昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている
欠陥住宅を正す会では、
このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。
―正す会の窓・・・その80―
明けましておめでとうございます。
今年もご愛読いただく皆様方のお役に立つ情報をお届け致します。
新年号は当会会員ご夫妻が獲得された判決のご紹介です。
平成22年 元旦
欠陥住宅被害者に夢と希望を与えてくれる
===当会会員が獲得した新判例のご紹介・・・その4===
被害者夫婦の
涙と汗でつくられた ≪23年目の正直判決≫
今年12月12日の大阪で、12月19日東京での公開シンポでご紹介しましたが、この判例は基礎と地盤の欠陥についての様々な論点を含んでいて実務上も重要な論点を含んでいますが、それよりも何よりも“23年目の正直”として23年もかかって欠陥被害を回復した夫婦の涙と汗の結晶として、我々被害者に希望と光明をあたえる判決として受け止めてほしいのです。
やはり神も仏もあったのです。
大阪地裁平成17年(ワ)第8159号、同18年(ワ)第13225号 損害賠償請求事件
大阪高裁平成20年(ネ)第1210号 損害賠償請求控訴事件
最高裁平成21年(受)第1292号 損害賠償請求上告事件
ここでは事件について詳しい解明と解決を与えてくれている高裁判決をご紹介します。
この高裁判決の内容が確定したものですから。
判決獲得訴訟代理人当会代表幹事 弁護士 澤田 和也
当会専門委員 弁護士 中井 洋恵
当事者の表示
一審原告 |
N夫妻 |
一審被告 |
M興産株式会社 |
同 |
M建設工業株式会社 |
同 |
M興産(株)・M建設工業(株)販売・施工両会社社長H・M |
同 |
設計者・工事監理者M・N |
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1、事件の概要
昭和63年6月11日、定年退職をまじかに控えた原告は、大阪郊外川西市の丘陵地に造成された新興住宅地で、被告販売会社より後記目録記載の土地と旧建物を購入しました。
そして同年8月には原告等はこの建物(旧建物)に入居しましたが、その半年ぐらい後から敷地の擁壁には亀裂が走り出すとともに亀裂が大きくなりました。
本件敷地は丘陵地に造成されたもので、東側に高い擁壁と南側にやや低い擁壁をもつ典型的な造成地です。そこで平成3年3月頃、この亀裂が安全性にかかわるのではないかという心配と、もしかして壊れるのではないかとの心配から一審被告の販売会社にクレームを言いました。
同年5月、同社の従業員が現地を見に来たものの、「地盤がまだ落ち着かないからそうなるので、落ち着いたらまた補修いたします。」といわれたので、一審原告は若干様子を見ていました。が、しかし相手方からは相当な対応がなされず、一審原告は平成4年10月住宅検査協会に現状の欠陥についての調査を依頼しました。
その結果本件敷地を含む住宅地は丘陵の西から東に下る傾斜地を宅地として造成され、本件敷地の西側部分は地山を削って宅地としている一方東側部分は盛り土をして宅地化されているところから、東側部分にある本件敷地がこの盛土部分として沈下して旧家屋も沈下して傾いたのだという説明を受けました。
そこで一審原告は、平成4年11月27日一審被告販売会社に対してこの住宅検査協会の調査報告書を添えて建て替えを要求する書面を送りました。
更に平成5年7月及び8月に、一審原告らは一審被告販売会社に対して再度建て替えの請求をしましたが、一審被告側は建て替えを拒否し補修で済ますことを提案したため、話しはまとまらない状態がつづきました。
平成6年10月1日、一審原告(夫)と一審被告販売会社との間で旧建物の解体及び外構工事を含む完全建て替えを行うことと一審原告側がその費用のうち500万円を負担し、地盤改良強化工事費用は一審原告(夫)と一審被告販売会社の折半とする、建て替え工事のための引越し費用及び借家賃料等の費用は一審原告(夫)が全額負担することなどを合意しました。
阪神震災後の平成7年1月31日、上記両者の間で一審被告販売会社が旧建物の基礎構造などに不相当な箇所または瑕疵があることを認め、旧建物について建て替え工事を行い地盤補強または相当な基礎構造に改めることを約した上、旧建物の収去及び建て替え工事費のうち500万円を同一審原告が負担すること、基礎構造又は地盤改良の費用については折半すること、工事の始期は同年6月1日を予定することなどの基本方針が合意されました。
このような経緯からすると一審被告販売会社が旧建物の基礎構造などに不相当な箇所または瑕疵があることを認めたもので,築後まだ約7年の旧建物を取り壊し地盤改良または基礎工事を行って本件建物を再築することとしたもので、一審販売会社及び同建設会社や本件工事の設計監理を担当する一審被告M・Nは本件敷地の地盤改良や基礎工事に付き慎重かつ厳格に行う注意義務を負担し、旧建物のような事態を生じないようにするべき注意義務があったものと見られます。
つまり、一審被告会社らは通常の住宅工事の場合とは違って、それを上回る特段の注意義務が課せられたものと見ることができるのです。
また一審原告(妻)は本件建物の共有持分2分の1の登記名義人であり、また一審原告(夫)は本件請負契約の注文者であり、本件建物の共有持分2分の1の登記名義人です。
然るに、本件建物の設計施工を行った一審被告等はこの注意義務を怠り、そのため本件建物の基本的安全性を損なう瑕疵を生ぜせしめた場合には一審原告等に対し不法行為に基づく賠償責任をも負担することになります。
一審原告(妻)は共有持分2分の1の登記名義人であり本件建物新築以来居住していますので、設計施工者や設計工事監理者においては一審原告(妻)に対して基本的な安全性を損なわないようにするべき注意義務があり、結局一審原告等にこれを怠った場合には不法行為に基づく損害賠償義務を負担することとなります。
なお、本件原告及び被告の欠陥及び補修の方法についての主張の相違は末尾添付別表記載の通りです。
要は本件欠陥が基礎や地盤に存在する以上、これらの修補が当然のことですが、「はたして取り壊し建て替えなくても補修できるか出来ないか。」が最大の争点となります。
なお、本件建物築造以前から存在した敷地擁壁の箇所についても争われましたが、阪神大震災後の擁壁の変動による盛土の沈下が本件建物に影響を与えることは想定できなかったものとして、設計施工監理者には過失がなかったものとされまし。
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2、瑕疵修補に変わる損害賠償について
一審判決では一審原告(妻)は本件請負契約上は注文者であるとは認められず、ただ所有権登記について2分の1の共有持分の登記名義人にすぎないから、同人については請負契約上の注文者であるとすることにする民法634条の請求は認められないとされました。
また一審原告(夫)は請負契約上の注文者であることは間違いないので瑕疵担保請求権はあるものの、本件契約書には民法634条に基づく瑕疵担保責任については除斥期間の定めがあり、同原告はこれを認諾していたものと認められるから、結局この期間を経過した一審原告(夫)は一審被告建設会社の瑕疵担保責任を認めることは出来ないと判示しています。しかしこの点については通常構造欠陥、特に基礎や地盤の瑕疵2年以内でその瑕疵に基づく欠陥現象が顕著にはならず、素人の消費者にとって欠陥発見が困難であると認められるので、この除斥期間の特約の適用はないものと解すべきです。特に本件契約は基礎や地盤に基づく欠陥により再度の建て替えを約したものであるから当然この点について留意し、この除斥期間の特約を排除すべきであったと考えられるので、この短期の基礎や地盤についての除斥期間の特約を認めて一審原告のこの瑕疵修補にかわる損害賠償請求を排斥したこの高裁判決の認定は不当であると考えられます。
もし、一審原告(夫)に瑕疵修補にかわる損害賠償を認めておれば、瑕疵担保責任には故意・過失や注意義務の要件の定めはなく、ただ基礎や地盤に瑕疵があることを主張立証すれば足りたもので、後述の不法行為責任の場合のように注意義務の具体的内容とその懈怠について詳しく認定する必要がなかったものと考えられますので非常に残念です。
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3、不法行為に基づく損害賠償について
これについては高裁判決は最高裁平成19年7月6日判決をうけ、工事請負人や設計工事監理者には『基本的な安全性が欠けることのないよう配慮すべき注意義務を負っている』として、一審原告両名に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を認めました。
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4、基礎と地盤の瑕疵内容について
また旧建物にとられていたベタ基礎を新建物では採用せず、設計工事監理者が単なる布基礎にしたことについては、布基礎と柱状改良体とを一体性あるものに設計したことにするものだとしか考えられないところ、一審被告等は柱状改良体をもし偏心させる必要があったとするならば、これに相応する建物荷重を的確に柱状改良体に伝達できる基礎構造を設計施工する注意義務があったと見るべきであるとして、高裁判決はこの注意義務を怠った一審被告等に注意義務違反を認めた。
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5、原判決の論旨
このように高裁判決は基礎と地盤の関係について具体的にその適否を論じており、本件基礎の現状が面状の鉄筋コンクリートになっていて必ずしも通常のベタ基礎とみられないとしても、この面状基礎が建物荷重をベタ基礎の場合と同様基本的安全性の有無の判断に関してはベタ基礎の基準や諸法令の規定が参考となるべきとして、基礎と柱状改良体とが偏心している本件基礎に付き相応な配慮がされていないとして欠陥と判断しています。
このように本件判決中には基礎と地盤の瑕疵について具体的な事例を挙げての可否を論じている点が大いに参考とすべき点をもっている。
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6、請求法条
- (1)民法634条に基づく瑕疵あることによる損害賠償責任。
- (2)民法709条や旧商法266条の3の不法行為に基づく損害賠償責任。
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7、本件上告審と第一審判決
一審被告等はこの高裁判決が平成21年4月9日言い渡されて後、この判決を不服として上告しましたが、最高裁は同年9月15日この上告申し立てを『事実誤認または単なる法令違反を主張するものである』との理由で却下し、本件判決はここで紹介した高裁判決のとおり確定しました。
また一審判決は一審原告(妻)については賠償請求を認めず、一審原告(夫)に対する認容額も981万9596円とこの高裁判決よりは低額でした。この判事は原告請求を極端に厳格にしぼる傾向のあることで有名な人で、この二審判決はこれに反し事案を社会正義の観点から捉えていて妥当な判決です。
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8、原告ご夫妻の獲得賠償金(大阪高裁平成20年(ネ)第1210号判決金)
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(1)判決元金 |
原告(夫) |
10,500,000円 |
(妻) |
10,000,000円 |
計 |
金20,500,000円也 |
- (2)同上遅延損害金
本件建物引渡し日たる平成7年11月23日より平成21年4月23日までの
上記元金2,050万円也の支払い済みまでの年5分の割合による遅延損害金。
金13,754,657円也
- (3)獲得元利合計
上記判決金と遅延損害金の合計金 金34,254,657円也
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9、上記ご夫妻の獲得賠償金額算定のもととなった認定損害の内訳
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(1)相当補修費(取り壊し建て替え相当) |
1,700万円 |
基礎の瑕疵についてのみ一審被告らの有責を認め、 |
擁壁の瑕疵については一審被告らの有責を認めず。 |
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合計 金2,100万円也
上記2,100万円也を共有持分2分の1ずつ原告両名に按分し、各人に1,050万円ずつ損害認定(但し原告(妻)は1,000万円しか損害請求していないので同人には判決主文上は、1,000万円也となっている)。
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10、評釈
昨今、基礎や地盤瑕疵に対する欠陥住宅紛争が増加してきており、本件判決はその瑕疵判断の点について大いに参考になるとともに、昭和63年の旧建物購入時より23年もかかって本件建物の欠陥被害解決にあたられた原告ご夫妻の努力の結晶を示したもので、その闘いの血と汗を示してくれるものとして、おおいに欠陥住宅被害者を力づけてくれるものです。
(平21・12・12 澤田和也)