第5話


夢を見ていた

僕は周りを見回していた

茶色の大きな熊が横にいて

僕を見て笑っていた

 

隣には二人の少女がいて俯いて黙っている

不安になった僕が少女に声を掛けようとした時

「ピリリリー!」

どこかで強い笛の音が聞こえると

少女たちは顔を上げた

対照的な赤と青の瞳

 

僕の周りにいる人々は動き始めた

極めて規則正しく

行進をはじめた。

まるで玩具の兵隊みたいだ

 

 


ユイはほとほと困り果てていた。

研究もピークを迎え、中々シンジの相手をしてやれないのだが、シンジはゲンドウやユイが機嫌直しにと買って与えた玩具では一切遊ばないのだ。ゲンドウはほんとにめったに顔を合わせることはないのだがシンジにはいつもマメにお土産を買って帰った。

「ただいま。」

「おかえりなさい、今日は早かったわね…」

「オトシャン!」 

シンジが寝室から トトトッと走って出てきた。

「おお、シンジまだ起きてたか!」

そう言いながらネクタイを外すゲンドウの足元で、2歳になったばかりの小さなシンジが両手のひらをゲンドウに向かって伸ばす。

「オトシャン、オトシャン!」

必死に手を伸ばす。

シンジは抱っこをしてもらいたいらしい。

「シンジ、お土産を買ってきたぞ」

「シンジ、いらっしゃい。お父さんはお着替えしてらっしゃいますからね、ちょっと待ちなさい…」

ユイがそう言いながらシンジを抱いていこうと後ろから捕まえた。

「ちやうの、オトサンがいいの!」

シンジはユイの腕を振り解いて逃げた。

「もう… この子ッたら ホントにお父さんが好きね」

「そんな事はないだろう… ただ私が珍しいだけだよ…… ホラ、シンジおいで!」

着替え終わったゲンドウがシンジを抱き上げた。

「オトーシャン!」

目をまん丸にしたシンジが声を高らかに言う。

「あなた… 会議はどうでした?ドイツ支部はなんて…?」

「ああ、結論は我々と同じだ。やはり接触実験をやってみないことにはなんとも言えない。」

「そう…」

台所で食事の準備に掛っていたユイは手を止めてシンジの方を見ていた。

「ホラ、シンジ。 お土産だ!」

「おみゃーげ? コレな〜に?」

「くまさんだよ、シンジ。」

「くましゃん?」

シンジは熊のぬいぐるみをゲンドウから手渡され、じっとそれを見つめていた。

「あなた、お食事、どうなさいます?」

「ああ、戴くよ。」

そう言うとゲンドウは食事を摂る為にシンジを下ろそうとした。

「オトーシャン、オトーシャン!」

シンジは慌てて熊を放り出しゲンドウにしがみついた。

「おお… シンジ。くまさんはどうした?」

「オトシャンがいいの!」

シンジはべそをかいてゲンドウにしがみついていた。

「そうか…」

うん…ヒック…

二人がキッチンに去った後には寂しげに熊のぬいぐるみが残されていた。

 


仮称「第三新東京市」は計画の遷都にむけて凄まじい建築ラッシュであった。サードインパクトで落ち込んだ日本経済を持ち上げんとする一大国家計画であったので、その規模は想像を絶する巨大さであった。

ゲンドウと冬月は街全体を見下ろせるあの丘の上に来ていた。

「かなり進んだな…」

「ああ、どちらにせよ我々の計画には影響はない。」

「しかし… 碇……」

「そんな悠長なことを気にしている余裕はないのだ。ゼーレの計画は着々と進行している。ここの人々を救うためにも我々の計画を急ぐ必要がある。」

「…… ところで、例の接触実験の方はどうするのかね。ATフィールドの反応は明らかに幼体の方がよい結果が出ているが…」

「…ああ、それは考えてある……」

「……」

心なしか暗い声で答えるゲンドウを冬月は怪訝な表情でで見ていた。

夕刻に黄昏て行く眼下の第三新東京市では、兵装ビルの格納実験が行われていた。

巨大なビル群が距離も離れているせいか、無音で地下に沈んで行く。二人はそれから黙ったまま幻想的とも言えるその光景を見つめていた。

 


「エヴァとの接触は… そう、まるで海に吸い込まれるよう……」

ドイツ支部の惣流博士とユイは仮想空間上の会談を行っていた。 惣流・キョウコ・ツェッペリンは葛城博士の一番弟子で、遺伝子工学の第一人者であり、また考古生物学界でもその実績は常に注目されていた。キョウコはエヴァ細胞の分析の結果それを覚醒させるためには、現存の何らかの(自我)との接触が絶対に不可欠である。との見解をとなえ、その実験を繰り返していた。

エヴァ細胞の培養に成功していたユイはそれに続く(覚醒)という問題で壁にぶつかり、もう半年もの間実験は進歩していなかった。ゼーレから結果を急がされることもありかなり煮詰まっていたユイにキョウコから会談の要請があった。キョウコは生粋の日本人で黒い瞳に、ナチュラルウェーブの掛かったショートヘヤーと少々ハデな赤いピアスが印象的であった。最も衣装は職業がら白衣という地味なものであったが、その足元から覗くパンツはやはり赤のカラージーンズで、彼女が赤い色が好みなのはすぐに判った。

「お久しぶりです惣流博士。出産のときにはお世話になりました」

「なにをカタいこといってるの。キョウコでいいわよ。ホントに昔からあなたはカタブツね… でもそういうとこ嫌いじゃないわ」

ちょっと強気な態度で不思議な話をキョウコが言ったので、過去に2回会っただけのユイは少し驚いた顔でキョウコを見ていた。

「プッ…クク フフフ… あなたホントにあのひょうきんな碇博士の娘なの? まあ、ムチャクチャなひとだったから、同じでも困るでしょうけどね」

「……」

ユイは俯いて黙っていた。

「冗談よ、冗談。 そんなに深刻な顔しないの!」

そう言うとキョウコは触れられるくらいすぐそばまで寄ってきて(勿論イメージ上のコトだが…)ユイの顔を覗き込んだ。

「(実験、煮詰まってるんでしょ)」

耳元で囁くように彼女は言った。ユイが驚いた顔を上げた時、先ほどの軽口からは想像もできないほど優しい笑顔のキョウコがいた。

「私、色々と試してるんだけど… フフ…ココだけのハナシだけどね…」

キョウコは悪戯っぽく笑うとヒソヒソ話をするように話し始めた。

「…私、自分でエヴァに接触してみたの。ホンの一瞬だったけど…」

ユイは驚いて言った。

「でも、それはキール議長からも止められてるんじゃ? 直接の接触は委員会の指示を待てと…」

「バカね〜。あんなじーさんの言うこと聞いてたら実験なんて一生進歩しないわよ。」

ユイはそう言うキョウコの表情に思わず苦笑してから聞いた。

「で、結果の方は?」

「そうね…エヴァとの接触は… そう、まるで海に吸い込まれるよう……」

「……」

「そう。間違い無くここに最大のポイントがあるわ…… だから、私はまたやってみるつもりなの。それしかないわ…いきなり子供たちを危険にさらすようなことはできないもの… ウチのダンナは子供のことに無関心だし…… その点、アナタはいいわね〜 ゲンドウ所長みたいな優しい男がいて…」

「そう… かしら……」

「そうよ、だいたいアイツはね〜 昔っからオンナに甘いのよ…」

そのとき、フィールド全体が少し歪んだかと思うと、仮想空間にゲンドウが現れた。

「ワタシが何だって?キョウコ君。」

「あら〜 聞こえてましたぁ? 優しいゲンドウ所長…」

「君はワタシが見ていないと何を言い出すやら… ユイもこいつの言うことを間に受けるな。」

ゲンドウは少し焦ったような顔でユイに向かって言った。

「そんな〜 キール博士のATFL以来の仲じゃないの〜 ブリュッセルの休日が懐かしいわ…… でも、そうやって焦るところがゲンちゃん可愛いわ〜」

キョウコは少し猫撫で声でゲンドウに言った。

「く… お前とそんな仲になった覚えは無い! ユ、ユイ。ワタシとキョウコはなななんでもない!」

ゲンドウはキョウコの口撃に焦りまくっていた…

「そうかしら…」

ユイの一言は冷たかった。

つづく


あとがき

あ〜 話が脱線しそう… (^_^;) このまま行っても良いんだろうか…

ね〜 綾波ぃ… 助けてよ〜 アスカのお母さんがいじめるんだ…

次回、変わる世界?!(ウソ)

一言でもいいです、感想を(^_^;)

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