トップページ  
 
本会設立の趣旨  
 
本会の活動方針  
 
入会のご案内  
 
主な行事  
 
例会のご案内  
 
活動実績  
 
会の組織  
 
お知らせ  
 
正す会のバックナンバー  
 
道しるべバックナンバー  
 
お知らせ・その他バックナンバー  
   
 
 

欠 陥 住 宅 を 正 す 会 緊 急 シ ン ポ

≪ 最後の砦は崩れた 
     ―構造計算書偽造問題の根源に横たわる構造的原因と
           消費者が取るべき安全確保を問う― ≫  のご報告

 

シナリオどおりの怖さ

澤田和也弁護士ら欠陥住宅を正す会は、12月10日、17日、に緊急シンポジュウムを開いた。
澤田弁護士らの論点はこうだ。今回の偽造事件の原因は、建築業界の手抜き体質である。これまで強度を犠牲にした手抜きは行われてきた。しかし、それは確認申請を通した後の施工の手抜きだった。確認申請が通らないことを怖れたからだ。ところが今回の手抜きは設計の手抜き。設計の手抜きのメリットは何か。バレても施工業者や販売業者は責任を問われない。国や特定行政庁に責任があるとして、公金で補償される。
さて、この巧妙な手口は現在のところシナリオどおりだ。マスコミや設計界が「姉歯」が悪い、狂気だ、犯罪者だと糾弾し、マンション住民に同情し、救済を求めれば求めるほど、皮肉ではあるが、この筋書きどおりに事が進んでいく。居住者の生命の危険、近隣の危険を盾に、詳しい調査もなしにマンションを解体してしまえば、それこそ施工者や販売業者の思うツボである。

建築ジャーナル誌 1098 2006年1月号

 標題のテーマーで「欠陥住宅を正す会」は、平成17年11月17日突如として一般紙上に報じられた姉歯一級建築士の虚偽構造計算書事件を受けて情報不十分なまま、同年12月10日は大阪市中ノ島の中央公会堂で、同月17日は東京都芝の友愛会館でそれぞれ標題のテーマーで緊急シンポを行いました。 そこで当日の各コメンテーターらの発言の内容を要約し、更にその後報じられたこの事件の情報をも加味して、統一的にまとめたのがこのご報告です。



§1 ご挨拶と今回の事件の概要

 まず代表幹事澤田和也より来会者一同に当会に対するご支援に謝辞を述べた後、ホームページ特集記事記載の【(2)最後の砦は崩れた? ―虚偽確認計算書事件と賠償問題―】をもとに、今回の事件の同日までに報じられていた概略と特色を述べました。
 今回の事件は姉歯建築士の不心得な虚偽構造計算書作成に端を発し民間確認検査機関がこれを見抜けず、その結果マンション施工者も販売者も欠陥マンションを販売せざるを得ず多大の迷惑損害を受けているかのように、施工者や販売業者やマンション販売コンサルティング業者から言われている。
 しかし、今回の事件の特色は設計の手抜きである。従来からも欠陥住宅は枚挙にいとまなかったが、その殆どがいわゆる施工の手抜きであった。つまり設計図書は建築主事の確認を受けた適法なもので、施工の段階で材料や手間を手抜きして適法図書を下回る手抜き施工をするというものであった。
ところが今回の事件は設計の手抜きである。設計の手抜きをするメリットはどこにあるかというと、もしそれが建築確認をうけたものであれば、その通り施工して結果として欠陥建築物を造った施工者やそれを販売した業者は民事上の瑕疵担保責任はさておき、建築法令上は免責されるということである。そしてこの欠陥図書に建築確認を下した建築主事や確認検査機関、強いては監督者である特定行政庁が民事上の責任を負担しなくてはならないことになる。
 もし今回の事件が姉歯建築士の独断でなされたものではなく、コンサルト業者や施工業者はたまた販売業者からの求めで為されたものであるとしても、形式上は彼らには違法行為はなく、欠陥が発覚しても直接行政法または刑事法上の責任を問われることは無い。かえって特定行政庁(建築主事を置く自治体)や国が違法確認をしたものとして被害者に民事上の賠償責任を問われ、マンション企画や施工や販売で大儲けをした者達が高笑いすることになる。
 “姉歯が悪い、マンション被害者に補償を”と、叫べばさけぶほど、実際にマンションで金儲けをした者達の思う壺となり、居住者や近隣の生命財産の危険を理由として、事件関係者の弁明や詳しい事実調査の無いまま、国が特定行政庁にマンション居住者に対する補償をせきたてることとなり、ますます施工業者や販売業者の思う壺となる。
 事件の真相は司直の手による解明を待たねばならないが、現在の情報だけでも姉歯氏の一存で虚偽計算書が作成されたものとは思えない。
 何故なら、姉歯氏は別に計算書を偽造しなくても、相当な設計料さえ貰えば法令適合の正しい計算をもとに正しい構造設計をすればよいだけで、虚偽計算によって格別の利益が得られるものでもなく、又これを求める必要も無い。施工会社等から『配筋量を減らす設計をしなければ、今後構造設計の依頼をしない』と脅かされ生活のため止む無く偽造の程度を深め、数を重ねていったという同人の供述には、一般的に設計の仕事が施工業者から流され、建築士が施工業者に経済的に従属している状況からいってもうなずけるものがある。逆に、今回の手抜きによって莫大な利益を上げたものは誰か。言わずもがな施工業者や販売会社、コンサルタント会社であろう。手抜き事件によって多くの利益を上げたものが首謀者であると見るべきは当然である。

 以上の解説の後、今回の事件に伴う関係者の民事上の責任については前掲の【最後の砦は崩れた?―虚偽確認計算書事件と賠償問題―】を援用して簡単にふれた。
なお当会顧問鳥巣次郎作成の【姉歯事件について(建築構造計算書偽装事件)】参照。



§2 今回の事件の原因

 直接的な原因又は動機は§1で述べた設計施工業者らのあくどい利益追求にあることみるべきであるが、今回の事件の背景にある原因としては以下の点が挙げられる。

@ 一般には建物は建っていれば安全だと考えられている。そして建物の目に見えない構造や耐火の安全性など、目に見えない建物の品質やその性能レベルの問題については消費者は意識していない。
「安く・早く」「広く・美しく」「便利で快適」などが消費者の住まい作りのテーマーで、それにあわせて住宅の設計施工や販売が行われている。この消費者の直接的ニーズに応え、かつ業者らが利益を得る方法はなにか。それは消費者が意識しない構造や耐火の安全性を手抜きすることである。
そこで欠陥住宅の手抜き対象は内外装に覆われて直接目視できず、又は目視しても手抜きとは判りにくい基礎や骨組みや耐火被覆の手抜き、つまり安全性の手抜きに集中する。又業者側にも自己の経験を過信し、法令を遵守しなくても安全だとの誤った経験に基づく安全感がある。本当は手抜きではあるが、安全であってほしいとの業者の願望が安全との確信を生んでいる。このような消費者及び業者共々が有する「建っていれば安全だ」との誤った認識が今回の事件の根底にある。安全性についての消費者や業者の教育を社会教育として徹底的に強化する必要がある。【前掲鳥巣論文】参照。

A §1で述べたように現在の建基法は建設業者が建築士を雇用して建築士事務所を開設し、設計も施工も一貫して業者が行える法制となっている。
その結果、現在の日本では注文という名の下に設計施工が一般的となり、設計や工事監理が施工と分離し、業者から独立した第三者の建築士が消費者サイドに立って設計や工事監理をしないため、ともすれば欠陥が発生しやすい。手抜き欠陥をなくすためには、建設業者が設計や工事監理を出来ないとする、設計や工事監理を行う建築士の施工業者からの独立が必要である。

B このような根本的な原因が、姉歯事件ほど極端な手抜きではないにしろ多くの欠陥住宅事件を生んでいる。

§3 今回の手抜きの特色

 すでに§1の今回の事件の概要で述べたように、施工の手抜きではなく設計の手抜きであり、その手抜きのメリットはバレても施工業者や販売業者が責任を問われないことを目論んだ今回の事件の関係者が考え出し実行した高等な手口である。

§4 今回の偽装の手口

 これらの詳細については、今後の司直の解明を待たなければならないが、姉歯氏の供述によれば、特定の民間の確認検査機関では構造計算書を殆どチェックしなかったようである。シンポに出席していたコメンテーターの建築士の言によれば、今回ほど必要配筋量や筋径が不足していれば、柱や梁の太さなどから目視しても手抜きが判然とするもので、配筋図を見ただけでも判ったはずだという。
手口も、回を重ねる度にだんだん大胆にしていったとの姉歯氏の供述もある。計算ソフトの問題、チェックの方法、審査時間、それに伴う費用額についても改善の余地がある。
ここでも「安く・早く」から「かかるものはかかる」との発想に転換し、確認検査や設計監理に相当費用をかけるという消費者教育の必要がある。特定行政庁の検査の場合でも今回の手抜きが発生しているが、しかし圧倒的に特定の民間検査機関の手続きによるものが多い点から、民間機関に確認手続きの代行をさせることの適否や、仮にそれを存置するとしても検査員の資格や人数、手数料の相当性の検討の必要がある(対策の詳細については一級建築士村岡紳爾の【構造計算偽造を防止する対策について】参照)。



§5 今回の事件の根源を探る

@ 姉歯は何故事件をひきおこしたのか

 すでにふれたように、直接的には姉歯氏が事務所や生活維持のために仕事がほしかったことであろうが、その裏には設計の手抜きによって自己の責任を回避しつつ、それを姉歯氏に求めることで利益獲得を図った施工業者販売業者などの策謀があると考えられる。

A 設計監理の施工からの従属性

 すでに述べたように建築士の施工や販売業者・不動産業者への従属性がある。姉歯氏は兵糧攻めに屈したのである。

B 民間確認検査機関の問題点

@ 公正が求められる確認業務に市場原理の導入は可か

 日本ERIなどの関係者の言によれば仕事をとろうと思えば「安く・早く」となり、手数料の面からも相当な審査は行われがたいとのことである。
仮に現行法通りの民間検査機関を存置するとしても、審査量に応じた適正な手数料の問題、検査員の資格やキャリヤの問題などを検討し、第三者性を高める必要がある。

A 法人である検査機関の株主の問題

 その法人株主に住宅会社・建築会社・建材会社・設備関係会社などを抱えているという。その株主会社から確認検査を求められた場合、果たして公正に検査が行われるのか。検査機関の実体は、施工会社の設計施工管理部となっているのではないか。したがって法人株主や機関の構成員からは建築関係業者を排除すべきである。【以上の@Aについても、前掲村岡論文】参照。

B 関係者の手抜き容認傾向

 今回の計算書偽造通報を受けながら、検査機関が一年半にわたって再検査を怠り、当局への通報を怠っていたという事実があるとするならば、これは@・Aで述べた業者と検査機関との馴れ合い関係を示すと共に、相互にかばい合う手抜き容認傾向があるものと思われる。

C 特定行政庁の不当確認問題

 今回の姉歯ニセ計算書を、ある特定行政庁が見落とし確認通知をしていたという。
民間確認検査機関同様、特定行政庁にも構造検討担当者の不足の問題と審査の時間の問題があるのではないか。しかし今まで判明したのはこの一件にとどまっているとしたら、今回の姉歯事件の大多数は民間確認検査機関のミスまたは懈怠で発生しており、公正な第三者的判断を要求される確認手続きには「安く・早く」との経済原則に走らざるを得ない民間機関には適さないことを示していることにならないのではないか。と同時に特定行政庁の建築主事にも民間の手抜きをある程度目をつぶる建築実務に携わるもの同士の容認的傾向があるのではないか。

C 販売会社(ヒューザー他)・コンサルト(総研)・元請設計(森田設計・平成設計)・建築会社(木村建設)がそれぞれ違法構造計算を求めた具体的理由と実益

 これらについてはすでに、今回の事件の原因や設計の手抜きの項で述べたとおりである。
設計の段階で手抜きされておれば、施工や販売の段階で建築法令上の責任が問われず、「安く・早く」で莫大な利益が上げやすいことを目論んでいたものと思われる。
なお、本件に関与した各元請け設計会社、コンサルト会社の開設者や経営者には、建築資格が要求されていないことが職業倫理の喪失と技術無視を生んだのではないか。特に建築関係に無資格のコンサルト会社を介在させることが可かとの問題がある。
本件では技術の確保よりも、消費者には意識されない構造関係即ち安全性のコストの軽減を奨励し、姉歯氏に事実上強制をしていた疑いがある。

D 品確法による設計住宅性能評価にまでニセ確認計算書が前提とされていた事実

 品確法の住宅性能評価と建基法の確認手続きとが同一の機関で出来るとされているため、今回のような確認ミスが性能評価ミスを呼んだのであるが、果たして同一機関にこの二つを兼ねさせることが相当なのかの問題も検討すべきである。

E 省令の手順で審査していたので無責であるとの検査機関の抗弁

 たしかに確認審査には人員と時間と費用の点から現行のままでは限界がある。したがって国交省が現状の実情を考えてチェックの手順やポイントをリスト化し、これを基に能率的に審査を行わせることも必要である。もし審査機関がこのリスト通りのポイントをリスト通りの方法で行っていたのに、計算偽造が見破れなかったとするならば審査のミスは無かったとも考えられる。法律は不能を求めていないからである。
もし確認検査機関の審査にミスが無かったとしたならば、それを監督する特定行政庁にもミスが無かったこととなる。この問題にも事実調査や検討もせず、国交省が特定行政庁にマンション居住者に対する補償措置を指示したことには疑問を感じざるをえない。

F 木村建設の施工元請である大林組・鹿島建設などの責任問題及び姉歯建築士の元請である森田設計事務所などの責任問題

 国交省やマスコミの報道では、今回木村建設に丸投げをして手数料を得ている元請会社の大林組や鹿島建設などの責任や元請設計会社である森田設計事務所の責任問題が論じられず、報道もされていないのは不思議である。元請業者が一流大手であることを信頼してマンション購入をする者も多い。元請業者は建設業法に従って施工技術を確保する義務があり、設計図書の検討義務もある。現場に有資格の監理技術者を配置すべき法律上の義務もある。今回のような大幅な配筋の手抜きを見逃したことには当然特定建設業者としての元請業者に責任がある。
どうも今回の国交省やマスコミの報道には偏りがあって裏があるように思える。原因のない結果はないからである。

§6 今後の対策 (詳しくは前掲村岡信爾【構造計算偽造を防止する対策について】参照)

@ 確認手続き是正対策点  審査の慎重・・・検査の強化

 確認審査手続きをより慎重にするとともに、高い構造解析能力のある担当者を配置する。

A 確認手続きの諸検査を強化する

 民間検査機関が法人である場合には、施工会社・設備会社など確認審査に利害関係のある業者を株主とすることを認めない。
検査機関に対する監督を強化するとともに検査員の資格、能力、経歴を再点検する。任用条件を強化する。あわせ現在の確認申請料は低廉に過ぎるので手数料を相当額にアップする。

B 建設業者に対する対策点

 建設業法の第25条の25の施工技術確保義務を徹底させる。
各現場に監理技術者(主任技術者)を必ず配置し施工監理を徹底化させる。管理床面積に対する人員を法定する。一括下請けに出された場合には実際に施工する下請け会社名も販売に際して明示させる。瑕疵担保責任保険を強制的に掛けさせ、瑕疵発生時に消費者保護に遺憾なきを期する。建基法や建設業法に違反した業者に刑事行政罰を強化する。

C 建築士法の是正対策点

 公正な消費者サイドの設計や工事監理が確保できるよう、施工会社の建築事務所併営を禁止し、設計監理を施工から分離独立させる。
また、建基法令に違反した建築士に対する処分を強化する。そして業務停止、登録取り消しを受けた建築士の住所氏名を公表させる(現在では登録取り消しや業務停止を受けた建築士の住所氏名を公表していないが、これでは消費者の建築士選択又は取引の安全の妨げとなる)。

D 不動産仲介取引業界に対する改善対策点

取引業法の中に、重要事項の告知として実際に施工した一括下請け会社を名示させる。また建基法令上の手続きが遵守され検査済証を交付させまたはこれを得ているか否かを告知させる。


§7 消費者は今回の事件から何を学ぶか

 すでに§1§2で述べたように、消費者は見栄えや使い勝手などの見た目だけではなく、直接的には目に見えない地震や台風や火事などに安全な建物を選ぶように心がけるべきである。建っていれば安全などという素朴な安全感は捨て、大きな地震や台風がおきても安全な家を選ぶことである。
建物の品質を外形や使い勝手からだけではなく、性能で捉える学習をすることである。「安く・早く」という素朴なニーズから「代金に見合う相当な商品(品質)を。」に転換することである。安全性が消費者のニーズになれば業者の安全性の手抜きも減退していくことであろう。

§8 現行制度を前提として、消費者が安全な建物を確保するための対応策

 別稿【最後の砦は崩れた?】で述べたように、現行制度を前提として消費者が安全な建物を獲得するための対応策としては、第三者の建築士に設計を依頼し、建築士のアドバイスをうけて相当な業者を選びその工事監理を受けて施工させることである。消費者自身も建築基準法が安全性をも含めた住宅の最低限の品質を定めたものであることを理解し、依頼する建築士や施工業者に対しても建基法令遵守を求めることである。施工業者が設計や施工も同時に行う、いわゆる設計施工請負ではどうしても業者の利益が先行して欠陥が生まれやすい。現行の法制度では残念ながら建築確認当局や検査機関に多くを期待することが出来ない。第三者の建築士に設計や工事監理を依頼して自助する必要がある。
以上は注文住宅の場合のことであるが、建売の場合となると出来上がった建物の外形からかしか判断できないので、確実に安全性を確保することも至難の技である。建売の場合でも補助者として建築士を選び、同行してもらって欠陥の有無をチェックしてもらうことであるが外形の目視では判断に限界がある。とくに確認検査済証のない建物は違法建築、つまり建基法の定める品質レベルを守らない住宅であることを買い手である消費者は銘記すべきである。マンションの場合となると更に安全性を含めた品質を推測し判断することが難しくなる。マンションの場合は鉄筋コンクリート造りや鉄骨造りのものが多く、一旦出来上がれば木造の場合よりも外形だけで安全(構造)性を判断することは難しい。第三者の建築士に同行してもらいチェックできる範囲でチェックしてもらうほかは無い。今までは建築住宅性能評価書のある建物を買えば安全だとされてきたが,今回その評価書のあるマンションでも建基法令違反の手抜きマンションがあることが発見された。したがってコストは高くつくが自ら建築士を選んで安全かどうかなどの判断をしてもらうほかは無い。建築士を頼むだけの余裕が無いのならば、今回の事件を契機に国はいろんな対応策を講じることが論じられているが、それら対応策が一通り実施されるまではマンションを買うことを控えるのが無難であろう。
また今回の事件を契機にレンタル住宅も見直すべきである


§9 今回の事件で国がとった補償対応策の可否と一般欠陥住宅被害者への相当対策を

 別稿【一消費者からのメール】で詳しくふれたように、今回の姉歯欠陥マンション被害者対策として欠陥発覚後旬日を経ずして出された国交大臣の対応には、一般消費者は怪訝な感じで戸惑いをみせている。

@−1
新聞報道を見ていると国交大臣が欠陥マンションの取り壊し命令を出すことができるかの報道がされている。しかし震度5程度の地震で倒壊の恐れがあるとしてマンションの撤去を求める根拠規定は、建基法10条の「著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合」に特定行政庁だけが建物の除却、使用禁止等の命令を出す権限があることを銘記すべきである。

@−2
今回の欠陥住宅マンションは、消費者は販売業者との売買契約によって入手したものであり、その買い受けたマンションに欠陥がある場合には、先ず契約法上の問題として買受居住者が販売業者に瑕疵担保責任を求め契約の解除をおこない、マンション販売業者から売買代金の返還を受けて退去するのが原則で、マンション業者に代金返還資力がない場合にはこの欠陥が安全性にかかわるものであることから、売買契約上は第三者であっても実際の施工にあたった施工会社(国交省や新聞の報道などでは本件施工者は木村建設であって木村建設だけが施工上の責任を負うかのように言われているが、木村建設は一括下請人である場合が多く、法律上はマンション施工請負人である元請会社)に先ず責任を求めるのが順序である。この元請会社の中には大林組や鹿島建設など日本を代表するゼネコンが含まれており、これら元請会社の責任が国交省の口からも新聞記事からも窺えないのは甚だ奇怪なことである。これらゼネコンの施工能力からみれば、本件手抜き確認図書の解読能力は当然あったものとみられるのに、これら元請会社の施工技術確保義務違反が採り上げられていないのである。又賠償能力も充分あるとみられるのにである。
そしてまた、これらで救済されない場合は、順序によって違法確認通知を出した確認検査機関の責任を民法709条に基づいて問い、もしこれら検査機関に責任があるとされる場合にはこの機関の監督権者である特定行政庁(建築主事を置いて建築確認事務を行える自治体)の責任を問うというのが手順であり、民事紛争解決の現行法上の一般原則である。すんなりとこれら相手方が欠陥やミスの事実を認めれば交渉でもラチがあくときがあろうが、通常はゼネコンや地方公共団体がかめば、明らかな欠陥がある場合でも理非を明らかにすると法廷で争いその裁判は難渋をきわめるというのが通常で、今回の場合などこの手続きがとられたならば、一部確認検査機関では「国交省の定める手順に従ったその通り審査をしていても今回の偽造は手が込んでいて発見できなかったので無過失である」とか「確認手続きは建築士が職責を尽くして建基法令適法の設計や工事監理をすることを原則とし、当局はその職責遵守を前提として審査を行うべきものであるから、今回のように建築士が犯罪行為をなした場合には、確認審査の過失は無く責任は無い」との主張もある。いざ裁判となれば中々すんなりと訴訟手続きが進行したとは思えない案件である。にもかかわらず、建基法10条に基づく命令権の無い国交大臣が、これら当事者の主張や事実関係・証拠関係を十分調査せぬまま、国による補償策や特定行政庁である自治体に相当補償策を指示した事は、まったくもって奇怪である。

A 建築基準法20条の相当な構造耐力との関係

@ 国交省当局は震度5を「著しく危険」と解釈しているのか。法文の解釈上疑問の点があり、果たしてそれで「著しく」といえるのであろうか。又木造のように構造計算によらず法定の構造方法によるときはどの程度の不遵守で「著しく危険」と見るのであろうか。

A 今回のような民事契約関係上の損害を、国又は地方自治体が直接被害者に補償することについての具体的な法律上の根拠規定が無い。
今回の国交大臣の措置は、具体的法規に基づかない高度の超法規的政治的判断行為として行われたのであろうか。
その判断を妥当とするに足りる緊迫した根拠や情勢が今回の事案であったのか。

B 消費者からの意見

 @で述べたように、今回の素早い国による被害者救済措置の表明については一般消費者からも怪訝の念が表明されている。
当会には神戸市西区在住の一主婦から
『今回の救済措置が納得できない。 もしこのような私人間の民事問題に国が救済措置をとるのであれば、他の欠陥住宅被害者にも同様な救済措置が講じられるべきであるし、又要求すべきである。』
とのメールが寄せられているし、欠陥住宅甲信越ネットの掲示板にも、平成17年12月16日付東京人と自称する方からも『 ・・・・・。マンションの住民のみなさんにはお困りだと思いますが、高い買い物をする前によくチェックしなかったことを反省していただいて、どうか公的資金の投入を要請するのはやめていただきたいと思っています。 公的資金というのは税金です。マンションを注意深く買った人も税金を払っています。そして、マンションを購入する前の調査に資金を使っているのです。独自に調査するためにです! 高い買い物にもかかわらず自分で調査を怠っておいて、公的資金の投入を求めるということは、私のように購入前に自分の資金を使って調査した人間に対して、調査しなかった人に対して税金を払うことで支援をするということです。 どうして注意深い私が損をしないといけないのですか? マンションを買った人が責任をとってください。・・・・・。』という投書も寄せられている。

 各政党やマスコミはこのような国民の意見をどうして論議しないのであろうか

C 消費者事件被害者には公平な補償措置を

 要するに今回のマンション被害者だけに限って、相当な法律の根拠に基づかず相当な法律の手順を経ないでこのような補償措置がとられるのであれば、当然取り壊し建て替えるほかないとして賠償判決を確得していながら、業者倒産や財産隠匿のために現実の賠償金を手にしていない一般欠陥住宅被害者や、住宅被害者だけに限らず同様な消費者事件被害者にも国が補償しない限り不公平なこととなる。
これは憲法14条の法の下の平等の趣旨にも反する。
至急かかる国や自治体による救済措置を立法化して、しかる後に姉歯事件被害者に相当補償をするべきである。

 

 以上が2回にわたる当会の緊急シンポでの各発言の要旨です。
まだ姉歯事件に関する情報が十分でなかった段階においても、これだけの問題点が指摘されています。
『災い転じて福となす』。 姉歯事件を契機に、建築基準法・建築士法・建設業法・不動産取引業法の問題点が改正され消費者保護が強化されて、消費者が法律を守れば安心して住まい作りが出来る体制を整えることが出来たらと念じております。
なお当会の「一般欠陥住宅被害者や消費者事件被害者にも損害補償の暖かい手を!!」というアッピールをご覧いただくと共に、当会のホームページ「確認計算書偽装事件特集記事」も併せご覧下さるようお願いいたします。

表紙に戻る