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  ど こ へ 行 く の か 姉 歯 問 題 

――肝腎の一般欠陥住宅被害者の救済や業者対策が忘れられている――

 姉歯事件の対策として国や公共団体による補償だけが、国からもマンション被害者やその支援団体からも叫ばれている。そして肝腎の販売業者、施工業者、マンション企画会社の民事上の賠償問題が影を潜めている。国や自治体による補償を進めることは結果として国民の税金で手抜き業者の尻拭いをすることとなる。

欠陥住宅を正す会 代表幹事
弁護士  澤田 和也

1、  昨年11月17日突如として姉歯問題(構造計算書偽装事件)が報じられ、間髪を入れず国交大臣の姉歯マンション被害者救済補償の声明が出されて以来、マスコミのみならず被害者支援団体までが国家補償を要求し、国の対策案も建築士対策とそれに関連する建築基準法改正に重点が置かれている。本来的には被害者の救済は瑕疵担保責任者や賠償義務者に対する民事賠償問題であるはずなのに、姉歯マンションの設計業者や施工業者やマンション開発企画業者(総研)に対する賠償請求問題の追及が影を潜めている。

2、  欠陥住宅を正す会では事件発覚後の12月10日大阪で、同月17日には東京で姉歯問題についての緊急シンポジュウムを公開した。その詳細はすでに同会より発行されている 『欠陥住宅を正す会 確認計算書偽装事件論文集』 にまとめられている。また同会のホームページにも同論文集が載せられている。その骨子は今回の手抜きの特徴は設計の手抜きであり、もし施工会社や販売会社やら関係業者が構造計算書偽装を求めたり又は安全性に欠けることを知っていなければ、その偽装された構造計算書に基づく建築確認書どおりに施工し、販売していたとしても民事上の賠償問題はさておき、刑事上や建築関係法令上の違反に問われることはないということである。現に姉歯問題発覚後販売業者ら関係業者は姉歯のみの責任であると声高に叫び続けた。その真意はいま刑事捜査当局にゆだねられているが、その進展については報じられることもなく逆に国や特定行政庁による補償問題が浮き彫りにされて、全ては姉歯が悪い建築士が悪いとの雄叫びの中に終わらせようとしているかのようである。

3、  同論文集の 『一消費者からのメール 姉歯事件マンション・・・』 で引用されているように、関係業者らの民事上の賠償問題をさておき国がいち早くマンション被害者補償問題を打ち出すことは全くの筋違いであって、民事上の賠償義務者に対する責任追及が不可能であった阪神淡路大震災の個別被害者に対しても国が直接補償を拒絶したことと比べて余りにも偏った措置である。もし国がそのような補償をするというのであるならば、他の一般欠陥住宅被害者や偽装商品事件被害者らに対しても同様の措置をすべきであり、また求めるべきであるというのがそのメールの骨子である。

 全く正鵠を射たメールであり、もし国が民事上の賠償義務者の責任追及をさておき被害者補償をしたならば、結局国民の税金で姉歯事件関係業者の賠償責任を肩代わりすることとなる。 本末転倒も甚だしい、といわねばならない。

4、  参考までに国の補償責任の根拠は、確認検査機関(国交大臣が認可)が偽装図書によって誤った確認通知を出したことによると報じられ、支援団体もそのような民間機関を選んだ(指定した)ことを根拠としている。しかしこの法律構成が妥当しないことについては先の確認計算書偽装事件論文集の 『緊急シンポのご報告』 の中で詳論した通りである。
仮に問題機関が誤った確認通知をしたものとしても、限られた時間と予算と人員では要点のみのチェックとならざるを得ず、国交省から示された要件どおりのチェックがされていたとされたならば、尽くすべき注意義務を尽くしていたこととなり、民間機関(担当者)の責任は発生しないとも考えられる。如何なるチェック体制も巧妙な犯罪行為の前では無力であることを思えば、まだ刑事上、民事上の事実関係の究明がされていない段階では直ちに民間機関に責任があるとは断じることは出来ない。また仮に同機関に責任があるとしても、それについて法律上国に監督責任があるのではなく、建築主事を置く地方自治体である特定行政庁である。国や国交大臣が補償問題を言い出すべき筋合いのものではない。
  したがって今回の国交大臣の言明や措置は民事上の賠償問題を離れた又はその次元を超えた政治的判断の表明と見るべきものであり、本来であれば憲法14条の法の下の平等の原則からは一般欠陥住宅被害者をも含めた消費者事件被害者救済の緊急立法に俟つべきものである。

5、  以上が本来的な姉歯事件の被害者救済の道筋であるのに、マスコミでも政府による補償問題と支援団体の政府に対する補償要求のみが報じられ、時々非姉歯マンションの誤った構造計算書に基づく確認通知による施工の問題が報じられるだけとなっている。欠陥住宅を正す会のシンポででも論じられたように、マンション販売業者らの民事上の責任追及が論じられることがなく、国に対する補償問題だけが重点的に取り上げられるのであれば、高笑いするのは誰であろうか。上記論文集でも触れられているように本来的には姉歯建築士は相当な設計料さえもらえれば、あえて構造計算書を偽装する必要も無く、正しい構造計算をするよりも偽装をするほうが却って手間取るぐらいで、構造計算書偽装による直接のメリットはなかったものと見られる。逆に偽装された設計図書で配筋の手抜きが出来れば施工原価の低廉に連なり、施工会社や販売会社などの利益に連なるものである。
このことからむしろ姉歯事件の首謀者は偽装図書によって利益が得られる施工、販売関係者であると見られ、しかも姉歯事件の首謀者如何にかかわらず被害者に対しては売主として瑕疵担保責任を負担し又は製造者や企画業者として不法行為責任を負わねばならない者達なのである。
このような観点から国や地方自治体による補償問題だけが強調され、関係業者に対する民事上の責任追及が世上忘れられようとしている現在の流れに私たちは危惧の念を深めるものである。

6、  “姉歯が悪い、建築士が悪い、だから建築士制度の改革が必要だ、あわせ建築基準法令上のチェック機能強化改正が必要だ” などという方向にだけ解決策が流されて、この事件を機会に掘り下げるべきであった一般欠陥住宅被害者の救済問題や設計や建設(施工)業界や不動産取引(販売)業界に潜む手抜き体質の是正、施工技術確保義務強化や重要事項告知義務の拡大などについてはほとんど触れられることがない。

7、  これでは姉歯事件という阪神大震災と並ぶ欠陥住宅問題を浮き彫りにする教訓事例が、正しい原因追求つまり設計・施工・販売各業界に共通する もたれあい の手抜き体質 の解明・是正に向けられることなく、姉歯建築士だけの背徳事件に押しやられ葬られるだけである。欠陥住宅被害者救済の原点に戻って欠陥住宅発生の根本原因を正す方向に舵を取り直すべきである。 姉歯事件被害者救済に取り組んでいる全国的支援団体も、ただ「民間検査機関を国が指定し、その指定された機関が相当なチェックをしなかったため姉歯の偽装による被害を招いた。だから指定権者の国は姉歯事件被害者に補償すべきである」と叫ぶだけで、この底に潜む設計・監理業界の手抜き体質の是正と、何よりも賠償義務者である設計(元請)会社、施工会社、マンション販売会社、開発企画会社に対する賠償責任追及の運動展開をしない限り結果としては手抜き業者の責任を国民の税金で穴埋めさせることとなる。悪徳業者らの高笑いが聞こえてくる気がしてならない。

(平成18年4月6日)