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一消費者からのメール

──姉歯事件マンション被害者の補償問題を見つめる
一般消費者や他の欠陥住宅被害者のまなざし──

欠陥住宅を正す会
代表幹事 澤田 和也

一、 姉歯事件が報じられて早々「耐震偽造マンション住民への補償について」と題して一消費者から当会宛次のようなメールが届いた。

『 突然のメール失礼いたします。
私は欠陥住宅の被害者ではなく、全くの第三者なのですが 今話題になっている耐震構造偽造マンションの住人への 補償があまりに手厚いことに疑問を感じずにはおられません。
マンション住人は被害者であるのは確かですが、相場よりも 異常に安い物件を買っている時点で自己責任を問われる部分も 多々あると思います。
公営住宅に無料入居などはまだ理解できますが、建て替え費用の うちの共用部分の三分の二を税金で補填となると、公金を私人の 財産保全に使っているとしか思えません。
災害被災者の方や欠陥戸建の被害者の方へは、ほとんど何の支援も しないのに、今回だけ税金で何でも補填するのはおかしいと思います。 欠陥住宅被害者の方が、団体で国に補償を求めるなどは されないのですか?
私はぜひやるべきだと思うのですが。
今回のマンション住人を税金で助けるのならば、本人の責任ではないのに 住宅に問題が出た場合は全部平等に補償されるべきだと思います。

神戸市西区  H子  30代主婦 』

そこで、この方に対するお返事という形でこの問題についての論点を取り上げてみたい。

二、 今回の政府のすばやい補償問題発言や対応に私自身も驚いている。私が30年来取りくんでいる欠陥住宅被害者(それは主として戸建住宅の被害者であるが)、建築基準法令の定める構造基準を大幅に手抜きされながら行政に違法建築の告発をしても、警察に詐欺事件として告訴をしても、欠陥(原因)が明白であるにかかわらずなかなか話に乗ってももらえず、挙句の果ては「民事問題に介入できない」とすげなくシャットアウトされる。そこでやむなく正す会の門をたたいて、私費で建築士に欠陥調査・鑑定を頼み私費で弁護士に欠陥についての賠償請求訴訟代理を委任して裁判手続きに踏み切らざるを得ない。
  最近は東京・大阪の裁判所に建築専門部ができたり、最高裁民事局の肝いりで建築士調停委員を活用して訴訟事件を調停手続きに移して事情聴取させ、現場を見分させて、裁判官の専門的・技術的知見不足を補わせるいわゆる移付調停が各裁判所でおしすすめられた結果、以前は4年も5年もいや10年もかかった欠陥住宅訴訟が、大阪では2年程度で一審が終わり、ほぼ解決するようにはなってきている。
  だが一審で勝訴しても悪徳業者や悪徳建築士は、クロシロと言いくるめて控訴上告を繰り返し、その間に早くても5・6年の年月は流れる。その結果、たとえば基礎や骨組みに重大な欠陥があって取り壊し建て替えをしなければ相当補修できないことが認められ、ようやく手抜き業者らに取り壊し建て替え代金相当損害賠償請求が認められても、すんなりとその支払いがされず、時として長年月の間に業者が倒産して判決は得たけれども結局は賠償金の回収ができず、悔し涙でくれている被害者も多い。
 でも我々は今までの日本の法律体系を尊重する限り、当事者で紛争を解決できなければ司法手続きに頼らざるを得ないと思い、個々の裁判例で消費者サイドの判例を獲得することが、共通項としての制度改革に結びつくものと確信してきた。
 我が国で初めて昭和59年末、民法634条の解釈上不可能といわれた先の取り壊し建て替え代金賠償を勝ちとった後ですら、訴訟手続きの渋滞に悩みその結果勝訴判決を獲得しても現実の賠償金が獲得できず、悲憤の涙に暮れる被害者を見続けてきた。それになんらの手を差しのべることが出来なかったことが重く私の心に押しかかっている。
 このような次第で、私も姉歯事件で政府が自ら欠陥マンションの取り壊しと立ち退き費用等の補償問題を持ち出して、大々的にマスコミに報じさせたのには驚いている。この件について問題点を煮詰めてみたいと思う。

@、 今回の欠陥マンションよりの立ち退き取り壊し命令はどのような法律的根拠に基づいているのか。
 私見によれば行政がそのような命令を出すことのできる根拠は、建築基準法第10条の「保安上危険であり、衛生上危険である建築物に対する処置としての建物の除去、使用禁止」の命令で、命令権者は国交大臣ではなく建築主事を置く地方公共団体すなわち「特定行政庁」である。この点がマスコミでも理解されていず国交大臣の採った措置と思われているのならば問題の理解を複雑にする。メールにあるように欠陥住宅被害者にとってはそぐわない気持ちを起こさせる。参考までに取り壊し建て替え代金を認定されている欠陥住宅でも、今まで特定行政庁から立ち退きや除去を命じられた事例はなく、勝訴判決が確定していても除去代金の、たとえば三分の二を国または地方自治体から補償するなどといわれた事例はない。でも今回の措置が先例となるならば憲法14条の法の下の平等の見地からは、同様な措置が採られるべきだとの気持ちが他の欠陥住宅被害者や一般消費者事件被害者から生まれるのも当然であろう。

A、 今回の国交省の対応措置の前提としての姉歯建物が著しく保安上危険との見解はずいぶん早い時期に出されているが、単に姉歯氏が構造計算を偽造しそれに基づく構造設計がされたということだけの報告だけからなのか、欠陥住宅裁判を経験した者なら誰でも経験することだが、法定の構造基準が手抜きされていることが明々白々であっても、悪徳業者や悪徳建築士が認めなければ訴訟手続きが進行し、被害者側において手抜きの事実の立証責任を負担させられる。そして一審で粘られ控訴上告と手続きが続くのである。今回の姉歯事件の場合、もし国交省が今回のような措置を出さずマンション被害者が訴訟手続きをしたならば、姉歯氏や関係する施工会社、販売主はたまた民間の確認検査機関もきっと争ったことであろう。逆の言い方をすればこれら関係者の言い分も聞かないで今回のような措置に出ることは、加害者である姉歯氏らの裁判を求める権利と裁判上の防御権を奪ったことにならないのであろうか。このようなことを言うと、本来被害者側にある私の発言を奇異にとらえる方もあろうが、憲法上は犯罪被疑者も防御の権利を持っているのである。
  以上長々と説明したのは、今回の国交大臣の措置が結果としては正しいものであっても、国法上は三権分立の枠組みからはみ出るものではないのだろうかということである。  現にマスコミ報道をみていると、今回の補償の国交省側の根拠となった民間確認検査機関の責任(過失)の件についても検査機関の側では構造計算書の検討について国側つまり省令に定める手順に従って為したもので、姉歯氏の偽造が発見されなかったとしても無過失であるとの発言がされている。だとすれば一般欠陥住宅被害者のように民事訴訟手続きによれば当然同機関は過失を否認するであろうし、同機関の防御権をワンランク上の行政機関が封じ込めてしまったことにもなる。

B、 もう一点マスコミにはあまり報じられていない法律上の論点を述べるならば、退去命令の根拠としての「著しく保安上危険」の具体的根拠を「震度5に耐え得ない程度」をもってこれにあたるとしているようである。仮にその行政解釈が相当なものであれば、裁判手続き上震度5にも耐え得ない欠陥住宅であると認定されれば、行政はこの命令を出すべきこととなるが、この程度の耐力すらないと裁判上認定されている欠陥住宅も多い。そのことは当局の念頭にあるのだろうか。そして法定基準(構造方法)の遵守の有無によって耐力判断をする木造住宅のときはどうするのだろうか。

C、  最後に欠陥マンションの住民に対する補償問題で国や特定行政庁がこれに応じる具体的根拠規定は無い。今回の場合は最近出された最高裁判所判例を基に、民間の確認検査機関が行う確認手続き業務は本来特定行政庁がなすべきものを行っているものとして、同機関の不法行為(今回の計算書偽造見過ごし行為)について、監督者である特定行政庁はその責任を負うということを前提に特定行政庁に除去費用等の住民補償をなすべきと解釈しているように思えるが、もしその立論が正しいものとしてもこのことに関して国が特定行政庁に補助金等の援助をするというのであれば、憲法14条の問題が生じるのではないか。

三、 メールにあるように確かに一般の欠陥住宅被害者は今回の政府の素早い措置に違和感を持っている。当然一般の欠陥住宅被害者にも、少なくとも取り壊し建て替え相当が認定されている確定判決を得ているものには同様の措置を講じるべく要求すべきものであろう。ただ政府は既存不適格の建物についても公費を投入して調査を進めるとしているが、長年欠陥住宅被害を取り扱ってきた体験感からすれば、法律上相当な構造耐力を欠くマンションはかなり存在するのではないかと思う。マンションは多数住民が住んでいるから特に危険で調査が必要であるというのであれば間違いである。戸建違法住宅は数多く、密集した市街地に存在する。放置されていれば欠陥マンション同様の危険を近隣に及ぼす。
 それに政府のいう調査がされた場合今回と同様の措置が国家財政上とれると思っているのであろうか。
 私も欠陥住宅被害体験者のひとりとして、メールを寄せられた消費者の言われるように全面的に欠陥住宅被害者の相当補償を国に求めたい。といっても商品被害は住宅のほかにも無数にある。これらの被害者にも国家が同様の補償をできるのであろうか。
 憲法14条を考えれば、にわかに欠陥住宅被害者だけが国家に補償を求めることにも躊躇感がある。
 我々欠陥住宅被害者は、勤倹の末蓄えた頭金を元に住宅を購入し、欠陥に悩まされながらもローンを払い続けている。このような困難な中でも現在の法律秩序を守って、その枠組みの中で訴訟手続きなどの相当手続きをとっている。
 国家があってこその国民であり、マイホームである。
 良識があるならば国家財政の破綻を導くような運動に踏みきる事には躊躇せざるを得ない。どのような被害補償を求めるかは国家の実情を見ながら慎重に考えるべきであろう。

四、 このような結論に至るのも今回の政府措置が、元をただせば現代の日本は資本主義社会であり特に小泉内閣以降官から民への自己責任の原則が強調されていることに悖るからである。マイホームの取得はもとより自己責任で為すべきが原則である。したがって欠陥住宅問題も従来からこの原則に従って、契約当事者間や住宅生産に責任のある者との間で民事紛争として解決されてきた。ならばこそ我々欠陥住宅被害者も民事上の迂遠な手続きに甘んじ、損害賠償請求(瑕疵修補請求)という形で自力解決してきたものである。
 ところが今回の姉歯問題に至ってどのような見地からかは知らないが、主務官庁である特定行政庁を飛び越え、国交大臣が国家または公共による援助を持ち出したのである。確かに今回の欠陥マンション住民は自力解決が甚だしく困難で、単純に考えればこの国の措置は大向こうの喝采を受けるかもしれない。しかし法治国家である限り憲法の原則である第14条の法の下の平等は守らなければならない。今回のマンション住民と他の欠陥住宅被害者や一般消費者事件被害者との間では不公平感が生じる。
 マイホームが自らの労働と蓄えによって取得する自己責任の原則に立つ以上、にわかに国交大臣が今回のような発言をすることに疑問を感じる。さしあたっての危険除去の困難者には特に今回のマンション被害者だけにではなく、困窮者または社会的弱者に対する社会保障の見地又は切り口で解決すべき問題だと思う。
 もとより姉歯問題が放置されてよいわけはない。これを機会に建築士法・建設業法・民間確認検査機関や住宅性能保証制度などの検討改正などがなされるべきである。
 特に、マイホームが重要な国家施策である以上、安全な住宅取得に関する消費者保護の法的対策をおろそかにするべきではない。

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