トップページ  
 
本会設立の趣旨  
 
本会の活動方針  
 
入会のご案内  
 
主な行事  
 
例会のご案内  
 
活動実績  
 
会の組織  
 
お知らせ  
 
正す会のバックナンバー  
 
道しるべバックナンバー  
 
お知らせ・その他バックナンバー  
   
 
 

最後の砦は崩された?

──虚偽確認計算書事件と賠償問題──

(Q) 先般来ニセの建物強度を使って建築確認を受けて施工されたマンション被害の問題が報道を賑わせていますが、この欠陥マンションの買主は誰にどのような賠償を求められるでしょうか。消費者がとるべき安全確保策を教えてください。

*  *  *

(A) 建築基準法の確認申請手続きは、あらかじめ新築しようとする建物のプラン(設計図や構造計算書)などを建築主に提出させ、建築当局が建築関係法令に従って安全かなどを調べ、安全で適法な建設計画を立てさせる手続きです。
  ですから、本来であれば確認図面通りに施工されていれば、法令が要求しているレベルの安全性を有するものとみられるのです。当然、法令が耐えることを要求している強さの地震にも耐えられるものです。
  今回の事件は、確認申請で出された強度証明のための構造計算書の内容が、実際は法令基準をはるかに下回る安全強度しか持たないにもかかわらず、法令通りの安全強度があるかのように虚偽記載し、確認検査機関を欺(あざむ)き、建築確認を得て、その通りの配筋施工をさせてマンション販売されていたのです。
  確認検査機関は法令上、建築主事に代わって建築確認手続きができる民間の検査機関です。従って当然このマンションは安全性を欠く重大欠陥を持っています。
  そこで買主は販売会社に対しては瑕疵担保責任として、契約の解除をして、販売代金のほかに買い受に要した諸費用、例えば仲介手数料や登記登録税などはもちろん、新居への引越料や裁判費用など、関連して発生する費用の賠償を求めることができるのです。
  これに併せて、ニセ計算書を作成した建築士に対してはもちろん、もしこの建築士が建築事務所に雇用されていたなら、その使用者である設計事務所や、この建物を実際に建築した建築会社に対しても、それぞれ過失があるならば、同じ賠償内容の不法行為責任を求めることができます。
  またこのニセ計算書をチェック出来なかった民間検査機関に対しても、不法行為責任として賠償を求めることができます。
  問題は、この検査機関のミスについて監督者である市や県などの特定行政庁に対しても国家賠償法に基づいて公共団体の責任を問えるかについては問題のあるところですが、平成17年6月24日の最高裁判決やまた平成16年11月30日の横浜地裁判決などからは、この確認検査機関による確認手続きは、本来特定行政庁の建築主事が行う確認の事務と同様に地方公共団体の事務として行われたものだと解釈して、この欠陥建築確認が出された場所の地方公共団体に賠償責任を求める事ができるとみられます。
  さて、今回の欠陥マンション事件は、従来から言われている手抜き欠陥の類型からははみ出るもので、重大な問題を含んでいます。 普通の欠陥は、建築確認を受けなければガス・水道など公のサービス事業の申し込みができないことなどから、図面だけは適法なものとして建築確認を受け、実際の施工の段階で材料や手間を手抜きするという施工の手抜きによるものがほとんどでした。
  しかし、今回の手抜きは、設計の段階から行われ、確認検査機関のミスに乗じて法令上安全とのお墨付きを得ています。その結果、施工者は手抜き図面通りの施工をしても施工の欠陥は問われないわけです。
  しかし同様の確認ミスによる施工が、何十件と同一の販売会社と建設会社・建築士や確認検査機関の組み合わせで行われています。
  しかも専門家によれば、その強度の手抜きは法令の最低基準の3割にも満たない場合もあり、施工実務者であれば、あえて計算書を見なくても、おかしいと感じるほどの太さの柱や梁が施工されているとのことですので、このマンション設計施工販売関係者の間では暗黙の共謀があったものとみるほかはないでしょう。
  また、本件とは別個の地方自治体で確認されたマンションの中にも同一建築士によるニセ計算書による手抜き確認事件もあるようです。
  このようなことから言えば、仮に民間確認検査機関を避けて特定行政庁の建築主事による確認手続きを受けた物件であっても、消費者は安心できないこととなります。
  まさに今回の事件は、消費者にとっての最後の砦が崩れたものとも言えるでしょう。
  では消費者はどのような防衛策をとるべきでしょうか。企業存続のために、「安く早く」を売り物にしなければならない状況に置かれている民間確認検査機関を避けるとしても、それだけでは不十分です。
  理想的には信頼のできる建築士に設計工事監理をさせ、建築規模に見合う施工能力のある施工会社を選んで建築請負をさせることですが、現在の経済状況では好みの場所に土地を確保し注文施工させることは困難なことです。住みたい所で販売されているマンションや建売住宅を買うほかはないでしょう。
  このような場合には、販売会社のセールスマンとの話し合いから色々と聞き質し、現物を見るというだけではなく、信頼できる建築士に依頼して物件に同行してもらい、確認図書や構造計算書を見てもらって、なおかつ現物がその通りに施工されているかを目視できる範囲だけでもチェックしてもらうことです。
  確認通知書や同図面などを見せることを拒まれた場合には、買わないことはもちろんですが、戸建住宅の時はともかく、マンションの場合は大規模建物ですので、販売事務所で確認図書や計算書を閲覧できたとしても、その計算書や図面は大部のものでコピーしてゆっくりと同行専門家に検討してもらうことはほとんど不可能なことです。
  しかし構造関係の専門家であれば、比較的短時間で要点を把握することが可能ですので、やはり構造計算書や施工に練達した方に同行をお願いされることです。
  それには相当な建築士費用がかかりますが、あえて確実な自衛策をと問われれば、このような回答しかできなのが、悲しむべき今日の状況です。

澤田 和也
(平成17年12月19日)

表紙へ戻る