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<正す会通信・・・その54> 取り壊し建て替えざるを得ない欠陥住宅に居住利益や耐用年数伸長利益を認めず、欠陥賠償金の算定に際しこれらを賠償額から差し引くことを明確に否定した平成22年6月17日最高裁判決。
鉄骨建物で、柱と梁の溶接を手抜きしたりするなど結局は取り壊し建替えるほか相当補修方法がない場合に、取り壊し建替え相当代金を損害として認めることは当然なこととして、そこから欠陥賠償金が支払われるまでの間、欠陥住宅に居住していた賃料相当利益や賠償で建替えるまで居住できたことは結局は建物の耐用年数を伸ばしたことと同じ事となるので、この利益をも控除するのが公平だとする説が手抜き業者が言うならばともかく、弁護士や裁判官等の法律家の間ですら真面目に論議されてきた。
これら利益控除説に従えば、争って裁判を引き伸ばせば伸ばすほど賠償額が少なくて済むという不道徳な結論を生み出す。そもそもそのような欠陥ある建物に住むことが利益といえるのかという常識的正論もある。
ちょっと難しいが法律論的にも、賠償金を受け取る者の法律上の利益とは、手抜き損害から発生した利益でない限り真の意味での損益相殺の対象とはならない。
いずれにせよ馬鹿げた法律論は打ち止めにし、致命的な欠陥で困っている被害者の救済を厚くするよう努力することこそ弁護士や裁判官の職責であろう。
因みに、下級審では私がこの居住利益論を否定する判決をすでに平成7年に神戸地裁姫路支部で獲得している(神戸地裁姫路支判平7・1・30判時1531号92頁、又は拙著『欠陥住宅紛争の上手な対処法』442頁以下)。ご参読いただければ幸いである。
(平22・7・15 澤田和也) |