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 You've got m@il. と Sleepless Seatle(邦題「めぐりあえたら」) の間にあるもの

秋好 浩

 表題の「You've got m@il. と Sleepless Seatle の間にあるもの」であるが、それは一言でいうと「韻を踏む」それも噛み締めるようにということである。それではこの2作にいやそれ以外の作品でもそうであるかも知れないが、まず思い付くのは総てが恋愛をテーマにしていることがあげられる。しかし、それではあまりにも陳腐なので補足するとこの2作品実はリメークなのである。リメークにもいろいろスタイルがあるがこの2作品に共通するのは、先に往年の恋愛ものの名作をそのままリメークするのではなく、「韻を踏む」ところはきちんと踏んでそれ以外のところは現代にあうように監督流の翻訳をするのである。次に具体的にリメークについての説明をする。

 Sleepless Seatleはなんのリメークかというとこれはその映画のなかでも登場するが「めぐりあい」である。出合いのきっかけエピソードなどは似ても似つかぬこの2作品であるが、バレンタインデーにエンパイヤステートビルでというしばりをきちんとかけている。それゆえ私はこのSleepless Seatleがきちんとリメークであることを念頭におき、「めぐりあい」、「めぐりあえたら」という韻を踏んだ邦題に翻訳した人のセンスに脱帽するものがあった。

 それではYou've got m@il.はなんのリメークかというと、1940年製作の「The Shop Around the Corner」(邦題: 桃色(ピンク)の店)なのである。残念ながら今回は「めぐりあえたら」のような韻を踏んだ邦題ではなかったが、そこまで望むのはちょっと酷であろう。映画の中で様々な前作をほのめかす台詞回しや場面を紹介することも出来なくもないが、ここでは一番重要なしばりだけを紹介することにする。それは前作がmail(手紙)がきっかけの恋愛であるのに対し、今回はm@il(電子メール)が総ての始まりという点である。

 次にYou've got m@il.の小物にまつわる韻の踏み方を紹介しよう。それは総ての始まりを司るコンピューターである。映画の中での場面設定に関わってくるが、ニューヨークで母の代からの小さな書店を切り盛りするメグ=ライアンとすぐ近くに大書店をオープンする商売敵のトム=ハンクスという書店の規模とキャラクターを反映して、メグ=ライアンが使っている機種がMacのPowerbookでトム=ハンクスが使っている機種がIBMのThinkPadという懲りよう。Macはジョブズが復帰するまでは夢は大きいけれど業績はそれに伴わず低迷続き。方やIBMはいわずと知れたコンピューター業界の巨人。この対比は書店とコンピューター、業界こそ異なれ明らかにメタファーとしてコンピューターという小物を選んでいるのではないでだろうか?この手の対比というのはSleepless Seatleにおいて、同じニューヨーク行の飛行機でも、大柄なトム=ハンクスがせまいエコノミーの席に窮屈そうに座っているのに対し、小柄な息子はひろいゆったりとしたビジネスに座っていた対比を思い出さずにはいられなかった。

 さるコンピューター雑誌の記事でもう少し公開が後になっていれば、メグ=ライアンはiMacを使っているのではとコメントしている人がいたが、iMacという今の元気なAppleを象徴している機種を使うのは私は映画上でメグ=ライアンが置かれている状況からはあまり似つかわしくないと考える。むしろSonyのVaio Noteにおされ発売当初こそ革命的といわれたが、今現在は苦しい状況のMacのPowerbookを使うことによって、商売敵の登場による業績悪化の小さな書店を経営しているメグ=ライアンの現状がマッチするのである。ちなみに我が「劇場分子」の使用機種はiMacであることをここに付け加えておく。

 最後に、この監督はアジア的なものに対する造詣が深いのではないかと感じる点について説明することにしよう。You've got m@il.のオープニングタイトルを聞いてまず思い付くことは、ウォン=カーウェイ監督の「恋する惑星(原題:重慶森林)」でフェイ=ウォンが歌っていた曲だと気付く点であろう。どっちがカバーであるかはさておき、「恋する惑星」を観た人はまずオープニングタイトルを聞いてそれを思い出さずにはいられないと思うが如何であろうか。そのような細かい点を始めとしてこの両作品を観て私が強調せずにはいられない点は中国の故事「運命の赤い糸」である。Sleepless Seatleにおいてはラジオという色の無い線がふたりを結び付け、You've got m@il.においては電話回線を用いたインターネットがふたりを結び付ける?のかどうかは絶対映画館で観てもらうことにして話を次に進めると、映画の中で監督はトム=ハンクスにさんざん「ゴッドファーザー」フリークというまえふりをする。そして、こういう台詞をしゃべらす。「ゴッドファーザー人生のあらゆる示唆に富んでいる。」、「中国の格言に精通している」といった要旨であるが、そのような台詞を聞くにつれますますこの監督の作品のベースが中国の故事「運命の赤い糸」あるのではないかと感じるのである。(第1号ボツ原稿)