三侠五義
8 大団円
さて、藍驍が捕らえられた今となっては、襄陽王が片腕と頼むは飛叉太保の鍾雄のみ。つまりは鍾雄を降伏させてしまえば、襄陽王の勢力も一気に衰えるというわけである。他ならぬその鍾雄のもとに白玉堂の遺骨が保管されていると言う。乱暴者の徐慶はどうしても自分が義弟の遺骨を取り返すのだと言って聞かない。徐慶結局抜け駆けして遺骨を取り戻しに出掛け、展昭も成り行きで彼に同行することとなった。
二人と入れ違いで、今度は欧陽春と丁兆が襄陽にやって来た。この北侠と双侠、そして智化と蒋平が鍾雄を屈服させるために襄陽を発つことにした。一同は陳起望の魯英と陸彬(りくひん)という義侠のもとで態勢を整える。そこへ鳳仙・秋葵の姉妹もやって来た。彼女たちの父・沙竜は罠にかかって襄陽王の手の者に捕らえられ、それで義侠たちに助けを求めにやって来たのである。そこへ更に、展昭と徐慶が鍾雄に捕らえられてしまったとの情報が入る。蒋平はまずは鍾雄の水塞に潜り込み、徐慶を助け出す。一同は白玉堂の遺骨を取り戻すこと、展昭と沙竜を救出すること、そして鍾雄を降伏させることの三つの作戦を綿密に練り、行動を開始する。
ところで鍾雄は、有能な人材を食客として招き入れるとの高札を出していた。まずは内部の偵察とばかりに、智化と欧陽春が偽って人材の募集に応じることにした。鍾雄は見込み通り、江湖に名高い北侠と黒妖狐が訪ねて来たとあって大喜び。二人を賓客として自分の手元に置くことにし、彼らと義兄弟の契りを結んだ。二人は鍾雄を根は善人であると見て、彼を説得して襄陽王から離反させることにした。
しかしその前に展昭と沙竜を救出せねばならない。二人は、「いま水塞に捕らえられている南侠の展昭と鉄面金剛の沙竜とは、自分達とは義兄弟の仲。二人を説得して鍾雄兄貴の部下にしてみせましょう。」と提案した。まずは沙竜を襄陽王から鍾雄のもとへ引き取らせる。そして次に二人は展昭と沙竜に作戦のことを言い含めた。展昭と沙竜はともにそれを承知し、宴の席で鍾雄に「兄貴のために力を尽くす覚悟。」と誓いを立てる。鍾雄は計略にかけられていると知らず、頼りがいある兄弟が四人も出来たと大はしゃぎ。そのあげく、彼らに自分の所有する水陸の砦の統括を任せきってしまった。
欧陽春らが着実に鍾雄を罠にかけていっている間に、蒋平は柳青という男に接近していた。彼は陥空島時代の白玉堂の友人で、未だに白玉堂に敵対した蒋平を恨んでいた。しかし彼は知略をもって柳青を口説き落とし、仲間に引き入れた。これで鍾雄を降伏させる準備が整ったのである。
そして鍾雄の誕生日がやって来た。その誕生日の祝いの席で事を決行しようと義侠たちは取り決めていたのである。鍾雄の家族や部下のほか、展昭や智化たちも宴に同席する。そこへ柳青が入って来て、断魂香というお香を用い、鍾雄を眠らせた。この香を吸ったからにはちょっとやそっとで目が覚めない。義侠たちは鍾雄を寝所に運ぶふりをしてそのまま陳起望へと拉致してしまった。
一方、鍾雄の妻は夫や展昭たちがいつまでたっても戻って来ないので、自分達が朝廷側の手の者に罠にかけられたと悟った。そこで武伯南・武伯北の兄弟を呼び出し、それぞれ娘の亜男と息子の鍾麟(しょうりん)を連れて砦から逃げよと命じたのである。その直後、智化が鍾雄の妻に全てを打ち明けにやって来た。彼女は義侠たちが夫を罪人として処罰するのではなく、穏便に説得の上で自分達の仲間に引き入れるつもりだったと聞いて、子供たちを逃亡させてしまったことを後悔した。
智化はすぐさま子供たちを連れ戻しに出掛け、まずは娘の亜男を見つけて陳起望へと送った。鍾麟はと言えば、武伯南とはぐれて強盗に誘拐されていたのであったが、そこを小侠の艾虎に助けられた。彼は臥虎溝での事件の後、義兄の施俊を故郷まで送って行き、それから陳起望へと向かっている途中であった。艾虎はまた武伯南をも助け出し、二人を引き連れて義父たちの待つ陳起望へとたどり着いた。
さて、鍾雄はようやく目を覚まし、ようやく自分が義侠たちの計略にかけられたことを知った。そして智化の説得を受け、朝廷側に帰服する決心をした。鍾雄は義侠たちと新ためて杯を交わし、襄陽王を倒すことを誓い合ったのであった。
『三侠五義』の物語はひとまずここで幕を下ろす。その後、今度は盧方の息子・盧珍や白玉堂の甥・白芸生(はくうんせい)といった第二世代の侠客たちが艾虎と義兄弟の契りを交わし、襄陽王に対抗していくことになる。彼らの活躍は『小五義』・『続小五義』といった続編で見ることが出来る。最終的に彼らは襄陽王を捕らえ、包拯は彼を死刑に処して白玉堂の恨みを晴らすのである。