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欠陥住宅を正す会の窓

昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている

         欠陥住宅を正す会では、

このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。

 

―正す会の窓・・・その56―

 平成13年に、東京・大阪の裁判所に建築専門部が設けられ、専門的知識を必要とされる複雑で難解な建築事件の解決がスムースに促進されるよう、『移付調停』というシステムが取り入れられました。  しかし、この移付調停には、その後消費者サイドから様々な問題点が指摘されています。  今回はこの『移付調停』についての、消費者からの疑問と注意点≠、平成17年に回答したものです。
(20・8・8)

欠陥住宅 Q、& A、     (その23)

     移付調停には
                ―― 裁判所の専門知識の不足を補う狙い ――

(Q) 河原の眺望のよいところに建てられたマンションを購入したのですが、部屋が1階なので床下の湿気に悩まされています。そこで、契約の解除を求めて売主に裁判を起こしていたところ、お互いの主張の整理がまだ終わっていない段階で、裁判所から事件を調停手続きに移すと言われました。話し合いがつかないので裁判をしているのに驚いています。こんなことができるのですか。先行きはどうなるのでしょうか。

*               *               *

(A) 裁判所は訴訟手続きをしていても、裁判所が事件の内容から当事者双方に譲り合いをさせ、調停で解決するのが相当だと思うときには、当事者がこれを拒まない限り、民事調停に回すことができます(民事調停法20条)。従って、裁判所の今回の措置は別に不当ではありません。

しかし、欠陥住宅事件のように、事件の理解に専門的知識(知見)が必要な事件では、専門的知識のある調停委員を手続きに参加させ、当事者の技術的主張の解明に当たらせ、裁判官の専門的知識の不足を補うために、調停手続が利用されるようになりました。

本来は、裁判所に専門的知識を補充する専門官などがいて、費用を当事者が負担して第三者に鑑定を求めなくても、無料で鑑定してくれるシステムがあればいいのですが、これがないためです。

あなたの場合も、事件が話し合いで解決すれば、という含みもあるのでしょうが、とりあえずは専門家の調停委員の知識をかり、主張の理解や整理の助けをさせるとともに、ある程度の当事者の言い分の専門的な判断や、相当な補修方法など、裁判官の判断に役立つ助言を求める狙いもあるのです。

建築事件では、’01年から、東京・大阪に建築専門部が設けられるとともに、最高裁の指示によって、他の裁判所でも専門家調停委員による調停手続を活用して裁判官の専門的知識の不足を補わせ事件解決の促進に当たらせています。これが「移付調停」と言われるものです。あなたの場合もそれにあたります。

問題は、「一度、調停手続きに入れば、話し合いで解決しなければならないのか」ということですが、あくまでも調停は、当事者の合意がなければ成立しないものですから、あなたが調停で解決するのが嫌であれば、裁判所にその旨を申し出てまた元の訴訟手続き戻して判決をしてもらうこともできるのです。

ただ、裁判所の処理の実情から見ると、調停委員があたかも裁判官になったかのように調停案をのむよう当事者に求め、当事者もこれに根負けして応じるということもみられます。

しかし、これは調停主任である裁判官が、あくまでも裁判自体は裁判官がするもので、専門家の調停委員からは、裁判をするのに必要な事件の理解の専門的知識の補充を受けるに過ぎないという自覚に欠けていることによるものです。裁判自体は裁判官がするのが当たり前です。そして逆に専門家調停委員も裁判の下請けをしているのではないとの自覚を持つべきなのです。

ただし、いつも前記の趣旨が正しく理解されて調停が適正に運用されていれば、専門的知識の不足から、渋滞し長引きやすい建築事件も専門家調停委員の専門的知識の活用によって、仮に調停が成立しない場合でも、裁判官の理解を促進し、適正な結果が得られることになります。

民事訴訟の本来の建前は、当事者が自分の言い分を裁判所に主張し、それに相当する証拠も集めて提出するという「当事者主義」の訴訟構造です。

この点からいえば、仮に専門家調停委員が専門的知識で当事者の欠陥主張を補ってくれるとしても、調停委員はあくまでも公正中立の立場でなければならないことから、当事者が気づかずに主張していない欠陥までとり上げてくれるだろうという期待は持つべきではないのです。

従って、一旦、調停に入れば当事者は主張立証活動に力を入れなくてもよいというものではなく、被害者側でいえば、単に欠陥現象(雨が漏る)との主張だけではなく、その欠陥が生じる設計や施工上の欠陥原因(例えば瓦屋根勾配が足りない、瓦のかさねが足りない)の事実やその証拠などを積極的に主張し提出する必要があります。

専門家調停委員は、その主張の当否を理解するのに必要な専門的知識を裁判官に補充するだけで、積極的にあなたのために欠陥調査や鑑定の不足を補ってくれるものではありません。ですから、あらかじめ自費で第三者の建築士に調査鑑定をしてもらい、それを基に弁護士に相当な法律的主張をしてもらう必要があるのです。

もし、調停手続きで専門家調停委員が客観的な法令基準に基づかない自己判断による一方的な見解を述べているのであれば、当然あなたの依頼している弁護士はそれを正し、場合によってはあなたのために調停手続きの打ち切りを求めるべきものです。

どのような制度でも制度の趣旨を理解し正しく運用することが必要です。

澤田 和也
(平成17年11月28日)