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*****欠陥住宅対策の道しるべ*****
   
   
 

(その10)  欠陥住宅紛争と仮差押

――かえって悪い結果を招くこともある――

欠陥住宅を正す会        
代表幹事 弁護士 澤田 和也

   
 

 仮差押(民事保全法20条)とは、手形金支払いや損害賠償債権のように金銭の支払いを求める債権について、本来の取立て裁判や賠償判決が出る前にそれまでに債務者が自己所有物を処分して、仮に裁判で債権者が勝っても、債権者が強制執行をするにも債務者に何もなくなっていて債権の回収ができなくなることを防ぐため、予め債務者の財産を仮に差し押さえておくという手続きである。但しこの仮差押が出来るのは債務者が財産を処分したりするおそれのある場合、つまり仮差押の必要がある場合に限られている。

欠陥住宅裁判も業者などに金銭の支払いを命じる裁判なので、当然債務者である業者が資金繰りの状況が悪くなって倒産しかけていたりすると、仮差押をする必要があるとして仮差し押さえ命令をとることが出来る。だから判決が出ても相手が倒産していたり財産を散逸していたりする懼れのある場合には、当然仮差押命令を求めるべきだということになる。


そこでこの債務者の財産を保全する必要から、よく欠陥住宅訴訟の場合でも予め欠陥をつくった業者や責任のある建築士の財産を押さえておいたら安心だというので仮差押をよく奨める弁護士がある。


確かにそうしておけば裁判が終わっていざ相手方から取立てをしようとする場合には安心だけれども、仮差押にはメリットの面よりはデメリットの面が多いのである。先ず第一に仮差押は本来の裁判のように充分な証拠調べをしないで決定がされるので、時として虚偽の申し立てによって相手方が損害を受けることもある。そこで相手方の損害防止担保のため仮差押決定に際しては申立人に保証金を積むことを命じる。つまり保証金が要るのである。たださえローンに追われている欠陥住宅被害者にとっては、その捻出は甚だ困難である。しかも通常の手形訴訟や取立て訴訟の場合には請求額が確定しているのでそれを目安に保証金も決められるが、欠陥住宅の損害賠償はその損害額が区区別々で、しかも申立人の言う通りの欠陥があるかどうかは中々判断しにくいので必然的に裁判所側も相手方の損害を少しでも少なくする趣旨で、通常では申し立て額の1〜2割程度の保証金額を2〜3割、時として5割近くにすることもある。こうなってはもはや通常の欠陥住宅被害者はお手上げとなる。


それに仮差押はやみくもにどんな業者に対しても出来るのではなく、通常、メーカーといわれるような健全な財務状況の相手には保全の必要がないとして認めてくれないし、また実際の問題としても資力のある相手なら裁判に勝っても賠償金を取れないということはまず無いので、そもそもこのような相手には仮差押を考える必要が無いことになる。


そこで、仮差押をする一番のメリットのあるのはいつ倒産するかもしれない零細業者相手である。しかしこのような相手に仮差押決定が出ると不信用事実発生として相手方は銀行からは取引停止や融資の締め付けにあい、また下請けや材料の購入先からは代金未払いを恐れて下請け仕事を打ち切ったり、材料の納入を拒絶されたりなどして、ますます相手方の経営状況を悪化させ賠償金支払い能力を低下させ、時として相手方を倒産に追い込む。


確かに相手方が判決時に支払い能力を落としていても、仮差押した財産は通常では優先的に仮差し押さえを申し立てた者がその財産に強制執行をして賠償金の請求が受けられる。が、しかしそのような場合他の債権者が黙っているはずも無く、相手方に破産申し立てをして破産決定が出れば、その仮差押した財産も破産財団に組み入れられて平等配当の財源になるだけである。これでは高い保証金を掛けて他の債権者のために相手方の財産を仮差押したのと同じ結果となる。


このように一般的な法律知識では仮差押は債権保全の効用はあっても、仮差押によって業者の不信用事実を作り上げると、結局は元の木阿弥となるおそれもあるので、経験の豊かな弁護士は俄かには仮差押をすすめないのである。


手抜きをされた被害者の被害感情では、手抜き業者は潰れてほしいと思い、潰れれば満足だと思うかもしれないが、業者が潰れてしまえば裁判に勝ってもせいぜいよくて破産の配当が受けられるだけで、それすら出ない悲惨な結末になることもある。相手が零細で不信用事実が予想される時には、相手の手抜きを騒ぎ立てず、経営の健全な間に訴訟を終えて判決金を回収するのが得策である。

“ニワトリを殺したら卵は産まない”

とはまさにこのことである。


最後に仮差押にも相手方の預金債権、土地建物などの不動産、請負代金債権など色々あるが、相手方が今建築中の第三者の建物の残代金について仮差押えをすることは特に慎重であるべきである。残代金の支払いの仮差押がされると、それが建築中の下請けや材料納入業者に伝われば、時として下請けはその第三者の住宅の施工続行を中止し、材料や設備の納入業者は納入品を現場から引き上げる騒ぎになることもある。彼らとて相手方からの代金未払いをおそれるからである。このような場合、消費者の救済を求め叫んでいる消費者自身が、他の消費者の被害を引き起す結果となる。


欠陥住宅紛争では、仮差押をするかしないのかには慎重であるべきなのである。


   
  (平成19・11・22 澤田 和也)
 

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