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欠陥住宅を正す会の窓

昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている

         欠陥住宅を正す会では、

このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。

 

―正す会の窓・・・その93―

すでにご存知の方も多いことですが、長年消費者問題の解決に力を注いでこられた秋田市の弁護士津谷祐貴先生が去る11月4日未明、離婚調停の結果に不満を抱く事件の相手方だった菅原勝男容疑者の一方的な逆恨みによって無念にも命を落とされました。
日弁連の消費者問題対策委員長を務められ、まだまだお若く、これからも弁護士として益々円熟ご活躍されるお方であっただけに残念でなりません。
警官の初歩的なミスに加え、このような狂人によって人生を無残にも断ち切られた悔しさはご本人・ご家族にとって筆舌に尽くしがたいことでしょう。

ご遺族にお悔やみを申し上げ心よりご冥福をお祈りいたします。

(平 22・11・20)

★さて今回は常々代表幹事が思っていることを書いています。ご一読ください。

サラ金被害者と欠陥住宅被害者の違い
――なぜ私は欠陥住宅被害者に肩入れするのか――

『欠陥住宅を正す会』
代表幹事 弁護士 澤田和也

 サラ金被害者というのは、ご承知のように銀行でない町の金融業者から、主として自己費消のための金を借りた者が、支払った金利が法定の利息制限法を超える場合の借受人のことを言っている。
 弁護士のグループや各地の弁護士会でも、サラ金被害が大いに喧伝されその救済が叫ばれ、多くの弁護士が過払い利息の返還請求に手を貸している。でもどうも私にはいただけない。
 元々正規の金融機関では借りられない費消目的のために、高利の金利であろうとその金利を明示されてそれを承知で借り受けたもので、そもそもそれが被害にあたるのか疑問である。
 それに、普通の生活を送っておればサラ金から特に消費者金融を受ける必要もないわけで、私の見分するところでも借り入れ目的の多くは文字通り消費のための借受金で、繁華街の近くにサラ金業者やATM機が多いのを見ても遊興のために使われることが多いのではないだろうか。法定金利以上の金利を取ったとしても取られるほうも納得して借りたのではないか。私はそういう観点から、又は考えから、長い間消費者金融過払い利息金返還訴訟を受任したことがない。

 これに対して欠陥住宅被害こそまさしく消費者被害というべきで、手抜きをされることや、欠陥住宅を造られることを承知の上で住宅を注文したのではない。むしろ「欠陥のない快適な住い造り」の業者の看板を信用し、自身もそれを願って建設大臣か都道府県知事が認可する正規の建設業者に、とくに値切るわけでもなく、むしろ普通の値段で注文したのに、新築され入居して後、ものの半年もせぬうちに雨が漏る、床が沈む、家が傾く、崖崩れが起きる等々、これで地震や台風が来れば命の危険まで伴う恐怖心つきの被害を受けるのである。
被害の質とレベルが全然ちがう。
果たして両者とも共通に「被害」という言葉を使って妥当かどうか。

 だが両者の救済の訴訟手続きは“月とすっぽん”ほど難易の差がある。
だいいちサラ金被害の場合、業者に貸し金の元帳もあれば消費者側には領収証その他の証拠もあり、欠陥住宅の場合のように雨が漏る、家が傾くなどの欠陥現象が明白でも裁判ではその欠陥現象によって生じる欠陥原因を主張して、例えば雨漏りの場合、窓サッシの納めが悪く防水紙が水切りの役目を果たしていなかった、とか言わなければならないのなら易しい方で、たえば不等沈下の原因が地盤に見合わぬ基礎構造にある場合など、難しい欠陥原因の場合には被害者の主張立証は困難を極める。
通常は弁護士ひとりでは処理しきれない。欠陥問題に精通した建築士の助力を得て初めて訴訟追行が可能となる。

 通常の場合でも欠陥住宅訴訟は、先ず依頼者の欠陥現象の縷々たる説明と、建設資金を如何に苦労して貯めたとの経緯、業者を選んだ経過、信頼していたのにその信頼を欠陥という形で返された悔しさをごまんと聞くところから始まる。
 そして、弁護士だけで欠陥原因がわかる場合もままあるが大抵は相談の段階から建築士の調査鑑定を待たなければならないことが多い。建築士の現場調査に立ち会うことも後日の鑑定書の理解や訴訟追行のためには不可欠である。そして訴状を書くのにもサラ金の訴状と違って一時間足らずで書き上げられるものではない。
建築士からの調査報告を更に新たな聞き取りや文献資料で補って、はじめて訴状の請求原因の骨格ができあがる。
 先ず早くとも当初の相談から訴状提出まではつめて努力しても3ヶ月はかかるだろう。それでようやく訴状は出したもののその後の訴訟追行がまた大変である。
サラ金訴訟の請求原因などは一読して納得できるのに30分もかからない。しかし欠陥住宅訴訟の訴状となるとそうは簡単にはいかず、請求原因の記述の技術的説明を常識的に理解するだけでも当初は大変な時間がかかる。
初めから取り組んでいる原告代理人においてそうなのだから、受身の被告側の代理人や裁判所は訴状の理解にまず時間を要するのである。
それも最初から訴状で尽くすべきは尽くされている場合でもそうなのだから、大抵は調査や研究不足で不完全燃焼部分も多いことから、受け取る裁判所や相手方においても読了し相当な応答を出すにはかなりの時間がかかるのは当然で、それも多くは専門家の助けを得なければならず、大抵の場合相当主張が整理されるのにほぼ1年近い年月がかかる。
証拠調べに入っても専門技術的事項が多いから、証人を申請する主尋問側においても相当な手間と時間がかかる上、受けて立つ相手側となればそれに倍する防御の時間が必要となる。
 このように欠陥住宅訴訟の主張立証は双方が充分に準備研究しているときにも2・3年はゆうにかかる。
請求原因が難しく、まだ特定されていない案件や新技術が展開される案件ではこれに倍する時間がかかる上、通常訴訟の場合と同じく訴えられる側は、分かっている場合でもわからないと装い引き伸ばしを策するから、なおさら長時間がかかる上に、訴訟を進める申立代理人は心身ともに果てるほどの努力を要求されるのである。

 このような次第で、たいての弁護士は建築訴訟を当初から避けるなり技術訴訟の分野に入らないように苦労している。
一度すれば欠陥住宅訴訟の手間のかかることは弁護士の骨身にしみるから、よほどの条件が整のわない限り欠陥住宅訴訟を技術訴訟として真正面から追行しようとする弁護士はそう数多くない。
 それにいまひとつ弁護士を悩ますのは依頼者の苦情の質と頻度の問題である。
 一生に一度のお買い物を台無しにされた恨みは骨髄に徹し、相手方にその怨念を直接ぶつけ晴らすことが出来ないところから、自分が頼んでいる自分のために努力してくれている弁護士に絶えざる苦情を述べる人が多い。依頼者でありながら、電話が掛かってきても出たくないというのが往々見て取れるところである。

ところで弁護士の報酬形態は獲得利益、つまり取れ高の1割から3割程度の範囲で決められているから、同じ受けるのであれば手間ヒマかからず苦情も少ない通常訴訟を受任したがるのは当然で、それが現在の欠陥住宅訴訟の実情である。

色々と言い訳めいたこと、気苦労の多いことを述べ過ぎたとは思うが、こういうことを書くのも欠陥住宅訴訟を引き受けて追行してくれている弁護士の実情をご理解していただき、被害者、受任弁護士、共々相互理解の上に立って、物的人的に困難な欠陥住宅訴訟を真の消費者訴訟として育てていってほしいと思うからである。

(平成22年10月25日)