〈森との関わり … バーベキューの夜は更けて〉
  「嫁ハンがそんなに山が好きなら今度一緒に連れて来やはったらよいのに」
「アカン、アカン そんなことしてみィ、これはシメたとばかりに毎日こき使われるがな。」
 日頃発する言葉はめし、ふろ、酒、寝るぐらいの幼稚園にも劣る語彙しかなく、 相談ごとは馬耳東風と聞き流し、家事はすべて嫁ハンがするもンと決メ込ンで亭主関白で通していた彼。
 山に来れば一転スルハスルハ。
 嬉々として鮮やかな包丁さばきで葱をきざみ、にんにくをすりおろし、シャッチョコばった講釈を垂れながら絶妙なタレを作り、炭をイコラせ、それぞれの特質を生かしたタイミングで滞ることなく焼き上げ、しかも飲む手も緩めず、更には酔った勢いにも負けンと喰イ飲ミ散らかした残飯やら吸殻に至るまで甲斐甲斐シク片付ける。

 翌日の作業でも鋸、鉈、鎌、ヤカンの準備から、イバラとの格闘の下草刈りも厭わず、ナンギな間伐作業中の〈かかり木〉処理も多少苦しんでいる演技はするものの余裕綽々楽しんでいる。 
 こんな彼の姿を見れば翌朝からこき使うどころか「今までの私の苦労は何だったン? 結婚詐欺で訴えてやるう!」となってしまうではないか。

 非日常はかくも楽しい。森に触れることで諸々の雑事から開放される。
 楽しい仲間がいるからなのか。森が大好きだから来ているのか酔った頭では判然としない。多分両方なのだろう。しんどいきこりの真似ごとをしてどこがおもしろいのかと世間の人は不思議に思うだろう。同じ気質を持った極少数派ゆえに年齢差30歳を越えて繋がれるのだろう。

  「高尚な趣味だ。」と自信を持って言える。森に入ると《自然に抱かれる》という感じがする。平和な森の民たる縄文ビトの末裔を実感できる。
                                    (H)

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