昭和53年以来30年に亘って欠陥住宅被害者救済活動を続けている
欠陥住宅を正す会では、
このホームページで欠陥住宅問題のホットなニュース、新判例など被害救済に役立つ学習記事をお届けします。
―正す会の窓・・・その62―
立春が過ぎてもまだまだ寒い日がつづいていますが、硬くつぼんだ木の芽にはもう柔らかな春の兆しが宿っています。
前回一月更新分から、皆様方に夢と希望を与えてくれる当会会員が獲得した新判例をご紹介しておりますが、今月も前回に続いて当会が獲得した新判例をご紹介いたします。この判例も前月判例と同じく取り壊し建て替えるほか相当補修方法が無いとしてその代金相当損害を認めた判決です。
取り壊し建て替えるほか相当補修方法がないのなら、一般的には不可能だといわれている取り壊し建て替え費用の請求も出来るのです。
当会では今まで度々取り壊し建て替え判決を獲得しています。今後も欠陥住宅裁判の頂点とも言うべき取り壊し建て替え費用を認める判決獲得に努力をしていきたいと存じます。
(2009・2・11)
欠陥住宅被害者に夢と希望を与えてくれる
==欠陥住宅を正す会会員が獲得した
取り壊し建て替え損認容の新判例のご紹介・・・その2==
記
建築した鉄骨造りの事務所兼居宅の柱部材とダイヤフラムの溶接部分など、柱と梁の接合に不良溶接があって、構造部材の応力が十分に伝達しない場合にはその建物が建基法20条に定める相当な構造耐力を有しないもので、しかもその欠陥箇所に上向き溶接が要求されることなどから、結局は取り壊し建て替えるほかないものとしてその費用や関連損害が認められた事例。
富山地裁平成20年12月17日言い渡し
平成13年(ワ)第142号 損害賠償請求事件
判決獲得原告訴訟代理人
当会副代表幹事 弁護士 木村 孝
1、事件の概要
原告等の被相続人Aは、平成8年6月被告D株式会社に鉄骨造りの事務所兼居宅の施工を請負わせたが、その鉄骨構造体の柱と梁の仕口部分の溶接などに溶接不良や隅肉溶接の幅や長さに不足する箇所などがあったため、これは建物の構造耐力を欠かせるものでその補修が必要なところ、その欠陥部位などから結局は取り壊し建て替える外ないものとして、この請負会社に対しAの相続人であるBとCが建物の解体費用・再築費用や代替建物の賃料等弁護士費用をも含む関連損害も含めて合計金7554万8807円也にのぼる損害賠償金と遅延損害金の支払いをも求めたものである。
2、原告の請求金額など
請求金額
原告B、Cにそれぞれ取り壊し建て替え費用のほか関連損害と遅延損害金を併せ
3777万4404円ずつ(計7554万8807円)
認容金額
判決では被告は原告それぞれに対し
2787万1420円ずつ(計5574万2840円)
とこれに対する平成9年2月1日からの年5分の遅延損害金を命じた。
(参考までに本件新築請負代金は5150万円。
従って認容損害額は請負代金を上回っている。)
3、適用法条
瑕疵担保責任(民法634条2項)
4、裁判所の判断
瑕疵担保責任(民法634条2項)
(1) |
柱母材とダイヤフラムとの溶接部分及びダイヤフラムと梁のフランジとの溶接部分に溶接不良が存在するので構造耐力上必要とされる完全溶け込み溶接にはなっていない欠陥がある |
(2) |
大梁と小梁とのガゼットプレートの溶接部分の隅肉溶接の長さがJASS規準を満たしておらず、旧建基法36条、旧施行令67条2項が要求する鉄骨接合についての技術基準に適合していない欠陥もある。 |
(3) |
本件建物の『川建QLデッキプレート』は床面剛性確保のためのブレースを必要としない大臣認定の特殊デッキプレートであるところ、それに必要な受けプレートを施工していないのは同認定に反すると共に旧施行令69条違反となる欠陥である。 |
(4) |
以上の(1)〜(3)の各欠陥は建基法20条の具体的細則としての建基法施行令に定める技術基準に反するもので、本件建物は同法20条に定める相当な構造耐力を有しない。 |
(5) |
本件建物の補修方法について |
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(@) |
本件建物の欠陥補修は構造の安全性能にかかわると共にその箇所も広汎に亘るから建基法令上の『大規模の修繕』にあたり、建築基準法3条2項および同条3項によれば現行の建基法令が定める技術基準に依らねばならない。 |
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(A) |
被告は本件建物の溶接不良等の欠陥は『余盛り増し』(溶肉<溶着金属>を予定された寸法以上に表面から盛りあげること)による補修が可能であると主張するが、JASS6の不良溶接部の補修についての規準では本件溶け込み不良等はアークエアガウジグによって削り取って実際の位置を確認し、欠陥の端部より20mm程度除去して船底型の形状に仕上げてから再溶接すべきであるとされているなど、内部欠陥については余盛り増しによる補修方法については認めていず、これを許容していない趣旨と解せられる。また被告は余盛り増しで補修する方法が構造計算によって確かめられた構造方法に当たるなどと主張するがそれには当たらず、国交大臣の認定を受けた構造方法でもない。従って本件で余盛り増しによる補修は認められない。 |
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(B) |
仮にも余盛り増しによる補修方法で本件欠陥の補修が出来るものとしても、それをするには現場での上向き溶接が必要となるが現場での上向き溶接は欠陥が発生しやすく品質を確保出来ないなどの理由で極めて困難であるほか、現場溶接に伴う第三者被害防止の養生の必要もあり、しかも本件建物の内外装は大半撤去せざるを得ず取り壊し建て替える場合に比べて経済的であるとも言えない。しかもこの補修は現行法令に依らねばならないので本件建物建築当時の工費よりは更に補修費用が嵩む。従って技術的、経済的にみても再築せざるを得ない。 |
5、認定損害額の内訳
(1)建物解体費用 |
507万5940円 |
(2)再築費用 |
5425万円 |
(3)引越し費用 |
147万7400円 |
(4)代替建物賃料 |
253万9500円 |
(5)再度の登記費用と公租公課 |
90万円 |
(6)欠陥調査費用 |
150万円 |
(7)損益相殺 |
1500万円 |
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欠陥があるものの原告等は本件建物を使用し居住してきたのであるから、その原告の利益は損害より控除するいわゆる損益相殺をするべきである。然るとき鉄骨建物の耐用期間が40年であると見れば本件建物の引渡し日からすでに11年が経過しているのでその割合で考えれば1500万円が相当であり相殺後の原告等の損害残額は5074万2840円となる。 |
(8)弁護士費用 |
500万円 |
(9)以上認容損害合計 |
5574万2840円 |
6、評 釈
(1) |
欠陥判断と相当な補修方法としての取り壊し再築認定は相当である。 |
(2) |
但し損害額を損益相殺したことには反対。なぜならば原告は引渡し後判決時までこのような構造の安全性に欠ける危険な建物に居住せざるを得なかったから居住していたのであって、幸い実害はなかったもののこれによる不安や費用の負担などもあり、決して欠陥の無い建物に11年間居住してきたのではない。
この損益相殺説は、車に故障がありそれを取り替えるまでに故障の無い代替車が提供されていたような場合には妥当するが、欠陥のある建物の補修などには妥当しない。これでは業者が裁判を長引かせれば長引かせるほど支払わなくてもよい損害金が増えていくことになり、社会的に是認されない結果からも明らかになる。また公平に損益相殺するというのであれば業者がすでに受け取っていた代金全額を11年間運用した利益もあるのであるからそれをも損益相殺の対象に加えるべきである。
せっかく法論理に妥当する良い判決であるのにこの損益相殺説は千仭の功を一簣(いっき)に虧(か)く憾みを残すものと言わねばならない。 |
(平21・2・11 澤田和也)