くか、または相当な地耐力が均一的に補強されるかも不確かな上、隣家など第三者に悪影響を与えたり、家屋の不当隆起をも結果する可能性があります。再度補修をやり直す結果を招くのであれば、ここに言う相当な補修方法には当たらないわけで、技術的に確実な方法で、しかも新築契約性に即する方法がとられなければならないのは当然のことです。
  次の項目としては経済性があります。当然それらを吟味した結果、相当な経済性のある方法をとることとなるわけです。
  さらにもう一つ考慮しておかなければならないのは、第三者の迷惑や損害を防止する方法であることです。市街地での溶接のし直しなどでは、隣家に対する騒音はもとより、火花の飛散による火事等のおそれも招くわけで、相当な養生テントや防音テントが設置できるだけの周辺の余裕が必要になります。そのような余裕がないために第三者に迷惑や損害を与えるおそれがある場合には、たとえ先ほでまで述べた要件を充足していたとしても、これは相当な補修方法とは考えられないのです。
 
     
7、 依頼者の特質の理解  
   欠陥住宅被害者の多くは、限られた予算で、その資金もローンに頼って新築住宅を注文したり購入した人たちですので、欠陥被害に対する精神被害性は高いものです。これは相談を受けられたときや受任に際してもおわかりのように、我々専門家は、時間のこともあり、聞きたいことを聞くという応対になりがちですが、欠陥住宅被害者は、言いたいことを言うという要求の高い人たちですので、初めから具体的なカルテを与えようと思わず、当初はひたすら聞いてあげるということに徹することです。
  また、紛争では業者側も感情的になっている場合が多くあり、欠陥住宅訴訟を事情訴訟のままに放置すれば、まるで双方の感情の爆発、応酬の争いになるだけですので、このように欠陥住宅紛争の当事者の精神状況そのものを抑理解されることが、この紛争処理の対処法として重要であると思います。
 
     
8、 紛争審査会での紛争処理委員の方に  
   これまで、事件や調査鑑定を受任する観点から紛争処理について述べてきましたが、建築紛争審査会で紛争処理に当たる紛争処理委員の方についても事柄は同様で、欠陥判断の基準をもとに欠陥原因事実を探し出し、上記の判断で相当な補修方法と相当な工費を求めるべきものです。もちろんあっせん、調停は双方の譲り合いを前提とし、そうでない限りあっせんや調停は成立しないものですが、そのときになによりも大切なことは、欠陥原因ないし欠陥判断を譲り合わせるのではなく、欠陥判断や工費は客観的に損害として算出して、その算出された金額の譲り合いをさせることです。
  補修方法に関しても、新築契約性を離れる補修方法も紛争や調停としては可能でしょうが、その場合には、あくまでも法令や新築契約性の限界のあることを銘記すべきです。
 
     
9、 終わりに  
   以上、思いつくまま、私のこれまでの欠陥住宅紛争処理体験をもとにお話ししましたが、皆様方のご努力によって、欠陥住宅紛争が迅速かつ適正に処理解決されることを望んでおります。
(平成17.6.3)