相当な補修とは・・・
―― 取り壊し建てかえ代金も請求できる ――
(Q) 本シリーズ(その7)で崖地に建つ分譲住宅の不等沈下について質問した者です。ご回答に従って第三者の建築士に調査してもらったところ、2mを超える擁壁ですが、法令に従った計算に基づく相当なものではなく、裏込め透水層も作られておらず、水抜き穴の本数も足りなくて、しかも、切り土とまたがる敷地の盛り土部分も相当な土質の土で、十分に締め固められておらず、その結果、盛り土部分の基礎構造がすでに沈下・変形していること、また、上部の建物部分についても、柱や梁の緊結や火打ち材、筋交い材などが不足するなど、法律で定められた構造基準が守られていないことが判明しました。
そこで、業者にその相当補修を求めましたが、業者は、擁壁に関しては自分に責任はない、不等沈下に関しては、家の外部から補強液を注入する方法ならば行うが、抜本的な補修は費用の点からできない、上部の建物部分についても、内外装を取り外さずにできる部分の構造補強はするが、それ以外は我慢してほしいと言う回答でした。いかがなものでしょうか。
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(A) 今、あなたの求めている補修は、民法で定める瑕疵担保責任によるか、または不法行為に基づく損害賠償責任の前提としての補修です。あなたが自分の所有物が古くなったときに行う自己補修とは違い、あくまでも買い受けた物件に欠陥があったことに対する契約上の責任としての補修です。この見地に立って相当補修を考える必要があります。
自己補修であれば、費用本位のツギハギだらけの補強でも可能ですが、この責任としての補修の方法を考えるに当たっては、まず、技術的に可能で確実に施工できるか、それが契約図面や法令基準に適合するかどうかが問題となります。
階下床面を取り払えば業者がいう薬液注入は可能ですが、それだけでは建物に垂直水平性を取り戻すことは困難で、地盤の地質状況も分からないことから、必ずしも薬液が均等に敷地内にいきわたることが保証されるものではありません。施工の確実性に欠けるわけです。
また、薬液が隣地に入り込み、隣家に迷惑を与える可能性もあります。第三者に対する迷惑損害を与えないことも、相当補修に当たって考えなければならないことです。
それに、そもそも擁壁に裏込め透水層がなかったり、水抜きパイプが不足するうえに、擁壁の構造が土圧に耐えられない欠陥があるのなら、注入された薬液によって擁壁に対する圧力が高まり、かえって擁壁に対する危険が増加します。もっとも、業者は擁壁についての責任がないとの前提で、その安全性については触れず、そのような回答をしているのでしょう。例えその擁壁が業者以外の者によってつくられたものとしても、業者がこの建物を建てるに当たっては、当然、敷地地盤に関しても配慮する責任があり(建築基準法19条4項、同施行令38条1項)、擁壁についても、相当な調査をしたのち、相当基礎構造も決定すべきであったのですから、擁壁の安全性について、責任を負わないという言い訳は成り立ちません。
あるいは建物をジャッキ等で支保して、地盤補強や基礎構造をやり直す方法も考えられますが、それでも安全対策上、相当な費用がかかるうえ、大幅に階下部分の内外装を取り払わなければ、その支保も不可能ですし、その大幅な復元作業も必要で、費用がかさむことになります。上部建物に筋交いの不足などの構造欠陥もあるのでしたら、結局は取り壊し、一旦、更地としたうえで相当な擁壁につくり変え、盛り土地盤を補強のうえ、建物を建て替えることが経済的に見ても相当な補修方法となるでしょう。
業者回答から見ても、業者が任意に取り壊し、建て替えることに、たやすく同意しないでしょうから、結局はその費用を損害賠償として請求なさるのがよいでしょう(最高裁平成14年9月24日判決は、このような場合、取り壊し建て替え費の賠償請求を認めています)。
澤 田 和 也
(平成17年2月28日)
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