トップページ  
 
本会設立の趣旨  
 
本会の活動方針  
 
入会のご案内  
 
主な行事  
 
例会のご案内  
 
活動実績  
 
会の組織  
 
お知らせ  
 
正す会のバックナンバー  
 
道しるべバックナンバー  
 
お知らせ・その他バックナンバー  
 
●新着情報
欠陥住宅を正す会の窓

昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている

         欠陥住宅を正す会では、

このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。

 

―正す会の窓・・・その60―


明けましておめでとうございます。
今年もホームページをご愛読いただく皆様方の
お役に立つ情報をお届けいたします。

平成21年 元旦

欠陥住宅被害者に夢と希望を与えてくれる

===新 判 例 の ご 紹 介===

 取り壊し建て替え相当損害の請求は欠陥住宅被害者の究極の願いです。
かりに技術的には取り壊し建て替えの必要がなくても、いったん新築にかけた夢が裏切られれば、もはや単なる小手先だけの補修では・・・というのが偽らざるところでしょう。
  しかし、法的には平成14年9月24日最高裁判例に見られるように、技術的に取り壊し建て替えるほか相当な補修方法がない場合にだけ取り壊し建て替え損害の相当賠償が認められるのです。
 ご紹介するこの判例はその線を踏まえて、取り壊し建て替えるほか相当補修方法がないことを
認定した上で、当初契約代金を大幅に上回る賠償を認めたもので、当初の契約代金を大幅に上回
る損害額を認定している点で皆様方を勇気づけてくれる判例だと思います。
 どうして取り壊し建て替えるのが相当補修方法になるのか、賠償責任は請負会社に対してだけではなくその会社の代表取締役個人や工事を担当した建築士に対しても認められるのかにも注目してください。
 これからも当会はどしどし皆様方の望みを叶えてくれる判例を獲得しそのご紹介をしていきたいと存じております。

(2009・1・1)

海岸寄りの埋立て造成地に建てられた木造軸組み住宅が、地盤の状況を調査することなく漫然と支持地盤に立脚しない不相当基礎がつくられたため不等沈下したので、取り壊し建て替えるほか相当補修方法がないとして、設計施工請負会社、同会社の代表取締役個人及び担当建築士に対し、それぞれ3828万円也と新築代金3000万円也を大幅に上回る損害賠償が認められた事例

和歌山地裁平成20年6月11日言渡
平成17年(ワ)第608号 損害賠償請求事件

判決獲得原告訴訟代理人
当会代表幹事 弁護士 澤田 和也
当会専門委員 弁護士 中井 洋恵


1、事件の概要
 本件土地は昭和40年頃海岸を埋め立て出来た造成地で、現在も潮の干満により敷地内の地下水位が上下している軟弱地盤である。その後請負人会社が1mの盛土をして宅地造成し、更に建物建築に際しても50cmの盛土をした不安定な地盤である。本件建物の基礎直下の盛土層には転石などによる空隙があり、よく締め固まっていず、更にその下は潮の干満によって水位が上下する地下水に飽和された軟弱地盤である。このような粘土層の軟弱地盤では上載荷重によって圧密沈下を起こすおそれや地震時の砂層の液状化による不等沈下をひき起こすおそれがある。
 これらのことを考慮せず、本来であれば上質な支持地盤に立脚するN値60以上の地盤に立脚する杭基礎を選定すべきであったのに、漫然と軟弱シルト層上に立脚するベタ基礎を選択し建設したために建物の不等沈下を招いたものと認定した。
 また、ベタ基礎底盤や基礎立ち上がりの配筋とその耐力に欠陥があるうえ、上部構造についても耐力壁不足や小屋組み補強材の欠陥があるとも認定した。
 原告は、建設業者であり一級建築事務所でもある請負人会社と同社の代表取締役、同社所属の一級建築士に対し取り壊し建て替え相当損と調査鑑定費用などの損害賠償の請求をした。

2、原告請求金額

被告等各人に対し連帯して取り壊し建て替え代金ほか関連損害を含め

金4107万1200円

認容金額

判決は被告等各人に対して、連帯して 金3828万1000円の支払いを命じた。
(参考までに本件新築請負代金は上記のように金3000万円である。)

3、適用法条

請負人会社に対して。 民法634条の瑕疵担保責任と民法709条の不法行為責任。
更に一級建築士の使用者として民法715条1項の責任も。
被告代表取締役に対して。 民法709条の不法行為責任。
または旧商法の266条の3による責任。
被告一級建築士に対して。 職責違背により民法709条の不法行為責任。

4、裁判所の判断
裁判所は欠陥について原告主張の上記各欠陥をほぼ認めた上で、上記適用法条により被告各人に対し下記の損害費目を認定

(1)補修費用(取り壊し建て替え費用)3038万1000円

 被告がケミカルアンカーや炭素繊維シートを用いた補強を主張したのに対し、これらはすでに不等沈下して割れている本件基礎の補修に認められるものではなく、基礎の配筋量自体が不足していることを考えると、エボキシ樹脂で補修しても欠陥除去とはならない。そして更に、小口径の鋼管を杭にして、建物の重量を利用して支持地盤に押し込んで建物を支持し水平にする方法(アンダーピーニング工法)も考えられるが、この方法によった場合には果たして奏功したかどうかについて事後の検証が出来ないし、杭の耐力が建物の重量以上にはならず、建物に外力が加わった時、杭のみでは支えられなくなるから相当ではない。従って結局は取り壊し建て替えるほか相当補修方法がない。

(2)代替建物レンタル費用(礼金等40万円の他賃料15万円×6ヶ月分)
130万円

(3)引越し費用(2度の引越し分15万円×2)30万円

(4)慰謝料(本件瑕疵による精神的損害として)100万円

(5)欠陥調査鑑定費用150万円

(6)再度の登記費用30万円

(7)弁護士費用350万円

(8)以上認容損害合計3828万1000円

5、評 釈

(1) 近年、建築基準法施行令第38条適合の相当な地盤補強や基礎工法の選択をしないため建物が不等沈下する事案が数多くみられる。その中でも本件土地は、海岸埋立によって出来た造成地で、地下水位が上下している軟弱地盤である。そこでベタ基礎構造を採用した被告会社を批判して、本件建物ではその配筋された鉄筋の径と配筋量が不足すると認定し、ベタ基礎を採用したのを誤りとした上で、更にその耐力についても不足すると認定している。そして更に耐力壁(構造耐力上必要な軸組み)の不足と筋交い仕口が釘打ちで不相当であり緊結されていないことや、小屋組みの構造補強部材の欠落をも認定したうえ、結局は取り壊し建て替えするのが相当な補修方法であると認定しているのが評価される。

(2) また上述4、裁判所の判断(1)で触れたように、被告主張のケミカルアンカーや炭素繊維シートを用いる基礎補強やエポキシ樹脂による基礎補強をも排斥し、更に昨今、安上がりの基礎補修のために業者側から相当基礎補修として提案されることの多いアンダーピーニング工法をも、それが建物重量以上の強さを持つ外力には対応出来ないとして排斥している点も正鵠を射たものとして評価される。

(3) 更に賠償義務者として、設計施工請負会社の代表取締役個人についても、安全な建物を設計施工して請負人会社が顧客に対し損害賠償義務等を負うことのないようにすべき注意義務を怠ったものとし、旧商法266条の3違反に基づく賠償義務を認定し、現実に本件建物の設計・工事監理にあたった一級建築士に対しては、建築士法18条の職責を怠ったものとして不法行為責任を認定している。
 このように請負人会社の代表者や設計・工事監理者に賠償責任を認めるなど、広い範囲で賠償義務者を認定しているのは被害者救済の道を広げるものといえる。

(4) その他、上記裁判所の認定などの項で、簡略に相当補修方法についての判示を紹介したが、判決本文では更に詳しく具体的に相当補修方法につき判示しており、この点でも参考になる判決である。技術訴訟時代の到来を告げる判決ともいえよう。

(澤田 和也)