三侠五義
4 韓彰対花蝴蝶
話変わって、双侠の一人・丁兆蘭は、妹と展昭の暮らす家屋敷を探して各地を旅していた。彼はある村の酒場で、青い目で紫色のヒゲを生やした侠客と出会った。これこそは北方に名を馳せる北侠の欧陽春であった。二人は意気投合して、地方で横暴をはたらく太歳荘の馬剛の討伐に向かう。二人は首尾良く馬剛を討ち取るが、この太歳荘で、兄の仇の花冲なる人物を追っているという豪傑・竜濤(りゅうとう)に出会った。その花冲という人物、貴公子然としながらも武芸は相当な腕前であり、あだ名を花蝴蝶(かこちょう)・花蝶などと言う。彼が数々の悪事をなしていると聞き、丁兆蘭と欧陽春は竜濤の仇討ちを手伝ってやることにした。二人は作戦を練るため、ひとまず茉花村へと向かう。
更に場面変わって、母の墓参りを済ませた韓彰は、霊佑寺を発って一路杭州へと向かっていた。彼は道中の人々の話でやたらと花蝶の名を耳にしていた。さて、韓彰を探しにやって来た蒋平もまた、道士に変装してその近くまでやって来ていたのである。彼は付近の村人たちが韓彰らしき人を見たという話を聞き、あちこちを捜索して回ったが、韓彰は一向に見つからない。仕方がないのでその日は鉄嶺観という道観(道教の寺院)に泊めてもらうことにした。
ここの主は鉄羅漢の呉道成という豪傑で、出家前は追い剥ぎをやっていたという悪漢である。道士の胡和は蒋平に、くれぐれも主の呉道成の機嫌を損なわないようにしなさいと耳打ちした。この間も主の友人の花蝶という人物を追って、ある人物がここにやって来たのだと言う。そのある人物というのが他ならぬ韓彰だと聞き、彼は驚愕した。
そもそも韓彰は、人々が花蝶を蛇蝎のように嫌っているのを知り、何とかしてそやつを捕らえようと考えた。花蝶は尼寺に夜這いしようとしていた所を韓彰に見つかり、しばらく剣戟を交わした。するとたまたま尼寺まで花蝶を追っていた竜濤も襲ってきたので、鉄嶺観まで二人をおびき寄せ、呉道成とともに罠をかけた。毒針を肩にくらった韓彰はその場から逃げ去り、竜濤は呉道成に捕らえられたのだと言う。蒋平はまずは竜濤を助け出し、次いで飛び道具を用いて呉道成と花蝶を闇討ちした。呉道成は見事討ち取ったものの、肝心の花蝶は急所をはずして取り逃がしてしまった。
さて蒋平は竜濤とともに聞き込みを重ね、遂に韓彰の居所を探り当てた。韓彰は毒針の毒に当たって臥せっており、しかも以前に蒋平が秘伝の解毒剤を騙したことを怒っているようであった。蒋平は涙を流してその事を詫び、そして白玉堂が官に就いたことなども話して聞かせたので、韓彰も遂に折れて兄弟は仲直りをしたのであった。韓彰はなおも養生を重ねたが、ある日花蝶が信陽の地に逃げ込んだという情報が入った。竜濤は茉花村の丁兄弟と欧陽春にその事を連絡させ、一同は河神廟で待ち合わせをすることにした。
その頃、茉花村では丁の老母が急病に倒れ、欧陽春のみが河神廟に駆けつけた。そこで竜濤・韓彰・蒋平と落ち合った。噂を聞けば花蝶めは更に神手大聖の車のもとに逃げ込んでいったという。一同は早速彼の屋敷に忍び込み、
車と花蝶に襲いかかった。花蝶はあちらこちらへと逃げ回ったが、韓彰や竜濤に追い詰められ、最後は蒋平に村の堀に蹴落とされ、水中で捕らえられた。
車は何とか逃げきり、覇王荘の馬強のもとに落ち延びて行った。その後、竜濤と蒋平・韓彰は都まで花蝶を連行することにし、欧陽春は一度茉花村まで戻ることにした。
韓彰は開封に到着すると盧方たち義兄弟の出迎えを受け、再会を喜び合った。包拯は蒋平からの報告を受け、一通り花蝶の尋問を済ませると、彼に斬罪を宣告して処刑してしまった。処刑の様子を見て竜濤も溜飲を下げる。韓彰はやはり仁宗皇帝に武芸を披露し、武官として包拯に仕えることになった。
その後、丁兆蘭が展昭との婚儀を行うため、病の癒えた老母と妹・月華を伴って都にやって来た。侠客たちは展昭と月華の婚礼を祝い、来る日も来る日もどんちゃん騒ぎ。何日もたってようやく彼は老母と故郷に帰ることが出来た。丁兆と茉花村で留守を守っていた欧陽春は、彼と別れを告げて一人杭州へと旅立だって行った。
その杭州の太守が、倪継祖(げいけいそ)という若者に変わった。幼い頃から苦学を重ね、科挙に次席で合格した清廉潔白な人物であった。彼は杭州に着任する早々、覇王荘の馬強を訴えるおびただしい訴状を受け取った。馬強とは太歳荘の馬剛の弟であり、叔父の馬朝賢が朝廷の重臣であることを良いことに、多くの侠客を養って無道をはたらいていた。
次回、黒妖狐・小侠・小諸葛の三人の侠客が倪継祖を助けて馬強を討たんとする。そして馬強の背後に控える黒幕の正体は?