交響詩
ガンダム


「眠りより」「珠玉の人」
「大地を発って」「遭遇の宇宙」「ララァ・ときめき」
「疾風のように」「女たちよ」「戦場空域」
「ソーラ・パワー」「黎明」
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III 大地を発って


作曲・編曲:松山祐士


 フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット(B♭)2、バスーン2、ホルン(F)4、トランペット(C)4、トロンボーン4、チューバ、ハープ、ティンパニ、グロッケン、ビブラフォン、大太鼓、小太鼓、シンバル、弦5部。「サントラ第1集/悲愴、そして決然と」に基づいた曲構成である。調性はスケール的にはCマイナーあるいはCのマイナーブルースと思われる。フルスコアということで楽譜には調号が無く、すべて臨時記号で処理されている。
 この曲では、肝心のCの和音はメジャーになっている。「スケールはAマイナーでAのコードはメジャー」という黄金パターンを、ここではCでやっていることになる。Cマイナーはナベタケ時代劇伴に見られ、「マイナーは何でもA」というわけではないのだ。


A Andante patetico
 冒頭ハープによって悲劇の幕が上がる。オーボエのソロによる「悲愴」のテーマである。A♭/G一拍とG三拍を繰り返している。全体の響きはもっと複雑だが、ペダル的なベースとしてのG音が意図されていると思われる。オーボエは最後でG♭音をのばす。このG♭音(ブルー・ノート)は、ルートAの短七になったり、ルートGの長七になったりする。感情を押し殺して堪え忍んでいるようだ。


B
 ここは明確に「A♭M7→G」という展開。最後のビブラフォンを聞き漏らしてはならない。


C
 ここも「A♭/GとG」のパターン。ティンパニ・バイブ・ハープがG音を繰り返し、しだいにクレッシェンドする。チェロが「F#→G→A♭→G」という半音階。やがてコントラバスが加わって、焦燥感を煽る。


D
 たまらなくなって感情をほとばしらせるオーボエ。後半は「A♭/GとG」にのって、クラリネットと共にG音をのばす。続くパートE,F,Gにかけて「やるせなさ」は「けだるさ」へ、そして「祈り」へと変化してゆく。


E
 クラリネットとバスーンによるブリッジ。このあたりは「悲愴、そして決然と」には無かった。本曲のオリジナル部分である。


F
 弦のブリッジが「けだるさ」を受け継ぐ。譜面上では、espressivo(表情豊かに)の指示を連発している。


G
 オーボエ・クラリネット・バスーン一本ずつで、祈るような「悲愴」のテーマ。祈りが消えるのに合わせて、弦がクレッシェンドする。ここまでが「大地を発って」の前半である。


H Allegretto moderato risolute
 強烈なC音。ついにモビルスーツが大地に立った。スケールはやはりCマイナー的だが、「どーん」と張り出す和音はE♭メジャーなのだ。


I
 アーフタクトで始まる決然とした主題は、第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン・チェロ(オクターブ下)による。バックでは「たんたん」とした闘志が静かに、しかし炎となって燃えさかる。一歩も退かぬ決意である。


J
 「決然」の主題には、ビオラと木管群が加わる!。「闘志」のリズムには金管群が加わる!。いよいよ大地を発つ時が来たのだ。


K Un poco piu mosso
 楽器群の役割が変わる。高音楽器がテーマを奏で、低音楽器と弦がリズムを刻む。下降音程「B、A#、G#、F#」が堂々としてカッコ良い。ラストは「B♭→C」として、曲を終わる。着地ではなく飛翔して終わるのである。




IV 遭遇の宇宙


作曲・編曲:松山祐士


 フルート2(ピッコロ持ち替え1)、オーボエ2、クラリネット(B♭)2、バスーン2、ホルン(F)4、トランペット(C)4、トロンボーン4、チューバ、ハープ、ティンパニ、グロッケン、ビブラフォン、大太鼓、小太鼓、シンバル、キハダ、弦5部。スタンドシンバルをマレット(先端が布でくるんであるバチ)でロール(連打するトレモロのこと)演奏する部分もある。「じぃ〜〜ん」という打楽器は、楽譜ではキハダと書かれている。(ビブラスラップという代用品がある。)
 「サントラ第1集/戦いへの恐怖」の前半を大幅に膨らませた構成だ。


A Moderato con moto
 敵艦隊との遭遇である。トランペットの第一声はオペレータの警告か、トロンボーンの半音下降は弾着の轟音か。ホルンは心臓を激しく鼓動させ、ティンパニは5連打で警報を打ち鳴らす。この3小節のみ3拍子である。4拍子に戻って木管群が、打楽器群が、ハープが、そして弦群が次々と機動して全艦非常態勢に突入する。


B
 金管群は、すわユニゾンで急上昇。続いてCメジャーをバックにストリングスは急降下する。


C
 降下の後は、敵からの探知を避けつつ戦闘配備。バスーンのGとC音に対して、ビオラとコントラバスはB音だ。


D
 TVシリーズ本編でもおなじみの雄壮テーマ。半音下降から始まる「Dm、D♭m|Cm、F、D♭|B♭、F、D♭|B♭、F、D♭|E♭」がホワイトベース回頭反転がよく似合う。コンバット調のトランペットがこれを受ける。「Dm|Fm|A♭|B」とする展開は、短三度ずつ上がって緊迫する。特に後半はメジャートライアド(テンションを伴わない三和音)で、鮮やかな緊張感。Bメジャーは緊張する大人のコードなのだ。
 オリジナル「戦いへの恐怖」ではこの後DmからFを経てCへ・・、流れるように胸躍る弦楽テーマへ展開する。しかし交響詩版では、その主題を第1曲の「眠りより」ですでに使用済みだったりする。


E
 ここからオリジナルである。Emから始まって「Em→D→C→E♭m」・・リズムもあいまって決然とした雰囲気だ。


F
 Dパートと同じ動機だが、このパートはとても複雑な展開である。コードネームはあくまで便宜上のものだが、トロンボーンは「Dm、D♭m|Cm|Fm、F♭m|Em」と短三度上で反復する。後半はさらに短三度上向(E→G)から「Gm|B♭m|F#m|Am|D♭M7」で、バイオリン(スコアでは、第1と第2が途中までオクターブユニゾン)と木管群の掛け合いが叙情的。どなたか似た雰囲気のクラシック曲を(もしもあれば)対比いただきたい。


G poco meno mosso tranquillo
 オーボエがテーマを奏でる中間部の静かなパート。バックは第1バイオリンが二つの音程を出して(ディビジと言う)、第2バイオリンと合わせて和音になっている。このパート「Em→E♭m→D♭→C」の先頭が、パートEと同じくEmであることに注意されたい。「遭遇の宇宙」の後半はEmが軸になっている。「戦いへの恐怖」がDからCに進んだので、ここでは反対を意識してEへ進んだのか?あるいは・・
 なお、GパートとHパートでは、弦楽器にミュートの指示がある。


H
 Gパートと同様の展開で楽器を増している。最後の4小節では、後半に向かって金管群が盛り上げる。


I
 Eパートの反復だが、編成を変えている。後半は弦のみ。パートJの直前でリタルダンドするが、この一小節は三連符12個。


J a tempo
 Dパートの繰り返しに相当する雄壮テーマ。今回は弦の厚みを増しての反復だ。


K Allegretto agitato
 Jパートの最後のBからEmにつなぐ。戦力を誇示するようにEマイナーを鳴らし続け、マイナーのまま半音下降→半音下降→全音上昇。木管群は三連符の弾幕をはり続ける。


L Piu mosso
 ラストは一気に加速して、全鑑全速で突入していく。最後のサウンドはE音とB音の5度(3rdが無い)で、最初からの3曲「眠りより」「珠玉の人」「大地を発って」がCで終わっているのと異なっている。これは、この曲「遭遇の宇宙」だけの流れの都合でたまたまこうなったのかもしれない。しかしこの余韻によって、次曲「ララァ・ときめき」の冒頭Cメジャーへの流れが自然に聞こえる。
 「交響詩ガンダム」は、渡辺・松山コンビが各5曲を勝手に作曲したのではなく、全体の構成をしっかりと計算してあるはずだ。




V ララァ・ときめき


作曲・編曲:渡辺岳夫


 アルトフルート、オーボエ、トライアングル、グロッケン、ビブラフォン、ハープ、弦5部。弦以外の楽器は少なく、ハープを入れてもわずか6人である。
 TV版挿入歌「きらめきのララァ」をもとにした、弦楽合奏主体の音楽である。わずか5ページのスコアに珠玉の音符が美しく散りばめてある。当時はこの曲が目的でスコアを購入したものだ。


A Andantino
 「遭遇の宇宙」の壮烈なラストを受けて、静かに始まる。グロッケン、ビブラフォン、ハープはすべて同じ音程である。ハープはオクターブで演奏。
 和音は「C|Dm7|C|Dm7|Gsus4|G」で、第1および第2ヴァイオリンがそれぞれディビジで4声部になっている。例えば冒頭Cの和音では、第1ヴァイオリンがトップのC音と6度下のE音、第2ヴァイオリンがトップから4度下のG音とオクターブ下のC音を出している。トータルで「C,G,E,C」という構成だが、上から「第1、第2、第1、第2」と交互に割りふっている。オーケストラの編曲はこういったもので、ヴァイオリン以外でも4本のトランペット・ホルン・トロンボーンによる和音なども同様になっている。


B
 「きらめきのララァ」の歌メロ前半に相当する部分。Aパートからアーフタクトで入るフルートのテーマには「chage in F」という注記があるが、意味がわからないので誰か教えてください。ちなみに楽譜はin Cで書いてあります。このフルートとオーボエがユニゾンで主題を奏でる。(一部譜面と異なった演奏がある)
 バックの弦には、ここからビオラ・チェロ・コントラバスが加わる。白玉和音を構成するのは、第1ヴァイオリン・第2ヴァイオリン(ディビジではない)・ビオラ・チェロである。この4声で「C|Dm7|C|Dm7、Dm6|Em7|FM7|Em7(→A)」を奏でる。途中のFM7だけはドロップ2になっており、トップがE音でボトムのチェロはC音だ。コントラバスは和音に加わらないで、上品にピチカートしている。
 最後の2小節では、フルートとオーボエはA音をのばし、ビオラとチェロがカウンターをあてる。コードネームを与えるとすればAメジャーである。すなわち「ララァ・ときめき」はCメジャーの曲だが、メロディーの最初の節目がAメジャーになっているのだ。ガンダム挿入歌「いまはおやすみ」にも共通の特徴があることに注意されたい。


C Moderato
 歌メロ前半に相当する部分で、このCパートは繰り返しになっている。Bパートからアーフタクトで入るテーマには、最初だけパーカッションがつきあっている。「1st time only」の注記がある。このパーカッションを除けばすべて弦のみによる演奏である。さらにコントラバスは最後の6小節のみなので、ほとんどの部分を第1・第2ヴァイオリン・ビオラ・チェロの4声で展開する。
 最初の3小節は、第1ヴァイオリンが主題。他の3声部は主題と合わせてドロップ2の和音を構成する。ここではスタッカート(音を切って演奏すること)だ。
 4小節目からは流れるようなレガート(音を切らずに演奏すること)になる。そしてボイシング(和音の構成)は、トップからボトムまでが1オクターブ以内になるクローズドボイシングが中心になる。ただし9〜11小節はオープンのドロップ2で、曲の流れに表情をつけている。
 後半の4小節は再びスタッカートで「C|Dm7|C|Dm7」。コントラバスは相変わらず上品なピチカートで、F音からE音へグリッサンドで半音下がる。


D
 「ララァ・ときめき」の聴かせどころは挿入歌のメロディーが終わった後の、このDパートだろう。弦とハープが中心の演奏で、「交響詩ガンダム」の全曲を通じて最も美しく輝やいている。6小節目からのヴァイオリンが美しい!。最高音Cは、合奏における実用限界とされている。
 Dパートだけはやや凝った編曲になっている。構成を文章で簡単には説明できないが、部分的な特徴を記述しておこう。コントラバスがピチカートをやめて、弓の演奏で(arcoと指示される)和音に加わっている。だんだん和音を構成する音程の数が増えていく編曲になっており、例えば最初の小節はC音とE音しかない。第1・第2ヴァイオリンは出だしの2拍と最後の2小節を除いてユニゾンである。後半ではビオラとチェロがディビジになって、上から「ビオラ、チェロ、ビオラ、チェロ」の順でセブンスの和音になっている。
 せめてコードネームを与えると、「C|Em|A(7)|Dm7|(FM7)|Em7|FM7、Dm7|B♭M7|Am7|B♭M7|Am7|D」となる。後半の「B♭M7|Am7|D」は、Bパートの最後「FM7|Em7|A」と相対的に同じ関係になっていることに注意されたい。Dパートでは5度低くなっているその秘密は7小節目からの「FM7→Dm7→B♭M7」であり、「これぞナベタケ節」と唸りたくなるような流れだ。「FM7→(D)→B♭M7」の形から、メジャー7で平行の4度進行による一時的な転調と考える。一時的とした理由は、Dメジャーが全体の(Cメジャー)の中で独特のカッコ良い響きを持つからだ。
 その後Eパートへ「D→C」と移るのだが、これが不自然でも何でもなくて上品そのものである。仮にDパートの最後で「FM7|Em7|A」としていたならば「A→C」となるが、これでは面白くないのだ。


E Andantino
 Aパートの繰り返しなので、相異点を記そう。第1ヴァイオリンはディビジではなく、低音部がビオラになっている。同じく第2ヴァイオリンの低音部はチェロに代わっている。そしてコントラバスのピチカートが加わっている。
 ラストはCM7で、しめやかに曲を終わる。




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