第四話


笑顔であった

およその人々が眉間に皺を寄せ

隣を歩くモノに敵意を抱き

自分は別だと言っていた

彼はそれでも笑顔であった

他人

ソレは「私」じゃないモノ

別なカラダにタマシイを宿し者

敵?

味方?

神?

奴隷?

許しがたいのは

屈服する自分でなく

支配しようとする自分だ


辺りは喧騒が支配していた。セカンドインパクト前から続く古い居酒屋は大変繁盛していた。ハッピを着た店員がレトロな店内を所狭しと走り回り、次から次へと注文をこなしている。

壁には、開店当時から現在までに来店した有名人のサインが並び、名前しか知らないような前世紀の演歌歌手らしき男の写真が妙に芝居くさい笑顔で前歯を光らせている。

「おい、加持じゃないか?…」――――― ハッピの一人が声を掛けてきた。

「お〜 山岡、なにやってるんだこんなところで」

「何って、見れば解るだろう。バイトだよバイト!、それよりおまえこそ何やってるんだひとりで」

「あ、いや…」―――――― く、なんでコイツがここに…

「ゴメン!お待たせ!加持君。」―――― ミサトが慌ててやってきた。

「な〜んだ、デートかよ! 流石は第二大一のナンパ師、紹介しろよ。かわいい彼女じゃないか」

「いや、これはだなー…」―――― うー、まだそこまでは行ってないのに……加持は思わず苦笑していた。

「なによ〜、ヘンな言い訳しないでヨ…」

そう言いながらもミサトは加持の優しい横顔を見つめていた。


18年前―――― 南極大陸

見渡す限りの白い世界だった。雪が舞い始めており視界は悪かった。

3人の黒い影がその中で動いていた。

「しかし、君は連れてくるべきじゃなかったな… 奥さん、そろそろじゃないのか?」

「いえ、まだ一月ありますから… 碇教授のお供をできるだけで光栄です」

「それじゃあ、来月から君もパパになるんだ…… ついこの間まで私のゼミで女子スタッフにチョッカイ出して怒鳴られていたのにな!」―――― 碇は悪戯な笑顔で葛城を見ていた。

「そんな〜 こんな地球の果ての雪の中でそんなこと思い出さなくっても――――― 相当問題児だと見ておられたようですね、この私のことを…」

「いや、自惚れちゃいけないよ―――― 只のナンパ学生だよ。」

「ム…、ひどいですねぇ教授!」

徐々に強くなってくる雪の中、二人は無駄口を聞きながらも作業を進める手は非常に効率良かった。

「だめだ! 天候がもたない。吹雪いてくるぞ、引き上げだ!」

少し離れたところで作業をしていた凍傷で真っ赤な顔をした男が叫んでいた。

「いや、ローリー、ちょっと待ってくれ。ここに何かあるんだ―――――――― これは一体なんだと思う、葛城君?」――――― まだ、ピントの合わないモニターを微調整しながら碇幸治は呼んでいた。

「えっ… なんか不思議なカタチをしてますね…… 見ようによってはヒトの形にも見えますが、このサイズは… キール博士にも見てもらいましょう。」

徐々にハッキリしてくるモニターに二人は見入った。吹雪の中でこの時間は非常にじれったかった。

「ああ… ローリーっ!ちょっとこれを見てくれ」―――――

「なんだ、どうした!」

「いや、例の影なんだが、ここから見ると明らかにヒト型に見えるのだ!」

キールは簡易モニターに映ったソナーの映像を覗きこんだ。

「こ、これは… しかし考えられん、南極大陸の地下の大空洞に眠る巨人だと!…… まるでスピルバーグの映画じゃないか…」

「しかし、これは事実だ。取り合えず発掘してみない事には何とも言えない。確かにローリーの予想した通り考古生物学史上最大の発見かも知れない…」

そろそろ吹雪いてきた調査現場で3人は黙りこくっていた。――――

「……よし、私はこれに関しての協力を国連に掛け合ってみる。コウジは各大学の専門家を当たってみてくれないか……葛城君は実際に必要な資材のリストアップをお願いする。…… これはすごい発見だ…」

葛城は違和感を覚えながら興奮するキールの横顔を見ていた。

ソナーのモニターには白いヒト型が黒い画面にクッキリと浮かんでいた。


ジオフロントはほぼ完成していた。

光ファイバーを通ってくるオレンジ色の光が彼のサングラスを染めていた。 

早いものだ… あれからもう18年か…

「議長」

「ああ、碇君。――――― どうかねユイ君の研究の方は?」

「フッ… キール議長ともあろうお方がそのような事を… エヴァ細胞の制御には若干苦労しているようですが… すべては修正できる範囲内です。まもなく赤木博士のマギも完成しますので不安は一切ないかと…」――――――

うつむき加減でメガネの奥から睨むような視線でゲンドウは答えた。

「勘違いはいかんよ、もはや君の仕事を忘れたわけではあるまいな?」

「当然です。――――人類補完計画、これこそが我々の唯一の目的。そのためのゲヒルンです。」

「――――― 民主党の一部の議員が我々の存在を疑っている。これは組織の方で押さえておくが… 我々に残された時間は僅かなのだ。君もその事を心して取り組んでくれたまえ。――――― 君も親になったのならもう少し自分の身を按じたまえ!」

「すべてはゼーレの仰せのままに…」

「ふん!」

キールは少々不機嫌な態度で踵を返すと足早に司令室を後にした。

ゲンドウは司令室の窓から、夕映えのような光の中、キールの乗ったVTOLが飛び立つのを見ていた。

「いいのか、キール議長をあんなに怒らせて。」

気付かぬうちに後ろに立っていた冬月が言った。

「なに、構いはしないさ。あれくらいが丁度よい薬だよ… 老人達には。」

ゲンドウは振り向きもしないでうめくように答えていた。

二人の沈黙を永遠の黄昏が包んでいた。


赤い光が乱反射して辺りに「波」を描いている

ユイは一人で途方に暮れていた。

水槽の中には大量の子供が浮かんでいた。しかしそれらはみな安らかに眠っているようであった。

――――どうしてかしら、生物学的には何の問題も無いはずなのに……

未だに一人も目覚めない…… これが惣硫博士の言っていたモンダイ?――――

―――― ガフの部屋の存在…… キリスト教的生命観ね……

「ふぅ…」

溜息をついてさめたコーヒーカップを持ってデスクに座ると、今や貴重なステンレス製の写真立てを手にした。

「シンジ… この子と同じくらいなのに…」

―――― なぜ…? 神がいるのだとしたらなんて罪なの… 命を作ろうなんて大それた考えかもしれない…… けど、それなら貴方はなぜこんなモノをワタシに与えたの?……ワタシを助けて……

真っ赤な水に浮かぶたくさんの「レイ」達が少し微笑んだ。

.

.

つづく


あとがき

ハッキリ言って、自分で書いていてコワくなってきた…(^_^;)

でも、アヤナミストのみなさん、怒らないで! だってタマシイが入る前の「レイ」と、「綾波レイ」は私の中では別物でして、決してワタシは悪くない…云々 ドカ! バキッ!⇒(アヤナミストの怒り)


一言でもいいです、感想を(^_^;)

ybt56253@sun-inet.or.jp

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