トップページ  
 
本会設立の趣旨  
 
本会の活動方針  
 
入会のご案内  
 
主な行事  
 
例会のご案内  
 
活動実績  
 
会の組織  
 
お知らせ  
 
正す会のバックナンバー  
 
道しるべバックナンバー  
 
お知らせ・その他バックナンバー  
   



消費者に役立つ 新しい住宅法制のご解説

欠陥住宅を正す会
代表幹事 澤田 和也
(体験者・弁護士)

1、初めに
 阪神淡路大震災を受けて、建物の安全性の確保を図るため建築基準法上の中間検査制度の強化や任意の制度ではあるが住宅の品質をあらかじめ確保するための『設計住宅性能評価制度』や『建築住宅性能評価制度』を定めた住宅品質確保法が平成11年に制定公布されるなどの措置が講じられたが、消費者保護には万全とは言いがたかった。
 またこのような状況下で、平成17年末に姉歯事件が発生し、建築士制度そのもののあり方や確認手続き上の盲点が浮き彫りにされたことと、多発する欠陥住宅被害と、ようやく被害救済の判決などを入手したものの業者の倒産によって実際の賠償金の支払いが受けられず、結果としては被害回復されない場合が多いことに鑑み、平成19年に至って新たに特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律が制定されるなどの措置が講じられた。
 なお、平成18年には建築士法等の一部改正をする法律(平成18年法律114号)をうけて、建設業法中の紛争審査会制度の充実を図る建設業法施行令の一部改正が平成19年4月1日から行なわれることとなっている。
 また、直接消費者保護に関係するものではないが平成18年には住生活基本法(平成18年6月8日法律61号)が制定されている。これは国民の豊かな住生活の実現を図るための住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策について、国や行政機関に対しその基本理念や責務など、住生活の基本計画その他の国や行政機関の策定に当たって考慮すべき基本事項について定めたものである。

2、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律

平成19年3月6日閣議決定。
同年5月末法案成立の予定。 なお新制度は2009年秋までに発足の予定。

 従来から欠陥住宅紛争の解決、特に裁判には手間がかかり、せっかく時間をかけて勝訴判決を得たものの業者が倒産し、結局泣き寝入りする場合が多々みられた。しかも住宅品質確保法によれば、新築販売後10年以内は「構造耐力上主要な

部分」や「雨水の浸入を防止する部分」については瑕疵(欠陥)担保責任を負うべきものとされている。にも拘らず、その責任が確保される措置が講じられなければ、結局この品質確保法の定めも絵に描いた餅に終わることとなる。
そこで、あらかじめ建設業者や販売業者の欠陥担保責任が実質的に履行されることを確保するための法案が策定された。そのために業者の担保責任履行確保のため資力及び賠償財源確保の方法を義務付けている。いわば品確法が欠陥防止のための入り口なら、この法案は被害救済を実効在らしめるための出口に当たるものである。
それには、供託と保険とがある。
供託は、

新築住宅の売主や建築請負人に対し、住宅の供給戸数に応じて賠償金引き当てのため、保証金を法務局に供託させるものである。そして、その売主が販売した住宅の欠陥について損害賠償請求権を有する者は、その供託金については他の債権者に優先して弁済が受けられる。そしてこの権利を有する債権者は、その欠陥損害賠償請求について勝訴するなどして判決などの債務名義(判決など強制執行できる法律上の文書)を得た時などには、この供託金の還付の請求をすることが出来るとされている。
保険は、
新築住宅の売主や建築請負人に対し、供託と並ぶ別の資力確保方法として、欠陥による賠償債務の履行確保のため業者に住宅瑕疵担保責任保険をかけさせるものである。

この供託や保険をかけるべき業者とその内容
(1)建設業者 (第3条〜第10条まで)
住宅建設瑕疵担保保証金の供託

定められた基準日における新築住宅の合計戸数の一定の区分に応じて、それぞれ一定の金額の範囲内で、政令の定めるところで算定する金額以上の金額を供託する。但し上記新築住宅の戸数には、住宅瑕疵担保責任法人と責任保険契約を締結し、その保険証券又はこれに代わる書面を発注者に交付した場合の新築住宅はこの戸数より除く。
基準日ごとに、この供託及び責任保険の締結を国土交通大臣又は都道府県知事に届出をしなければならない。この供託をし且つ届出をしなければ、基準日から50日を経過した日以後は新たな新築請負契約はできない。
  品質確保法に規定する上記瑕疵によって生じた損害を受け

   

た新築住宅の発注者は、この建設業者が供託している保証金について、他の債権者に先立って弁済を受けることが出来る。そして、損害賠償債権について判決などの債務名義(強制執行の出来る命令文書)を得れば、その権利実行のため保証金の還付請求が出来る。
(2)宅地建物取引業者 (第11条〜第16条)
住宅販売瑕疵担保保証金の供託など
 これは(1)の住宅建設瑕疵担保保証金と同じように、売買契約により引き渡した新築住宅につき、瑕疵担保責任の履行を確保するためのものである。
 住宅瑕疵担保責任法人責任保険契約を締結して、その保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付した場合には、その住宅の戸数を基準日における供託の算定基礎となる住宅戸数から除外することが出来るのも(1)と同様である。
 なお、この供託をし且つ国土交通大臣や都道府県知事に届出をしなければ、基準日から50日を経過した日以後には、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結できない。また、買主が賠償債権につき債務名義を得た場合、他の債権者に優先してこの供託金より弁済を受けることが出来るのも(1)と同じである。
(3)住宅瑕疵担保責任保険契約にかかる新築住宅に関する紛争の処理
 この保険契約を掛けている新築住宅について、その請負契約または売買契約に関する紛争が発生した場合には、当事者の双方又は一方から住宅品質確保法66条2項の指定住宅紛争処理機関(各地の弁護士会の住宅紛争審査会)に申し立てし、斡旋・調停及び仲裁を受けることが出来る。

3、建築士法等の一部を改正する法律案
(1)建築士の資質、能力の向上

●建築士に対する定期講習の受講を義務付ける。
●講習機関の登録制度を創設
(2)高度な専門能力を有する建築士による構造設計及び設
備設計の適正化。
●一定の建築物について構造設計一級建築士、
設備設計一級建築士による法適合チェックの義務付け。
●小規模木造住宅などに関する構造関係規定の
審査省略を見直す(但し専門能力を有する建築士が設計した場合には省略)。
(3)設計・工事監理業務の適正化。消費者への情報開示。

●建築士事務所を管理する管理建築士の要件強化  
(実務経験等の要件を追加)。
●設計・工事監理契約締結前に管理建築士等による
重要事項説明及び書面交付の義務付け
(工事監理方法・報酬額・設計又は
工事監理を担当する建築士の氏名等)。
●分譲マンション等発注者とエンドユーザーが異なる
築設計などについて一括再委託を全面的に禁止。
●建築士名簿の閲覧。顔写真入携帯免許証の交付
(建築士・建築士事務所の登録)。
閲覧事務の実施に当たり指定登録法人制度を創設。
(5)団体による自立的な監督体制の確立。
●建築士事務所協会の法制化及び協会による
苦情紛争  解決業務の実施等。
●建築士会、建築士事務所協会等による
建築士等に対する研修の実施。
(6)建設工事の施工の適正化(情報の改正)
●分譲マンションなど発注者とエンドユーザーの
異なる物件について一括下請けを全面的に禁止。
●資格者証の交付を受けた監理技術者の配置を
必要とする場合を、公共工事だけから学校、病院等の
重要な民間工事に拡大。

4、建築物の安全性の確保を図るための建築基準法などの一部を改正する法律
(1)建築確認検査の厳格化

●木造では高さ13m超又は軒の高さ9m超、
鉄筋コンクリート造りでは高さ20m超など一定の高さ
以上の建築物について、指定構造計算適合性判定機関(新設) による構造設計審査の義務付け。
●3階建て以上の共同住宅について中間検査を
義務付け。
(2)指定確認検査機関の業務の適正化。
●指定要件の強化
(損害賠償能力強化・中立性要件・人員 体制など)
●特定行政庁による指導監督の強化。
・立ち入り検査権限の付与。
・指定確認検査機関の不正行為についての指定権に
 よる業務停止命令などの実施。

  

(3)建築士等の業務の適正化と罰則の強化

●耐震基準など重大な実体規定の違反
・・・懲役3年/罰金300万円(法人1億円)
●建築士、建築士事務所の名義貸し
建築士の構造安全性の虚偽証明
・・・懲役1年/罰金100万円
宅建業法の重要事項の不実告知等
・・・懲役2年/罰金300万円(法人1億円)
●名義貸し、違反行為の指示等の禁止を法定
(4)情報開示
●処分建築士及び建築士事務所の公表。
●指定確認検査機関の業務実績・財務状況・監督処分の
状況などの開示。
(5)住宅の売主等の瑕疵担保責任の履行についての
  情報開示
●買主に対し瑕疵担保責任保険の加入の有無などに
ついての説明を義務付け。
(6)特定行政庁に対して図書の保存の義務付け。
(7)建設業法の一部改正。
●請負契約書への瑕疵担保責任等に関する記載の
義務 付け。
●建設業者等の不正行為の罰則の強化。

5、私見
 特定瑕疵担保責任履行確保に関する法律は、欠陥住宅被害救済を実効性あらしめるものとして評価できる。ただ、その供託又は保険金額や損害の有無及び金額について争いがあった場合の指定住宅紛争処理機関の紛争解決能力の強化、解決結果の適正化、迅速化が望まれる。
 また建築士法の改正については言わずもがなことばかりで、単に建築士の不正行為の禁圧だけにとどめることなく、その根底にある建設業者又は不動産取引業者と建築士との業務上の癒着が生じる根本の是正。つまり設計工事監理の施工からの独立を目指すべきである。
 建築士が建設業者又は不動産取引業者の従業員又は機関となることが出来る現在の法律制度では、姉歯事件その他の欠陥住宅の発生はさけがたい。

 設計監理の仕事は建設業者から来るのではなく、一般消費者からの受注によるものとなり、設計監理業界が建設業界と
同等の地位・能力を持つ法制としなければ、根本解決とはならないと思う。

【付記】本稿 とくに3節〜4節については国交省のホームページを引用または参照させていただきました。

(19・5・1)