blueball.gif (1613 バイト)  平妖伝  blueball.gif (1613 バイト)


2 聖姑姑、則天武后の霊に出会う


時は移ろい、王朝第三代皇帝・真宗の御代のこと。ある山中に姓を持つ狐の一族がくらしていた。一族の長は年老いた白い女狐であり、変化の術を得意としたので、みなから聖姑姑(せいここ)と呼ばれて崇められていた。彼女には二人の子供がおり、兄を胡黜児(こちゅつじ)、妹を胡媚児(こびじ)と言った。

黜児はある日里へ下りたところ、猟師の趙壱(ちょういつ)の妻・銭氏に一目惚れし、彼女を誘惑しようと考えた。彼は白面の書生に化けて、機会を見つけては銭氏に声を掛けるが、彼女は一向に心を動かさない。それ所か逆に趙壱に正体を知られてしまい、左足に彼の放った矢が命中して重傷を負った。彼は痛みをこらえて一目散に母のもとへ逃げ帰った。

聖姑姑は我が子が重傷を負って飛び込んできたのに驚き、取り敢えず左足の矢を抜き、処方をして寝かしつけたが、黜児は弱っていくばかりである。そこで彼女はみすぼらしい老婆へと変身し、四川成都に住む名医・厳半仙のもとへと向かった。厳半仙聖姑姑に会うなり、その正体が老狐であることを見破り、彼女に丹薬を与え、詳しい処方を教え聞かせて帰した。聖姑姑は昼夜を問わず歩き通して住処へと戻り、厳半仙の言うとおりに黜児を介抱した。黜児は一命は取り留めたものの、左足は右足に比べて二寸短くなり、ビッコを引くようになってしまった。これにより黜児は姓名を改め、ka2.gif (127 バイト)(さかじ)・左黜児と名乗るようになる。

この件があってから聖姑姑は思うところがあり、母子三人で人間に化けて西岳・華山へ巡礼の旅に出ることにした。そして途中の道観(道教寺院)でしばらく泊めてもらうことになったが、そこの若主の賈道士は、胡媚児を見て一目惚れしてしまい、何も手に着かないというありさま。更に門人のba.gif (105 バイト)道人(ばどうじん)も彼女を狙っていた。二人はそれぞれ媚児に言い寄るが、彼女は計略をたてて、自分と契りを交わすように見せかけて、何と賈道士ba.gif (105 バイト)道人を交わらせてしまったのである。

聖姑姑は足の悪い黜児賈道士の元に置いておくことにし、媚児と二人で華山をめざすことにした。賈道士はあんな事があったにも関わらず、帰りに媚児が兄を引き取りに来た時にまた機会があろうと、二人を快く見送った。

華山も近づいた頃に、突如大風が聖姑姑を襲い、気がつくと広い宮殿の前にいた。宮殿の中には王朝を断絶させた女帝・則天武后が侍従とともに控えていた。則天武后聖姑姑に、自分はこれより男子に生まれ変わり、前世と同様に皇帝になること、媚児は実は武后の寵愛した美少年・張昌宗の生まれ変わりであり、来世でも自分と結ばれる運命にある事を告げ、そして二十八年後に貝州の地で会おうと約束して姿を消した。ハッと気がつくと、宮殿などどこにも無く、辺りには則天武后の墳墓が広がっていた。彼女は夢の中で武后の託宣を受けたのである。そして同時に媚児がいないことに気づいた。周りを探したものの娘は見つからず、仕方なしに一人で華山に向かったのであった。

聖姑姑華山での参拝を済ませた後に、土地の名士である楊春に出会った。楊春は夫婦ともども信心が深く、聖姑姑が仏教の経典に造詣が深いと見て、しばらく彼女を自分たちの屋敷に滞在させて仏説を講義してもらおうと考えた。聖姑姑の方でも考えあって家の屋敷に居候をさせてもらうことにしたのである。

所変わって、ここは泗州(ししゅう)の迎暉寺(げいきじ)。この寺では住職の慈雲老人が弟子たちとともに暮らしていた。慈老がある日川で水をくんでいると、向こうから卵が流れてきた。和尚はこれをガチョウの卵だと思い、それを暖めてやったところ、中から何と人間の赤ん坊がかえったのである。和尚はこれに驚き怪しんだが、ともかくこの赤子を吉児と名付け、寺で僧として育ててやることにした。

さて、この吉児が果たしてどんな騒動を引き起こすのか?そして胡媚児の行方やいかに?


戻る    トップページへ    次へ