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欠陥住宅を正す会の窓

昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている

         欠陥住宅を正す会では、

このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。

 

―正す会の窓・・・その73―

本年1月より、当会会員の獲得した新判例をご紹介しています。
今月は、当会会員が獲得した取り壊し建て替え代金をはるかに超える損害額認定と、基礎欠陥について詳しい見解を示した新判例をご披露いたします。

(21・9・10)

欠陥住宅被害者に夢と希望を与えてくれる

==当会会員が獲得した新判例のご紹介・・・その3==

基礎の一部を車庫の上に置いた珍しい設計の基礎。しかしこの場当たり的な住宅建設が不等沈下を招いた。―――基礎構造の在り方に詳しい見解を示した。
欠陥住宅訴訟を技術訴訟にした判決!!

広島地裁平成20年12月19日言い渡し
平成17年(ワ)第854号 損害賠償請求事件

判決獲得訴訟代理人          
当会代表幹事 弁護士 澤田 和也
当会専門委員 弁護士 中井 洋恵

1、事件の概要
 夫が現役を引退したのでそれを機会に老後のため原告は建売住宅を購入したが、その建物の基礎は別図のように、一部を車庫の天井に、一部を地上に造られており、法令の禁ずる異種の基礎の併用であったほか、上屋にも構造の手抜きがあって家は不等沈下し、この住宅にはひび割れや家の揺れ・傾きが発生した。
 それは、結局本件建物基礎の一部が布基礎で一部が車庫の床版をベタ基礎としたものにまたがっており、基礎に一体性がなかったことによるものだったが、判決ではこの基礎の欠陥の具体的内容と判断を詳しく認定すると共に、この建物はすでに平成4年4月に買い受けたもので訴提起時たる平成17年までには10年以上も経過していたが、本件建物の不具合発生原因を消費者が専門家の調査鑑定により知ったのはまだ3年以内のことであるとして、不法行為による原告の損害賠償請求の時効が成立しているという被告抗弁を認めなかった。

(赤ラインが車庫部分)

 また、建物の上屋にも木造建物としての法定基準に欠ける欠陥もあった。そこで原告は結局は取り壊し建て替えるほかこれら基礎及び躯体構造の欠陥をも除去出来ないものとして取り壊し建て替え相当代金や関連損害を含め3845万4200円の法定利率による損害金の支払いを売主(有)Sホームや、この建物を建設した建設会社(被告B社)、また同社の代表取締役(被告C)並びに設計監理者である建築士(被告D)に対し損害賠償を請求した。なお、売主(有)Sホームとの争いは、訴訟中他の被告等とは分離され、判決はこの(有)Sホームを除いた3被告に対して下された。
2、原告請求金額と認容金額
請求金額 被告B社(建設会社)、C(被告B社の代表者)、D(設計監理に当った一級建築士)等に対しそれぞれ不法行為を理由に取り壊し建て替え代金のほかその他の関連損害を含め金3845万4200円や法定利率による遅延損害金(建設会社であるB社には商法所定の年6分。同社の代表者C,及び設計監理に当ったD建築士には民法所定の年5分の割合)をそれぞれ請求した。
 
認容金額 判決は被告等は連帯して  金3664万2800円の支払いと平成4年12月4日から年5分の遅延害金の支払いを命じた。
3、認定損害額の内訳
(1)取り壊し代金 2891万2800円
(2)取り壊し建て替え期間の賃借り費用 130万円
(3)引越し費用 30万円
(4)欠陥調査鑑定費用 150万円
(5)再度の不動産登記費用及び不動産取得税 30万円
(6)慰謝料 100万円
(7)弁護士費用 333万円
(8)以上認容損害合計 3664万2800円
4、適用法条
(1) 本件建物を売主Sホームより請負し受注し建設した被告B社に対して、
本件基礎や軸組み、躯体の建基法に定める構造基準違背の施工が建設業法25条の27に定める法令遵守義務の職責に違背して本件欠陥を発生させたものとして民法709条による不法行為責任。
(2) 被告C(被告B社の代表取締役)に対して、
旧商法266条の3又は民法709条による代表取締役としての法令遵守をしての相当な建設業務を会社に為さしめるべき代表取締役としての職責に違背したものとしての不法行為責任。
(3) 本件建物を設計し工事監理をした被告D(一級建築士)に対して、
建築士法18条に定める職責に違背して相当な設計や工事監理を為さず、本件欠陥を発生させたものとして民法709条による不法行為責任。
5、本件の争点
(1) 本件地上と隣接する鉄筋コンクリート製車庫の床版(屋根)とにまたがる基礎の相当性。
(2) 欠陥の補修方法――部分的補修で足りるか、取り壊し建て替えるほかないのか。
(3) 各被告の責任の有無とその適用法条。
(4) 不法行為責任の消滅時効の成否。
6、裁判所の判断
(1)基礎について
 本件建物は通常地盤およびすでに建てられていた鉄筋コンクリート製車庫の床版(屋根)にまたがっている。それはほぼ6対4の建物の床面積割合となっている。
 そこでこの基礎のあり方が建基法施行令38条2項に定める異種構造の基礎にあたるのではないかという点に関しては、この判決はまず「異種構造の基礎」とは布基礎、杭基礎、ベタ基礎がそれぞれ別の基礎であり、これらのうち二つ以上が用いられている場合は同令38条2項が禁止する異種基礎の併用に該当するとした。しかし本件の布基礎も車庫上の基礎も共に直接支持地盤の上に築造せられた直接基礎である点では共通しているから、両基礎を緊結して一体化すれば一体の基礎として建物荷重のスムーズな伝達には欠けることがなく、令38条2項が禁止する異種基礎と目すべきではないとした。しかし本件では車庫の床版と車庫以外の布基礎との間を一体に緊結する措置が講じられていず、結局本件建物の基礎は一体性に欠けるものとして令42条2項には適合していないと判断した。
 また上記同令42条は建築物の荷重及び外力が土台から基礎を通じて地盤に伝わっていることを想定しているので、土台の下に基礎を設けるのを原則としていると解せられる。然るに、本件建物の車庫床版利用の基礎部分には基礎の立ち上がりがなく、又それがある部分には鉄筋コンクリートの立ち上がりがなく、又ある部分には鉄筋コンクリートの代わりにコンクリートブロックが置かれていて、結局基礎がないと見るべき所がある。そこでこの土台の下に基礎を設けるという建基法令の原則にも適合しているとは見られない点がある。
 そして、車庫の床版上とその上部の基礎の立ち上がりは異なる時期にコンクリートが打設されたもので、立ち上がり部分の鉄筋の床版への定着はされていない。
 そこで、車庫床版とその上部の基礎の立ち上がりは一体化されておらず、車庫上の基礎は同令42条2項に適合していない。それと共に本件建物のうち車庫上に存する部分には土台と基礎との緊結が為されていないので、この点でも同令42条2項に適合していない。また、本件車庫の床版の鉄筋コンクリートはかぶり厚が不足し同令79条の基準を充たしていない。

(2)相当補修方法について
 被告らは、車庫の床版と車庫部分以外の基礎とを一体化するためにはケミカルアンカーを使用し、高強度無収縮モルタルを使用すれば上屋全体を壊さなくても補修可能であると言うが、車庫および布基礎との接合のためにはケミカルアンカーの定着長さが足りず、もともとその接合は予定されていないから、車庫と布基礎との一体化は不可能である。
 それに、車庫の床版と土台との間に充填される高強度無収縮モルタルは無筋なので有筋である車庫床版とは一体化できない。などの理由から「ケミカルアンカーなどの使用による部分的補修が可能である」との被告抗弁を排斥し、取り壊し建て替えるほかないものと認定した。

(3)各被告の責任原因
 原告主張どおり認め、被告全員の不法行為責任を認定。また工事監理は名板貸しにしろ本件建物を購入した原告に対しては賠償責任を免れることは出来ないと判示した。

(4)消滅時効について
 単に欠陥現象であるヒビ割れや揺れを以前から知っていたとしても、その原因が本件基礎や構造躯体の欠陥に基づくものとは第三者の専門家の調査鑑定を経た時点までは判らなかったのであるから、この欠陥原因を理由とする不法行為責任の消滅時効は完成していず、本訴訟請求権は消滅していない。
7、評 釈
 以上詳しく裁判所の判断を紹介したが、これでも明らかなように、本件では基礎構造の相当性について建基法施行令38条や同42条の解釈についても詳しく判断しており、基礎の欠陥判断を具体的に示した判例で、実務上大いに参考になる。
 基礎や地盤補強についての手抜きが頻発する昨今参照すべき点の多い判決であると共に、建物想定購入代金価格をはるかにうわまわる損害賠償額を認定している点、及び消滅時効の起算点に付き判示している点も参考となる。 学ぶ所が多い判例であると思う。

(平21・9・11 澤田和也)