ちかごろ思う事

 

大相撲名古屋場所14日目

平成13年8月7日

生まれて初めて大相撲を観戦しました。
子どもの頃、遠い親戚だった矢作川関、といってもご存知の方はいないと思いますが、
十両までいった力士がいました。
その方に連れられてよく巡業先に見に行ったので相撲には興味があり、
一度本場所を見たいものだと思っていました。
 知り合いにIさんという谷町に関係されている方がおり、
一度大相撲を見たいと話したところ、「名古屋は7月だが、いつがいいか」と言われ、
千秋楽だと優勝が決まっている可能性があるので「14日目」と言ってしまいました。
その時は、まさか武蔵丸、魁皇の優勝決定の大一番に当たるとは思っても見ませんでした。
しかも一緒に行ってわいわい騒ぎながら枡席で見るものと思っていましたら、
一人の席とのこと?
「まず着いたら森川という茶屋へ顔を出すこと。
そこで券を見せると若い衆が案内してくれるから付いていくこと。
席に着いたらお捻りを上げて欲しい」
と言われました。
当日、言われた通りにして森川茶屋の若い衆に案内されて中へ入りました。
そして通されたのは何と東の控え力士のすぐ後ろの席でした。
砂かぶりとはよく言ったものです。
もし、もつれて力士が飛んできたらひとたまりもありません。
席に着いた時、中入りで土俵を掃き清めているところでした。
まず感じたのは土俵はテレビで見るよりも狭いなあということでした。
やがて中入り後の土俵が始まりました。
私の前に現れたのは朝乃若、そんなに大男ではありません。
西土表は寺尾です。
テレビでは長く感じる制限時間もあっという間に終わり、立ち会いです。
寺尾が突っ張っているなと思ったらもう終わっていました。
どうも雰囲気に飲まれたのか相撲が見えません。
それに私のすぐ前には控え力士がどっかりと座っているので、
横からのぞき込まないと見えないこともあるようです。
また次に現れたのが北桜、この人は大きいです。
後ろにいる私は汗びっしょりの背中と端が少しすり切れたまわしが見えるだけです。
この人は塩もいっぱいまきますが、汗もいっぱいかきます。
やー、暑苦しい。
10番ほど経つとやっと相撲が見えるようになってきました。
追風海対闘牙 追風海という小柄な力士は気っぷのいい相撲を取るので私の好きな
力士の一人ですが、今場所はどうも調子がよくありません。
一方の闘牙は張り手専門の品のない相撲を取る力士で私は好きではありません。
何とか追風海に勝って貰いたい一番です。
立ち会い当たった瞬間に追風海が左前まわしを取るのが見えました。
はやい!そしてそのまま相手に体を密着させてしまったため、
闘牙は突っ張ることも張ることも出来ず、そのまま土俵を割ってしまいました。
追風海会心の一番です。
琴光喜対雅山 お相撲さんはまず土俵へ上がると四股を踏みます。
この四股の美しさはテレビでは充分表現できていないのではないでしょうか。
二子山部屋勢の四股のうまさには定評があります。
とくに貴乃花は足が垂直に上がりきれいだと言われています。
ここで見ているとその優劣がよく分かります。
二子山勢以外ではモンゴル勢がきれいな四股を踏んでいました。
特に旭鷲山はきれいでした。
一方武蔵川部屋の力士(武蔵丸、無双山、雅山等)は足が上がりません。
特に雅山は大腿は上がるのですが、膝関節が常に直角に曲がっているので
何ともかっこわるい四股です。
しかも、いつも「ゆるふん」で、すぐまわしが上がってしまいます。
(但し今場所は注意されたのか目立ちません)
何でこの人が雅なんて優雅な名前を付けたのか不思議です。
一方、岡崎期待の琴光喜は非常に頭の良い力士です。
相手によって取り口を変え、おそらく思い道理の相撲を取っているようです。
しかし、若さに任せたがむしゃらなところはありません。
今場所も非常にいい相撲を取り、場内を沸かせますが、いまいち勝ちに恵まれません。
さて、注目の立ち合い。
雅山が突っかけ琴光喜待った。
二度目の立ち合い、なんと琴光喜が一発張って諸差し、ここが勝機と一気に寄りました。
この辺が琴光喜のいいところ。
しかし、次の瞬間、無様に土俵の外に吹き飛んだ雅山と土俵な中央でばったりと手をついた
琴光喜の姿がありました。
軍配は西、雅山。
物言いはつきませんでした。
相撲に勝って勝負に負けた一番でした。
私の前の控え力士には千代大海が入りました。
彼の左肩には大きなテーピングがしてあります。
これは昨日まではなかったはずです。
ということは昨日、魁皇の小手投げで痛めたのでしょう。
魁皇の右は非常に強い。
先場所も右小手投げで一人休場させています。
結びの一番、勝てば魁皇の優勝が決定する武蔵丸戦が気になります。
魁皇も武蔵丸も腕力が自慢の力士です。
でも、力から言えば武蔵丸に分がありそうです。
武蔵丸に勝つためには昨日の栃東のように武蔵丸の左にくっつき横から攻めるしかありません。
魁皇にそんな器用な相撲は無理のような気がします。
勝機は唯一右上手をしっかり取り、必殺の上手投げを打つことでしょう。
(魁皇の小手投げは攻め込まれて放つ捨て身技で武蔵丸には無理な気がします)
そんなことを考えているうちに制限時間いっぱいとなり、待ったなし!の行司の声、
無双山が突っかけ千代大海が待った。
そういえば、雅山も早く立って琴光喜に待ったをさせました。
武蔵川勢の「ゆるふん」が今場所は目立ちません。
これは先場所貴乃花、無双山戦で貴乃花に力士生命を断つかもしれない大怪我をさせたのは、
無双山の「ゆるふん」の性だと私は思っています。
貴乃花の左からの投げが決まったと思った瞬間無双山のまわしがずるっと伸びてしまい、
不自然な形で倒れました。
あれがなければ貴乃花は怪我をせずにすんだはずです。
それで多分注意を受けて今場所はしっかり締めているのだと思われます。
その代わり早く立って待ったをする戦法に出たのかもしれません。
再度立ち合い。
なんと、無双山が立ち後れた。
あわてて引いたところを千代大海の回転の速い突っ張りに一蹴されてしまいました。
「この一番にて本日の打ち止めー」と呼び出しの声が響きます。
大歓声に包まれて魁皇、武蔵丸が土俵に上がりました。
魁皇の顔、迷っているように見えます。
武蔵丸はひょうひょうとした顔で四股を踏んでいます。
蹲踞のかまえ。
魁皇やや遅れて入りました。
マイペースというより迷っています。
「時間です」と呼び出しの声。
魁皇はざる一杯の塩をつかんで土俵に上がりました。
吹っ切れたのでしょうか?
やや遅れて蹲踞のかまえ。
軍配が返る。
ごつんという音を期待していましたが、
ふわっと立ちました。
一瞬、待ったかと思った次の瞬間、魁皇は武蔵丸の左にくっつき、
右上手をしっかりとるのが見えました。
どうしてそんな最高の体勢になったのか不思議です。
魁皇はそのまま西土表に寄り、小さな右上手投げを打ちました。
それを武蔵丸右へ回り込んで残します。
ここで信じられないことが起きました。
なんと魁皇が左下手を取りにいったのです。
馬鹿!止めろ!しめたと武蔵丸は寄りながらその下手を太い腕で抱え込みにいきます。
きめられたら万事休す!
その瞬間、魁皇の必殺の右上手投げが炸裂しました。
あとは大歓声と座布団の乱舞が続きました。
後で何度もビデオで見ましたが、魁皇が左下手でまわしを取りにいったのは、
武蔵丸の右腕を前に出させるための、陽動作戦に違いないと確信し、
相撲道の奥の深さを実感しました。
こんないい日に行かせて貰い、日本伝統の武道を堪能でき、
Iさんには感謝、感謝の一日でした。

Akihiko Fukada